ビオトープ観察会 at 和光市立アグリパーク、本町小学校(その2)~ビオトープでまちづくり!
それでは、ビオトープ観察会当日の様子をご報告します。
1.本町小
まず、本町小学校のビオトープです。校門前で参加者の皆さんと待ち合わせ、講師の皆さんと合流して職員室前のビオトープ「本町小オアシスコーナー」に向かいます。
忙しい中、校長先生をはじめ3人の学校の方々にもご参加いただきました。
平成16年、153.7万円をかけて作られたビオトープは、深さ20センチほどのコンクリートの池です。広さは、畳10枚分程度でしょうか。となりには、小さな学習用の田んぼがあります。ここの刈り取りは終わっています。
ここのビオトープの理念みたいなものは特にないのですが、当初の目的としては学校の子供たちのための観察池として作られているのが特徴です。
まず、レジュメを配布、人と自然の研究所の野口理佐子代表とともに、ビオトープのお勉強です(この部分は前回のエントリー記事参照)。ビオトープに関する正確な理解を深める良い機会となりました。
印象的だったのは、自然が教えてくれるんだよ、という野口さんの言葉。
そして、今回の本題、ビオトープの現状分析と診断です。
ここからは、ビオトープの稀有な実務家 三森典彰さんにバトンタッチです。
まずは、周囲を囲むレンガの囲いに着目。
「この段差、ヒキガエルは越えられないんですよ」皆さん目をぱちくり。
「蛙というのはぴょんぴょん跳ぶイメージがありますが、ヒキガエルは歩いて移動します。だから、ここには来られないんです。アマガエルなら大丈夫かな。足の裏に吸盤があるから。ヒキガエルを呼びたいなら、段差を解消する工夫が必要になるのです。ビオトープには明確な目標が必要だということがわかりますね」
軽快なトークで参加者を引き込みます。そして、動植物への深い理解。分類だけではなく、生態にも詳しいから、なぜそこにいるのか、いないのか、など話が途切れません。
「ビオトープというのは地域の生き物と共生するためのツールなので、地域の生き物がやって来てくれるということが大切です」
「たとえばトンボ。上空から地面を目で見て様子を把握しています」そして、植物の生い茂ったビオトープを指して、これで水面が見えますか」
いきなり参加者を指名。
「見えません」
「そうでしょ。植被率という考え方があります。何パーセントが植物に覆われているかという指標ですが、これはどのくらいですか」
「70・・・・・」
「およそ100パーセントくらいいっているのではないですかね。となると、上空を飛んでいるトンボには水面が見えませんから、なかなかやってくるのは難しいですね。ただの草原に見えてしまいます。トンボにきてもらおうと思ったら、水面が出るように管理する作業が大切になります」
そして、タモあみで水中を探ろうとしてあきらめ、「ちょっとお待ちください」
いきなり腰までの長靴(?)を履いてビオトープにざぶざぶと入り、タモあみで水中を探ります。
軽快なトークをしながら、水中の生き物を探します。
そして、シオカラトンボのヤゴを発見。透明なケースに入れて解説です。
「シオカラトンボの成虫は明るいところが好きなんです。それでは、ヤゴはどうだと思いますか」
「暗いところ」
「意外ですがやっぱり明るいところなんです。また、硬いものに卵を産むから、たとえばプールにでもヤゴがいます。体の形からしても、平らなところにとまれるんです。糸トンボは手の形の都合で植物の茎などにしかとまれません。だからプールにはいないわけです」なるほど。
「このようにトンボだけでも種類によっては成虫でも暗いところが好きなものも、暗いところが好きなものもいます。どんな環境を用意するかということは、どんな生き物に来てもらいたいかを意味します。だからビオトープは目的、コンセプトが大切なのです」(ここの話の中でオニヤンマとギンヤンマが同じところにはいない理由が少し見えました。子供の頃からの謎だったのです。三森さんが学校の担任だったら私はもっと生物への興味を掘り下げて人生が変わったかもしれないな・・・・。)
「ミントはここの近隣の植物ではないですから、少なくとも、地元の生き物の観察というコンセプトであれば、ないほうがいいということが分かります。植えるならミントに近い在来種ですね」ミントをつまんで示すといい匂いがふわっと広がります。「これはミントティーにでも使ってもらいましょう。代わりに虫除けを植えるなら、もっと身近な植物です」どのような目的で植えたのか、ミントはすごい勢いで生い茂っています。
「また、この丸い葉の植物、これガーデニングで使う物なのですが、これも外来種ですから、ここにはそぐわないでしょう」
細長い葉をつまみながら「では、この葉っぱ、何か分かりますか」
「ガマ」
「正解です。触ってみましょうか。似たような形の、このマコモと手触りを比較してみてください。手触りが違います。このガマですが、蚊取り線香の代わりに穂を燃すと蚊が来ない、昔、使った方は・・・・?」
(挙手ゼロ)
水辺を探りながら、
「ここの段差のところ、急に深くなっています。これはめだかには不向きです。めだかは浅い水面にいますからこういう地形は向かないのです。」
「水辺の生き物ですが、いつも水の中にいるとは限りません。多くの生き物は水と陸を行ったり来たりして成長します。トンボはヤゴの時期を除いて基本的に空中で暮らします。蛍もそうですね。だから、水辺というのが意外に大切です。また、周囲の木陰や森などもポイントになります。」
・・・・・話題は尽きません。
とにかく、生き物と情報交換をし、近隣に今もかろうじて残っている自然、20~30年前には当たり前だった自然を再現していくのが流れだそうです。作ってそれで終わりではなく、「生物に意見を聞きながら」やって来やすい、住みやすい場所を作っていく気の長い作業になりそうですね。
最後にまとめとして、生物に意見を聞きながら行うまちづくりの話になりました。
地域にどんな自然が残っているのか、そこには何がいるのか、それをビオトープは教えてくれます。それをヒントに、地域の自然の現状を分析し、あるべき姿(たとえば30年前の和光市の自然)とのギャップを分析、そのギャップを埋めるために資源(ビオトープ、公園、残っている森や湧き水)をどう生かしていくかを考えるのでしょうね。資源が足りなければ公共施設などでビオトープをもっと作ってもいいでしょう。
また、他の地域ではこの資源を生かす段で地域の小学生の総合学習の時間とリンクして、生きた教材にもなっています。生き物視点で、また、子供の感性も取り入れた街づくりへの提言が生まれているとのことです。
最初は和光市という小さな地域での試みで、どこまで地域の生き物の多様性と量が回復するか、そして、次はもっと大きな夢にすらつながります。
さて、とにかくいくらでも話が続く中、予定時間となったので次のアグリパークへ。
2.アグリパーク
本町小学校に引き続いて参加のおふたりと講師陣で、アグリパークへ。
到着すると、もう、参加者が来ておられます。
早速、美しいボランティア花壇を抜けて管理棟南側のビオトープへ向かいます。
この池は平成9年、土地改良区の有志の皆さんが自ら重機を持ち込んで作ったそうです。
ここだけの参加者が多いため、最初から解説が始まります。
ただ、野口さんの話のアレンジがうまく、本町小からの参加者をも飽きさせません。
そして、三森さんが再びざぶざぶと水に入ります。ただ、ここのビオトープ、生き物が少ないようです。原因は、でかい鯉。鯉は水中の泥を吸い込んですべての栄養を掬い取ってしまうため、他の生き物には脅威です。
その結果、生き物の影が薄くなっているのが現状です。
それでも悪戦苦闘の末、糸トンボのヤゴやメダカが見つかりました。
また、水辺には井草を発見。
参加者からは「畳と匂いが違う!」の声。
三森さんはぱっぱと対応します。「あれは乾かして泥をぬって、という作業で出てくる匂いなんですよ」
残念ながら、やや貧相な動植物層になっているのが現状だということは何となく分かりました。三森さんは言います。
「どう管理すべきか、ある程度の専門知識があると良いものにしていくのがより容易になります。専門の資格なんかもありますし。私も持っているんですよ」
ある参加者が頼もしい一言。「私がその勉強、やってみようかな」。
うーん、すごいバイタリティです。まちづくりの実務家が一人、産声を上げた瞬間かもしれません。
そして、ここにもなぜかミントが生えています。
「ハッカやしそを植えた方がいいですね」
また、予算で忙しい中、時間を割いて参加してくださった市役所の市民環境部の青木さんも興味津々。さすが担当者です。さりげなく質問をしていろいろと思いをめぐらせていただいている様子。
思わず私も質問。「周囲の花壇のボランティアのフラワーメイトの方が来ておられますが、なにかヒントはありますか」
「ここにある、西洋の花も華やかでドレスのように美しいのですが、日本の花もきれいです。ドレスに対して浴衣とでも言うのでしょうか、控えめな中に美しさがあるという・・・。そういう花を植えてみてはいかがでしょうか」
「日本の原風景への回帰ですね」と涙ぐむ参加者も。うーん、三森さん、ぐいぐい引き込みますねぇ。
そういえば、彼は小学校の体験学習などでは人気者だそうで、その子供に取り囲まれた姿が光景が目に浮かびます。
ここでもやり取りが盛り上がり、一時間のはずだったのがあっという間に時間オーバーになりました。
その後、管理棟で熱いお茶とお菓子を囲んで講師とのトークタイム。寒かっただけに、心まで温まりました。今後の展開についても熱い談義が続きました。
その後、講師の皆さんは再び池で調査タイムでした。
そのフィードバックは後日になるそうです。
このビオトープは、荒川から近いため、工夫次第で多くの生き物を呼ぶことができそうです。
どういう方向が良いのか、今後継続的に見守りたいですね。できれば私も参加したいです。
3.まとめ
和光市の場合、斜面林、湧き水、荒川、樹林公園、国有地の林という中心的な自然にかかる資源があり、これとビオトープとのリンクで大きな夢を見ることができます。
市と市民、それぞれの分野で熱心に活躍しているボランティア団体とが共通の目的を持って環境を考えていく、大きなヒントを貰った気がします。
追記:当日の様子が11月13日の朝日新聞西埼玉版に掲載されました。手に入る方はぜひご覧ください。