今日は友達グループでの花見だった。
もちろんトシキくんもいる。トシキくんと久々に会えることが、話せることが楽しみだった。

そして俺は小さく決意していた。
もしも条件が揃ったら、今日告白しよう、と。

条件。
花見のあとに二次会がないこと(もしくはあってもトシキくんが行かないこと)、トシキくんにその後の予定がないこと、トシキくんが疲れていないこと(負担になるような状況ではないこと)、お互い酔っていないこと。
正直今日はタイミングが合わないだろうと思っていた。ただ、奇跡的に条件が揃ったときに躊躇しないよう、敢えて自分に宣言したたのだ。

そんな小さな決意と覚悟を胸に、会場へと赴いた。

合流してすぐ、俺はトシキくんの横に座り、話しかける。
ちょっとした近況報告と雑談。でも何故だろう、少しぎこちない。普段よりも会話が弾まないような気がする。
俺が気負い過ぎているのか、それとも別の要因か。この状況が心に若干の影を落とす。

他の友達と話しに行くために、俺は席を立った。
正直に言えば、この空気感に耐えられなくなったから席を立ったのだが。

ただやはりトシキくんと話がしたくて、少しでも側にいたくて、他の友達とちょっと話した後にまたすぐトシキくんの近くに戻った。
今度は他の友達も交えて、さして中身のない会話を交わす。さっきよりも自然だ。いつもの空気感だ。
少し安堵しつつも、頭の片隅で「ふたりきりでの会話だからぎこちなかったのか?」などと余計なことを考えてしまう。

そのうち、一緒に話していた友達もひとりまたひとりと席を立っていき、またトシキくんとふたりになった。
なんてことのない雑談や、共通の趣味の話。今度は、今までと同じ空気感。時間を忘れ、夢中になって話してしまう。1時間ぐらいはふたりだけで話していたと思う。
花見開始直後に感じたぎこちなさはなかった。さっきのは杞憂だったか、と少し安心した。

それから、他の友達が入りつつも、花見の最後まで彼の隣で過ごした。楽しい時間だった。本当にあっという間だった。

そして日も暮れ始め、間もなく解散になろうという時間。
どうやら二次会はなさそうだ。すかさず俺はトシキくんに聞く。
「このあとどうする?」
彼は少しだけ申し訳無さそうな顔をして、こう返す。
「このあと予定あるんだよね」

予定って何だろう?
誰かと会うのかな?
もしかして色恋の相手?
彼の返答を聞いて、瞬時にネガティブな想像が頭を駆け巡る。何の予定か聞かなかったから、正解はわからない。
好き勝手な妄想が、実態のない不安が、俺の頭の中を埋め尽くす。

とはいえ、こうした妄想や不安は日常茶飯事だ。少し気落ちはするものの、深傷にはならない。
いつもなら。

ただし今日、彼の返答に俺は思いの外ダメージを受けてしまった。
彼のこのあとの予定に対する妄想や不安に対してではなく、「告白できなかった」という事実に対して。

条件は揃わないと思っていた。
もとよりそこまで期待していなかった。
それなのに、心が痛む。「早く想いを伝えたい」という気持ちが先行する。
ああ、こういう傷付き方もあるのか、と自分でも驚いた。

それから、ほどなくして解散となった。
幹事と一緒に最後の片付けや忘れ物の確認を行いながら、トシキくんが帰るタイミングに合うように調整する。我ながら狡いことをすると思った。

駅までふたりきりで歩く。
頭に渦巻く様々な感情はいったん置いておいて、この時間を大切に過ごすことにした。
電車に乗るまでのたかだか10分弱の時間、ふたりで過ごせる今日最後の時間を。

ホームに着くと電車はすぐに来た。今日に限ってタイミングが良すぎる。なんなら遅延していれば良かったのに、なんて少し思った。
最後に「どこか余裕ある日があればご飯行こう」と伝える。
依然彼の仕事は忙しい。彼も文字通り受け取ってはいないだろう。社交辞令に近い、別れ際のただの挨拶としか捉えていないと思う。
そうだとしても、少しでも次に繋げたかった。これが俺の残した精一杯の爪痕だ。

今日は楽しかった。
楽しかったが、最後にちょっと物悲しい気持ちになってしまった。音楽を聞きながら、ひとり電車で家へと帰る。

好きだよと 今日も言えないまま
見送った 今まで一緒にいたのに
会いたくて 君の好きなうたを繰り返し
口ずさんだ 帰り道
(君の好きなうた - UVERworld)

https://youtu.be/_F6iL239Sac?si=1yeYnr8GWhVSqwlD

「好きだよ」と言える日。いつか来ると良いな。