視察報告 岐阜県恵那市 スペイン式石窯パン工房恵那峡(社会福祉法人恵那たんぽぽの福祉工場)その1 | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

視察報告 岐阜県恵那市 スペイン式石窯パン工房恵那峡(社会福祉法人恵那たんぽぽの福祉工場)その1

11月4日、社会福祉法人恵那たんぽぽの運営する「スペイン式石窯パン工房」を視察してきました。

ここは、地域の障害児の保護者の運動が大きく花開いた、最もビジネス的に成功している福祉工場のひとつ言えます。

恵那インターから「スペイン式石窯パン工房」と書かれた巨大な看板に導かれ、クルマで10分ほど。山あいの道を行くと、こつ然と(ある意味場違いですらある)ウッディで瀟洒な建物が現れます。ここが名古屋からも通い詰める常連客があるという、評判の石窯パン工房。昼時とあって、駐車場には多くの自動車が停まっていました。

中に入るとパンの甘い香りが漂い、店内には買い物をするお客や喫茶コーナーで食事をする人々の姿が見えます。

明るく、随所に木を使った石窯工房の喫茶室で、理事長の小板孫次さんと理事兼所長の遠山千里さんに話をうかがってきました。

名刺交換しながら感じたことは、どうも理事長に福祉の関係者という雰囲気を感じないということ。物腰のソフトなスーツ姿はどう見ても「やり手の社長さん」です。

早速話をうかがいます。

松本「福祉工場のパンというと、焼きたてはおいしいけれど、パンの味だけで勝負するには物足りないわけです。ここは純粋にパンの味という意味で地域の人々の心をつかんでいるとうかがいます

理事長「福祉施設の職員がパンを作るというのにそもそも限界があります。パンの味で勝負するなら、専門の職人を雇わなければダメです。また、何かトラブルがあったときに職人が作業を妨げられると、そのとき仕込んでいたパンはパーになります。それくらい微妙な作業なんです」

松本「職人さんはパンに専念するということですか」

理事長「そうです。集中させないとダメです。職人ですが、そもそも、パンの職人の仕事を推し量るには修行の経歴を検証しなければなりません。とくに最初に修行した店が大切です」

松本「ここの職人さんはどういう経歴の方ですか」

理事長「フランスを回って修行を重ねた方で、普通の日本のパン職人とはぜんぜん違います。だから、この店のパンのルーツは日本にはないですね。」

松本「そんな職人さんをどうやってスカウトしたのですか」

理事長「たまたま地元の出身者だったのです」

松本「どれくらい売れるものですか」

理事長「普通のパン職人が一日仕事して、売り上げが2万円しかないというのはざらです。店長クラスでも3~4万という場合もあります。この店の職人は20万円分作る力があり、商品もそれくらいは売れます。しかもこの店舗だけの売り上げです。ちなみに、万一残ったら安くして売るとか翌日使うとかはせずに売り切ります」

松本「新商品の開発はどうやっているのですか」

理事長「この工房では開発から値付けまですべて職人さんの裁量に任せています。毎週新商品を店頭に出し、定番は残しつつ、売り上げの落ちた商品ははずしていきます

松本「パンの味について地域ならではの工夫などはあるのですが」

理事長「パンの味には地域性があります。この恵那は宿場町であり、和菓子の里ですから甘いパンが好まれます。一方で高山に行くとしょっぱいパンが受けますね。あちらは漬物の町です。そういう地域性というものは一般的にはあります。ただ、この店の場合は独自のものですし、名古屋からも買いに来ていただいていますから、その枠内でやっているわけではありません

松本「看板も数から言ってもデザインから言っても福祉工場の範疇を超えています」

理事長「一番大きいのは200万円かかっているものです。地代もかかりますから、それなりの売り上げを上げなければなりません

松本「そのあたりの感性も福祉工場とはかけ離れています」

所長「理事長の本業はお茶などの商いの経営者ですので」

松本「そのあたりの感性は施設長としてどうお感じですか」

所長「とにかくアイディアが豊富でついていくのが大変です」

理事長「計画を立てたら即実行するというのが方針です。何をやるにせよ1年以上かけないようにしています。1年もかけているとビジネス環境が変わってしまいます。何が大切かを常に頭の中に持っていて常時アイディアを引き出すのが経営感覚です。」

松本「ここの雰囲気も、失礼ですがこの岐阜の山の中にしては場違いというか・・・・」

理事長「表参道や原宿の店を常に回っています。気になった店があると大工さんを連れて行って実際に見せて、取り入れられるようにしています。スペイン式ということで店もスペイン式、食器などもスペインまでは買いにいけませんのでスペイン村で調達しました(笑。高かったですよ。ただ、そこまでこだわるべきだと思っています。とにかく、常に地域ナンバーワンを目指しています」

松本「そこまでやっておられる施設は、特に福祉関連では皆無でしょうね」

理事長「正直、施設としての補助金があるからここまでやれるという面があるんですよ」

松本「この施設の運営で心がけているのは」

理事長「少し放っておくとマンネリになります。いつしか同じことを繰り返している。だから常に新しいことを取り入れようと努力しています」

松本「まさに一般社会の繁盛店と同じ姿勢です」

理事長「あくまでお客さんは一般の方です。つまり一般企業に対抗できることをしなければなりません

松本「補助金などの関係は」

理事長「職員の給与は補助金でまかなえます。ただ、受けられるものをすべて受けているわけではありません。いまのところ、県の補助金と競輪の補助金を受けています」

松本「ここ(パン工房)の場合はどうですか」

理事長「ざっと自己資金3600万、県が2000万、競輪が1億です」

松本「仕事をしていない人はいるのですが」

理事長「全員が仕事にかかわっています。一般の人と同じで、仕事をして給料をもらってそれを使うのを楽しみにしています。うちに目が死んだ人はいないですよ

松本「給料はどういう方法で支払うのですが」

理事長「収益を給与として配分しているのですが、配分のために毎月評価があります」

松本「どんな方法で?」

理事長「法人に作業基準評価表というものがあり、作業意識とか思いやりとか、あるいは毎日出てくるとかそういう項目が入っています。授産の場合、平均月1万円の15か月分が出ます。残業もあり、10時間で1000円出ます。皆勤賞は500円。そして、グループホームに入っていれば、家賃補助も2.5万~3万円です。

福祉工場は労働基準監督署とも協議して最低賃金の60パーセントに設定しています」

松本「それくらいあれば使いでがありますね」

理事長「うーん、どうでしょうか。とにかく渡すことは使い方を教えることでもあるのです。渡して終わりではなく、渡すと渡したなりに新たな問題が出てきます」

松本「障害者に対してはどんな意識で運営していますか」

理事長「成長してもらわなければ意味がないです。まずそこです」

松本「和光市にも社会福祉協議会運営の障害者によるパン工房がありますが、何か工夫をするとすれば?」

理事長「売り方の工夫ができますね。販売車を使う方法、焼き上がり時間をいろいろ決めて集客する方法などです。団地に販売に行くとかなりさばけます。また、何時にフランスパン、というようにいろいろな時間で設定をすることです」

そうそう、ここのパン、自称「パンおたく」の私が食べても超美味でした。

クロワッサンが最高でしたね。かりっとした触感は普通よりもぱりぱりして、強めの焼き上がりを焼き立てでいただくと、もう止まらない。

また、甘納豆のパンもバランスが絶妙。違和感なく、上品な甘みが最高です。ブリュレもコクがあって、ビストロの味、という雰囲気です。

また、福祉工場で作られた大福も、甘みが上品でふわっとした仕上がり。

コーヒーは福祉工場の手づくり感いっぱいの器でいただきます。

とにかく何を食べてもおいしく、おしゃれな店であり、働く障害者の皆さんもいい顔をしていました。

恵那インターから5分ほど。恵那峡観光のついでに立ち寄ってみてください。パンを食べに行く、それだけでも十分価値ありの人気店です。

次回に続く。 (←クリックしてください)

追記:和光市総合福祉会館にもパン工房があり、焼き立てパンを販売しています。駐車場完備ですのでぜひお立ち寄りください。営業は17年に始まったばかりですが、明るい店内で障害者の皆さんも笑顔で働いています。なお、午後3時までです。

追記:武蔵野市議 川名ゆうじさんのブログ記事 もご参照ください。有名なスワンベーカリーも紹介されています。