当たり前だが、恋をするのは久しぶりだ。

俺には10年間付き合った彼氏がいた。その間、心が多少揺れることはあれど、「恋」はしなかった。トシキくんと出会うまでは。


俺にとっては10年ぶりの恋だ。

そう考えると、俺が今、年不相応に片想いにのめり込んでいるのも納得がいくのかもしれない。経験値を積んでいないが故に、俺の恋愛能力はきっと20代半ばのままなのだ。


ノンケと違い、ゲイが現実的に恋愛をし始める時期はきっと遅い。

(世代や地域によってだいぶ違うと思うが、少なくとも俺と同世代かつ地方出身者は、社会人になってからゲイデビューした人も多いのではないだろうか)


ここで「現実的に」と書いたのは、付き合える可能性のある恋愛、つまりはゲイ同士の恋愛をイメージしているからだ。

学生時代にノンケの友人に片想いする、なんてことは多くのゲイが経験があるだろう。この基本的に実らない片想いは、今回恋愛としてカウントしないでおく。


俺のゲイデビュー、つまり初めて自分以外のゲイと出会ったのは、社会人2年目の頃だ。そしてトオルくんと付き合ったのは、その約1年後。

俺が「恋愛」をしていた期間は、この間のたった一年だけなのだ。


冒頭に戻るが、俺は今、10年ぶりに恋を、片想いをしている。それも、恋愛においてまだ “2年生” に進級したばかりの状態で、だ。

結果、俺は恋愛不適合者だと自嘲したくなるほど恋に溺れている。


LINEのやり取りの文言ひとつひとつに一喜一憂する。


返事が来ないと気持ちが沈む。

よせばいいのに、SNSのログイン状況やいいねした投稿を見てしまう。SNSを開いた形跡があるのに返事が来ていないとさらにへこむ。


彼との写真を見ては、会いたいとひとり呟く。

次会うための約束をどう取り付けようか考える。


LINEひとつでこの状況。

やり取りの中身は基本雑談や共通の趣味の話だ。1日1,2往復のやり取りが約半年、ほぼ毎日続いている。もちろん返事を急ぐような内容ではない。


もしかしたら、俺のことを気を遣わなくても良い友人として位置付けてくれていて、それが故に好きなペースで返事をしてくれているのかもしれない。

そんな希望的観測を頭に浮かべてみたりもする。


でも現実はどうだろうか。

そもそも俺とのLINEのやり取りが負担になってはいないだろうか。

1日1回義務感で返信しているだけなのではないか。

そんなところから不安になってしまう。


新しい話題を振るのは俺からのことが多い。

遊びに誘うのもだいたい俺からだ。

あれ?本当に彼はこのLINEのやり取りを億劫に思っているのでは?

ひとつ考え始めると、連鎖的にマイナスの考えがどんどんと浮かんでしまう。


ただここで冷静にならないといけないのは、彼にとって俺は「彼氏持ちの友達」なのだ。

(別れたことはまだ誰にも明かしていない)


俺は彼に、友達以上の期待をしてはいけない。

勝手に片想いをして、勝手に求めているだけなのだ。

それで期待をしすぎて、不安になって気落ちしてしまうのは、実に滑稽な話である。


俺がトシキくんに恋心を抱いているなんて、彼は想像もしていないだろう。

別れたことを伝えていない以上、ほのめかすこともできない。

俺の恋愛はまだスタートラインにすら立てていない。


片想いの辛さを今、再認識している。

だが、俺は恋愛2年生。溢れる感情を上手に処理しようなんて考えるだけ無駄だ。

だから、今は目一杯悩んで苦しんで傷付いて、この恋と向き合っていこう。そう思った。