「国民健康保険料滞納」報道は本質を突いていない~問題の中心は資格証明書発行ではない | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

「国民健康保険料滞納」報道は本質を突いていない~問題の中心は資格証明書発行ではない

<無保険者>全国30万世帯以上 国保料滞納で保険証使えず
 国民健康保険料の長期滞納を理由に、医療費の全額自己負担を求められる資格証明書を市町村から交付され、保険証を使えない「無保険者」が04年度、全国で30万世帯以上に達したことが、毎日新聞の全国調査で分かった。資格証明書は滞納対策とされ、交付数は00年度の3倍に増えたが、滞納世帯数は逆に上昇した。(毎日新聞)」

国保滞納し保険証返還 受診遅れ11人死亡 札幌も2人  
 国民健康保険(国保)の保険料を滞納して保険証を返還し、医療機関の受診の遅れから病状が悪化、死亡したとみられる患者が過去六年に少なくとも十一人いたことが二十八日、共同通信の調べで分かった。患者のほとんどは不況の影響などによる低所得者という。滞納世帯は年々増加し、保険証を返還した世帯は昨年六月時点で約百三十万世帯。誰でも安心して医療が受けられるはずの国民皆保険制度の中で「格差社会」の一端を示した形だ。 (共同通信)」

共通するのは、表面的な「滞納→保険証を使えない→病院に行けない」だけを取り上げているということです。

ではまず、滞納の原因は何なのでしょうか。

まず、国保の保険料が高くてしかも負担感が強烈であるということです。

和光市の場合 についてリンク先をご覧になり、サラリーマンの方がご自分の所得を当てはめれば負担感がよく分かります。ちなみに、和光市の国保は取り立てて標準から外れた水準ではありません。

また、サラリーマンの場合、基本的に会社や役所が保険料の半分を負担するため、本人に負担感があるのは半分です(もちろん、実際には雇用主が払おうが本人が払おうが金の出所は同じですが)。つまり、国保の負担感は普通の健保や共済の倍なのです。

もう一つ、政府管掌の健康保険以外という注釈つきですが、健保や公務員共済については国保と比較して保険料の上限が低く抑えられているケースがほとんどです。

理由はというと、基本的に老人を抱えないしくみになっている健保や公務員共済は財政が国保より楽であり、その余裕分が負担を軽減しているのです。本当は健保や共済に入っている高所得者はもう少しは保険料を払えるのです。また、同じ所得の国保加入者は払っているのです。(払えるけれど、払うべきかどうかはまた別問題ですが。)

次に言えるのは、国保の加入者の収入の平均値は社会全体の平均値より低いということ。

国保の加入者の年収は低水準です。なにしろ、老人と、アルバイト、パートの世帯、そして、法人化しておらず、政府管掌健康保険に加入していない一部の個人事業主が国保の加入者です。

年収は高いはずがありません。

また、国保の加入者には、滞納になりやすい致命的な要因があります。それは、国保の保険料はパートやアルバイトでも天引きではないということです。

健保や共済においては、滞納はほとんどありません。なにしろ天引きなのですから。

一方で、負担感が強烈に重く、支払い能力に疑問のある人の多い国保なのに、パートやアルバイトの保険料は天引きではありません。(話はそうそう単純ではないわけですが・・・。)

そのため、ついつい保険料を払わない人も出てきます。

もちろん、給与所得者以外の加入者がたくさんいるわけですが。

さらに、ちょっと話題が錯綜しますが、自治体ごとにいろいろな減免制度があるということや、その記事の対象者が自治体と減免等についてどのようなやり取りをしたかということはこれらの記事では見えません(せっかくだから知らせておくのも報道の使命でしょうに・・・。この制度について耳打ちしてもらえる特定の層だけが減免を利用するのでは公平性に欠けます)。この周知は自治体がやるべきなのですが、あまり熱心には広報していません。知っていれば、滞納にならないかもしれないのに。もちろん、前年度の年収で減免の判断をする場合がほとんどですから、急に年収が減れば減免制度とは関係なく滞納が発生しやすいといわれているのではありますが。

また、これだけ保険料が高くても国保の財政は火の車です。

和光市の場合も法律で定められた補填額とは別に年5億以上を一般会計から補填しています。

何しろ、お年寄りが多いから医療費は高いのです。そして、低所得者が多いから保険料は低いのです。

この国民健康保険の問題については、保険証を取り上げる上げないという近視眼的な報道に騙されるのではなく、制度の全体の再構築について考えるべきだというのが本質です。

そして、再構築において検討すべきなのは、退職者は健康保険組合が面倒を見るべきたということ、そして、それと引き換えに健康保険組合の付加給付や保険料の極端な軽減は整理するということなのではないかと私個人として現時点では思っています。

(ちなみに、政府が制度のあり方について再検討している最中ですが、イマイチ信用していません。)

ただ、この分野に関する私の勉強は不十分ですので、意見は変わるかもしれないことを申し添えておきます。

追記:関連事項ですが、「厚生労働省と社会保険庁は3日、国民年金の長期未納者と長期未加入者について、国民健康保険(国保)を使えなくする措置を導入する方向で検討に入った。

国保が使えなくなると、医療機関に受診した場合の患者負担は全額自己負担になる。年金の未納・未加入者に対する事実上の罰則規定を設けるものだ。実施の具体的な基準を詰めたうえで、早ければ2007年度から実施したい考えだ。(読売新聞)」というニュースが入ってきました。

厚生労働省があくまで保険料方式の範囲でやろうとするのは、税方式だと国税と財務省がいろいろな意味で入り込んでくるからだと私は思っています。