視察報告 岐阜県恵那市 社会福祉法人恵那たんぽぽ その2(「育ち」へのこだわり)
前回のエントリー では社会福祉法人恵那たんぽぽの経営感覚に焦点を当ててご報告しました。
今回は、別の側面からの報告です。この、恵那たんぽぽは経営的にも成功しているのですが、もうひとつ、徹底的な個人個人の「育ち」へのこだわりにも特徴があります。
『恵那たんぽぽ作業所18年目の実践』の冒頭、「たんぽぽのめざすもの」には、
・たんぽぽの全員に対し、一人一人の個別支援活動に合わせ支援し、すみよい環境づくりに努力する
・授産の近代化とビジネス感覚をもって、利用者に少しでも多くの工賃を支払う努力をする
・健康に対して、最大の努力と配慮をする
・地域で受け入れられるために、多くの経験によって社会性を身につける支援をする
とあります。そのために、「トラブルがあるから成長する」という思想の下、独特の体制がとられています。
入所者の居宅には、外からかける鍵がありません。普通の家と同じで中からの鍵のみがあるのです。
問題発生とその解決により、次のステップへ進んでいくという考えだからこそできる体制です。
もっとも、そのために脱出する入所者があると職員の皆さんが大変苦労されたようです。青森まで迎えに行ったこともある、とのこと。
また、中央西線沿線などはほとんどといえるほどあちこちに入所者を探しに行ったという話もあります。
一部の施設はトラブルを未然に防ぐために鍵をかけるなどの規制をしますが、たんぽぽではトラブルは育ちの大切なツールという考えがあるからこそ、規制をほとんどしていないというわけです。(さらには出て行けるということは、なぜ出て行ったのかを考えるきっかけにもなるわけです)
前述のように当初はトラブルが続出しました。このような場合、また、罰を与えたり、叱り付ける施設もあるといいますが、それを一つ一つ、本人と話し合ったそうです。「こんなことをすると心配するし、指導員さんが困るでしょ」などと話し合いを進める中で、入所者が次第に理解し、納得する、というプロセスをたどった結果、今ではほとんどトラブルがないとのことです。
心配してくれる、わかってくれた、などというやり取りが人の成長をもたらすのであって、センサーや鍵では成長は得られないという考えです。手間隙はかかります。しかし、育ちには必要な手間隙だと理事長さんは言います。これまで隔離されてきた人々ではありますが、話をすればわかるのです、と。
この大変なプロセスは多くの施設の逆を行くものです。なにしろ大変ですから。しかし、それこそが納得の末にある、自分で選択する生活です。
本当に、大変な方大変な方を選んでいるのがこの施設です。ただ、前回の報告でもチラッと書きましたが、「成長しなければ意味がない」という考えの下、皆が着々と成長している、と理事長さんは熱く語ります。
もう一つ、この施設では意図的に完全バリアフリーを避けています。
「バリアフリーで数年生活したら、人間の感覚はだめになるよ」とは理事長さんの弁。参考になります。
また、前回も書きましたが、少しでも多くの賃金を支払う努力は、お金の使い方を教える努力へとつながっています。
地元のある方はしみじみとおっしゃっていました。
「あのようなしっかりした経営の作業所はなかなかないと思う。あそこで働いている人は幸せだ」
当初55人だった入所者・通所者は230人になりました。売り上げもグループで3億を越えたとのこと。
基本的に県内の希望者のほとんどを受け止めてきた結果だといいます(基本的に県外からは受け入れていない)。
また、不景気でも給与は下げていません。育てるには働いたなりの給料をしっかり支払う、という信念があるからです。それにより、高いモチベーションが維持されてきたのではないでしょうか。手間隙といえば、もう一つ印象的だったのは、差益の内部化へのこだわりです。なるべく自分で仕入れて差益はすべて取り込むというのがこの法人の方針です。
職員は交代で早朝から市場に仕入れに行きます。米も米屋ではなく農協から買います。これだけでも月に数十万円も浮いているといいます。
また、経済的な自立のベースを作るために、施設の給食も福祉工場で自ら受託(月350万円)しました。これにより、売り上げの安定がもたらされ、施設運営の足腰を強くしているといいます。
「今、菌床しいたけが最盛期なんです。3トンのしいたけを職員が自ら市場に持ち込みます」その口ぶりはまさに繁盛店の経営者そのもの。
(このしいたけ、買ってきてすき焼きに入れたら、本当にぷりぷりで、最高でした。)
最後に福祉施設のイベントについて、アドバイスをいただきました。
「会の結成時から、イベントではしっかりとお金を残すことを心がけてきました。お客さんにもおいしいものでおなかを満たし、しかもお金は置いていっていただく。もちろん安い金額ではありますが。そこで作ったお金が法人のビジネスの原資となるのです。展示中心では一回は来ても次が続きません。」
理事長さんのビジネス感覚と施設長さんをはじめとする福祉職員の皆さんの高い志は、絡み合いながらこの法人を成長させているようです。