公費視察報告~塩竃市に水害対策の視察に行ってきました | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

公費視察報告~塩竃市に水害対策の視察に行ってきました

公費視察の二日目、宮城県塩竃(しおがま)市に行ってきました。

実は昨日(10月25日)より一泊二日の公費の県外視察で東北地方を訪問(昨日の視察報告は昨日の視察内容を即日まとめたもの)し、26日夕刻に和光市に帰着しました。

(和光市の県外視察は予算の都合上、東北地方から中国地方に限られています。また、日程も一泊二日となっています。)

私には以前から、インターネット上で発見した、「起伏が多い市街地における下流域の水害への対応策として、個人宅に水を貯めていただき、それを少しずつ流す」という、塩竃市オリジナルの施策を和光市に取り入れられないだろうか、という思いがありました。今回の塩竃視察が委員の皆さんのご理解によって実現したことを感謝申し上げるところです。

豪雨による都市型水害に対して、公共施設による対応だけでは不十分な面があります。今後の市の施策への貴重なヒントを得て帰ったと感じています。

以下、詳細は都合により、「である」調にてご報告させていただきます。

なお、受け入れ先自治体の職員各位には御礼申し上げます。

 

(以下、視察報告)

宮城県塩竃市は政令指定都市仙台市の生活圏域に位置し、塩竃神社の門前町である。三陸のリアス式の南端にあり、市内の大半はリアス式海岸の湾を埋め立てた低地と傾斜地から構成されている。

 

先方の議会事務局長、当方の委員長の挨拶、担当者紹介の後、ただちに下水道事業所設計担当のK氏より説明を受けた。

 

1.塩竃市の下水道事業の経緯

塩竃市の汚水処理事業は戦後、進駐軍の衛生指導により始まった。

歴史的な市街地であり、従来、汚水は水路を通して松島湾内に流れ込んでいた。

このため、昭和40年代には松島湾内の水質汚濁が進行し、魚の著しい減少などを招いた。

昭和45年には、公害国会と期を同じくして仙塩流域下水道が発足した。

また、昭和47年より、整備方式が合流式から分流式となった。

その後、平成2年の秋に起こった3回連続の水害を機に、専門家を交えた総合治水対策検討委員会が発足。平成5年には土木学会の調査報告を含めた総合地いす計画を策定した。

平成6年、国の下水道雨水貯留浸透事業のモデル事業(現在の新世代下水道支援事業制度。事業費の三分の一が国庫補助)指定を受け、これを含む下水道事業の認可を取得した。

 

2.塩竃市の下水道事業の特徴

基本的に塩竃市内の平坦地はすべてと言っていいほど埋立地であり、地盤が軟弱である。このため、低地における下水管敷設のためには沈下対策としての地盤改良を要し、m当たり100万円超の費用を要するケースも珍しくない。なかには300万円という事例もある。

このため、下水管の再整備には他市より格段に多額の費用を要するという特徴がある。

なお、10年確率を基準とした整備を行っている。

*10年確率:10年に一度の降雨量に耐えうるという趣旨。

 

3.宅内貯留方式採用の経緯

高台地域まで市内が開発されたことなどにより、当初想定していた流出係数0.5が実態に合わないことが判明した。その後調査したところ、流出係数は0.80.9にのぼるという調査結果となった。

高台地域までの開発の進展等にともない、都市型水害が問題となった。幸い、塩竃市には放流制限のかかる河川がなく、それまでは雨水間の容量向上が対策の中心であった。しかしながら、雨水管は一旦整備するとスペック向上のためにはすべての菅を再度敷設する必要があるため巨額の投資を要する。そのため、発想を転換し、流出抑制を検討することになった。つまり、高台地域に降った雨を一時的に現場に貯留する(オンサイト貯留方式)ことによって、下流地域に少しずつ流すことが検討された。

その一方式として、個人宅に市の施設としての貯留施設を設置するという宅内貯留方式が採用されることとなった。

なお、公共施設等にも貯留施設が多数設置されている。

*流出係数:降雨量のうち、流出する水の割合。

 

4.宅内貯留の経緯としくみ

当初は庭や駐車場の周囲を高くし、表面に水を貯める表面貯留方式を採用した。

しかし、申込者がなく、職員宅、OB宅を中心に協力を求めた。

表面貯留方式の欠点は庭や駐車場が水浸しになることであり、景観面からも苦情が多く、さらに流下口に落ち葉などが詰まりやすいため、後に地下貯留方式が検討された。

地下方式の宅内貯留は砕石の堆積、専用のボックスカルバート(ボックス方式は市と業者で特許を取得)、プラスチック製品により生じる空隙に水を貯留する方式であり、上部は透水性のインターロック(㎡あたり7000)、コンクリート(㎡あたり10000)、アスファルト(㎡あたり3000)で覆われ、そこから透過した水を貯留する。

貯留された水は流量調整孔より雨水菅に流入する。

なお、住宅の新築時に施工する事例が多い。

施工は基本的には設計から検査まで市で行うが、希望業者制度という、設計までを市民と業者で行う方式もある。なお、随意契約によっている。

総工費は一箇所当たり100万円から数百万円程度である。

市内全域での宅内貯留施設による貯留量は5000流米超となっており、全貯留施設の貯留量の約4パーセントとなっている。

*ボックスカルバート:コンクリートの函。

 

5.市のメリット

・用地の無償提供を受けられる

水害リスクの高い地域の上流に設置できる

 

6.設置者のメリットと設置の思想

・透水性舗装部分までを市の施設として市が負担しており、駐車場等の舗装にかかる負担が軽減

下流の水害を市民の奉仕による協力で軽減

 

7.申し込み状況

当初は職員、OBの申し込みが中心だったが、現在は予算を申込者が上回る状況。また、業者が市内全域で営業活動を行っているため、リスクの少ない地域でも設置希望が多数ある。

 

8.設置基準

標高4m以上に設置(4m未満は浸透施設を設置)。その他の基準はないが、危険度合いの高い地域を優先している。また、大規模開発等で調整池などが既に設置されている地域も優先順位としては後回しになっている。

また、概ね15年以上維持することとなっている。

 

9.所有区分、管理区分

宅内貯留施設は地下部分から表面部分までが市の施設であり、日常管理以外の維持経費は市が負担することとなっているが、高圧洗浄を含めて現在は市の維持管理内容としては表面の破損への対応以外はほとんど事例がないのが実態である。

なお、表面部分は市の負担としないことを現在検討中である。

 

10.国の新世代下水道支援事業制度について

当該事業は比較的申請事例の少ない種別の事業であり、事業認可にあわせて申請することにより、採択の可能性は比較的高いと思われるとのことである。

 

11.その他の流出抑制施設等について

・市内学校の校庭への貯留→2校を除く市立校に設置している。教育効果にも配慮し、表面貯留を行っている。なお、貯留施設の設置により、校庭の水はけ効率が向上した。高さ30cmまでの貯留を行っている。

開発行為にかかる開発→県の基準により貯留施設等を設置

開発行為にかからないマンション等の場合→行政指導を行っている

天水槽→個人宅、保育園等に設置し、庭への散水等に利用している

 

いずれは同様に起伏の多い和光市の施策にも生かしたい、とあらためて感じました。