俺はトオルくんと別れた。
10年間連れ添った恋人を失った。

この選択が正しかったのか。正直今は後悔している。
別れるという決断を下す前に、もっとするべきことがあったはずだ。
結局、別れを告げたのは俺の弱さが原因だ。

最近友達が増えて、遊ぶことも多くなって、色々な幹事もするようになって、自分のやりたいことは友達周りでするようになった。トオルくんと遊ぶ計画を考えることを蔑ろにしていた。

トオルくんは優しいから、俺がやりたいって言ったことは付き合ってくれる。それでも、なんとなく乗り気じゃないのが伝わってくることがある。それが申し訳なくて、自分がやりたいことを言わなくなった。トオルくんにやりたいことを聞いて、それに合わせる方が楽だと思った。
“ふたりで楽しむこと”の模索を俺はやらなくなっていた。

それが続いていくと、ふたりで遊ぶ日を純粋に楽しめなくなった。友達と遊ぶ方が楽しいな、なんて酷いことを思うこともあった。

そんな中、トシキくんへの恋心が芽生え始めた。

更にトオルくんと会うことが辛くなった。
自分の気持ちが薄れているのに、いつも通り笑顔を向けてくれる彼の隣にいるのが辛くなった。

辛くなって逃げた。別れるという選択で。
悩みの種を取り除いたら悩みも辛さも消えると思ったが、それよりも大きな喪失感に襲われた。
安直な選択だった。今の苦しみから逃げることに精一杯で、その先に何が待っているかを何も考えていなかった。

部屋を見渡すと彼との思い出の品ばかりだ。
全て片付けたらこの部屋は空っぽになりそうだ。

ふと流れたback numberの歌詞が刺さる。

たとえばあなたといた日々を
記憶のすべてを消し去る事ができたとして
もうそれは私ではないと思う
(思い出せなくなるその日まで - back number)

10年。俺の人生の約3割の年月。
その日々を一緒に過ごした人を失った。

朝起きても「おはよう」のLINEは来ない。
来月の新幹線の予約をする必要もない。

10年間、何気なく続いていた当たり前が全て、俺の生活から消えた。
遠距離だから常に一緒にいたわけじゃない。それなのに、こんなにも生活の中に彼がいた。それを失って初めて気付くだなんて。
いや、失ったのではない。自ら捨てたのだ。
あの暖かな日々を、優しい彼を。

現状維持は緩やかな後退だ。今でもそう思う。
でも、だとすれば、現状維持ではなく、俺はちゃんと改善の道を模索するべきだったのだ。
その選択肢を端から見ていなかった。

もっと話せば良かった。
もっと伝えれば良かった。
今こんなことで悩んでいると、今こんな気持ちでいると。
ひとりで出した結論を伝えるのではなく、ふたりで悩めば良かった。
なんでこんな当たり前のことができなかったのだろう。
楽になる道ばかりを目指して、ふたりで痛みを伴う道を選べなかった。

せめてもの戒めとして、後悔のすべてをここに残そう。
思い出せなくなるその日が来ても、また思い出せるように。