日本再設計 第9回

助けを求められない人も救える国を、どうつくるのか

――「申請しなければ救われない福祉」から「必要な人を見つける福祉」へ

※制度については2026年8月10日時点で確認できる政府・公的資料を基にしています。

 


■ 冒頭三行結論

 

本当に弱っている人ほど、「助けてください」と言えるとは限らない。

 

病気、失業、借金、介護、孤立が重なれば、制度を調べ、書類を書き、何度も窓口へ行く力そのものを失うことがある。

 

だから日本再設計の第九原則は、「助けを求められる人を待つ福祉」から、「必要な人を見つけ、本人の意思を尊重しながら支援へつなぐ福祉」への転換である。

 


■ 一番困っている人ほど、一番難しいことを求められていないか

例えば、

仕事を失った。

家賃が払えない。

電気代も滞納している。

親の介護もある。

自分自身も体調が悪い。

郵便物が山積みになっている。

そんな人に、

「制度がありますから、ご自身で調べて申請してください」

と言う。

インターネットで制度を探す。

対象条件を読む。

必要書類を確認する。

役所へ電話する。

窓口へ行く。

別の部署を案内される。

さらに書類を集める。

期限までに提出する。

元気な人でも大変である。

まして、

生活そのものが崩れかけている人には、

非常に重い仕事になる。


■ 日本再設計の第九原則は「支援の側から近づく」である

これまで日本再設計では、

働く。

再起する。

子どもを育てる。

老後を生きる。

地方で暮らす。

AIを使う。

という問題を考えてきた。

しかし、どれほど優れた制度を作っても、

最後に一つ大きな問題が残る。

必要な人へ届かなければ、制度は存在しないのと同じではないか。

100万円の支援制度があっても、

本人が知らない。

申請できない。

相談窓口へ行けない。

ならば、その人にとってはゼロである。

だから第9回では、

政策を作ることから、政策を届けることへ

視点を移したい。


■ 日本にも、すでに「待たない福祉」の芽はある

ここはきちんと評価したい。

厚生労働省の生活困窮者自立支援制度では、生活に困っている人について、仕事、住まい、家計などを一人ひとりの状況に応じて支援する仕組みが設けられている。

さらに社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業では、介護、障害、子ども、生活困窮といった制度別の縦割りを越え、包括的な相談支援などを行う仕組みが設けられている。厚生労働省は、その制度を地域共生社会を実現するための包括的支援体制の一つとして位置付けている。

その考え方には、

「断らない相談支援」

という重要な言葉もある。

私は、この方向をさらに進めればよいと思う。


■ さらに重要なのが「アウトリーチ」である

相談に来た人を助ける。

これは当然必要である。

しかし、

相談に来られない人もいる。

そこで必要になるのが、

アウトリーチ

である。

つまり、

支援する側から近づいていく。

厚生労働省が進めている包括的支援でも、必要な支援が届いていない人へアウトリーチを含む早期的な対応を行い、本人や世帯を包括的に受け止め、継続的に支える考え方が示されている。

これは、これからの福祉に極めて重要だと思う。


■ 「助けて」と言えないこと自体が、支援が必要な兆候かもしれない

人は困れば必ず相談する。

この前提を疑う必要がある。

恥ずかしい。

迷惑をかけたくない。

自分より困っている人がいる。

怒られるかもしれない。

断られるかもしれない。

制度が分からない。

何から説明すればいいか分からない。

電話することすら怖い。

そして、

「もうどうでもいい」

となることもある。

そんな状態の人へ、

「本人から相談がありませんでした」

だけで終わらせてよいのだろうか。


■ 福祉には「沈黙している人」がいる

行政から見える人は、

窓口へ来た人である。

しかし社会には、

窓口へ来ない困窮者

もいる。

例えば、

家賃滞納。

公共料金滞納。

長期失業。

社会的孤立。

介護疲労。

ひきこもり。

高齢単身。

学校との接点を失った家庭。

さまざまな形で、

社会との接点そのものが細くなっていくことがある。

だから、

「申請件数が少ない」

ことを、

「困っている人が少ない」

と同じ意味にしてはいけない。


■ 2026年、国も包括的相談をさらに広げる方向へ動いた

2026年の社会福祉制度改正をめぐる厚生労働省の説明では、生活困窮者に関する一次相談事業の実施を市町村の努力義務とすることや、関係機関が支援方針を共有する支援会議をすべての市町村で設置可能にすることなどが示されている。

つまり国も、

「専門窓口へ自分から来られる人だけを対象にする」

制度から、

もっと入口を広くする方向

へ進み始めている。

私はこれを日本全体の行政原則にまで広げたい。


■ 解決策1――「一つの窓口で全部話せる」を全国標準にする

困っている人へ、

「それは福祉課ではありません」

「介護課へ行ってください」

「それはハローワークです」

「住宅は別です」

と回さない。

最初に入った窓口で、

全部聞く。

病気。

失業。

介護。

家賃。

借金。

子ども。

孤独。

一度受け止める。

その後は、

行政内部が動く。

本人を回すのではない。

情報と担当者を回す。

これを、

「一入口・多機関連携」

の原則としたい。


■ 解決策2――「たらい回し禁止」を福祉の基本原則にする

相談者が、

A課。

B課。

C課。

を自分で回る。

その途中で疲れて帰ってしまう。

これを防ぐ。

自分の部署の制度に該当しなくても、

「ここではありません」

だけで終わらせない。

次の支援機関へ連絡する。

予約する。

必要なら同行する。

つまり、

「断らない」だけでなく、「次へつなぐところまで責任を持つ」。

これを全国標準にする。


■ 解決策3――「生活危機サイン」を早期発見に使う

ここは慎重さが必要だが、

重要な改革である。

行政や公共的機関には、

生活危機の兆候が見える場合がある。

例えば、

一定の制度利用終了。

失業。

介護開始。

住宅喪失の危険。

などである。

ただし、

何でも行政が監視してよい、

という話ではない。

明確な法的根拠。

利用目的。

アクセス権限。

記録。

本人への説明。

厳格な個人情報保護。

を前提として、

「支援が必要かもしれない」という連絡をするためだけに使う。

処罰するためではない。

助けるためである。


■ 解決策4――「あなたは対象かもしれません」と行政から知らせる

例えば行政側に、

年齢。

所得。

家族構成。

既存の給付情報。

など必要な情報があり、

ある支援制度の対象になる可能性が高いと分かる。

それでも、

本人が制度を検索して見つけるまで待つ必要があるだろうか。

「あなたは、この制度を利用できる可能性があります」

と知らせればよい。

マイナポータル。

郵便。

電話。

対面。

本人が選べる方法で通知する。

これは、

申請を強制することではない。

選択肢を本人のところまで届ける

ということである。


■ 解決策5――可能な給付は「プッシュ型」に近づける

さらに一歩進められる制度もある。

デジタル庁の公金受取口座制度では、一定の公的給付について、マイナンバーを使った確認等により支給事務を効率化でき、支給要件によってはプッシュ型に近い給付も可能だと説明されている。

ならば、

行政が既に必要条件を確認でき、

本人の意思確認だけで足りるような給付については、

何枚もの申請書を書かせる必要を減らしていく。

例えば、

通知する。

本人が「受け取る」と確認する。

登録口座へ支給する。

これで済む制度を増やす。


■ 解決策6――ただし「勝手に支援する国」にはしない

ここは非常に重要である。

支援するためなら、

行政が何でも個人情報を集めてよい。

本人が嫌がっても家庭へ踏み込んでよい。

そういう国家にしてはいけない。

だからアウトリーチには、

本人の尊厳と自己決定

を必ず入れる。

「困っているようなので来ました」

と声をかける。

利用できる制度を説明する。

しかし、

強制できない支援については、

本人が断る権利も尊重する。


■ 「見守り」と「監視」は一文字違いではない

例えば、

高齢者の電気使用量が極端に変化した。

AIが異常を検知した。

家族や支援員へ連絡する。

本人が希望して契約しているなら、

非常に役立つ仕組みになり得る。

しかし、

本人が知らないところで、

行政が生活パターンを常時監視する。

これは違う。

だから、

見守りは本人同意を基本とする。

何を集めるか。

誰が見るか。

何のために使うか。

いつ消すか。

を明確にする。

「福祉だから何をしてもよい」

にはしない。


■ 解決策7――AIを「制度を探す係」にする

第8回でAIを扱った。

ここでも使える。

例えば本人が、

「仕事を失って家賃も払えません。親の介護もあります」

と一度話す。

AIが、

考えられる制度を整理する。

失業。

住宅。

介護。

医療。

税。

社会保険。

相談窓口。

を一覧化する。

そして最後は人間の相談員が確認する。

本人が制度名を知らなくてもいい。

本人は、

自分に何が起きたかだけ話せばいい。

制度を探すのは行政側の仕事にする。


■ 解決策8――申請書を「一度書けば済む」に近づける

同じ住所。

同じ氏名。

同じ生年月日。

同じ世帯構成。

同じ所得。

を、

なぜ何度も書くのか。

行政が法律上利用可能な情報については、

本人の同意や必要な制度上の手続きを踏まえ、

再入力を減らす。

一度入力した情報は、

可能な範囲で再利用する。

添付書類も、

行政内部で確認できるなら減らす。

支援を受けるための事務労働を、国民へ無料でやらせすぎない。


■ 解決策9――「申請期限を過ぎたら終わり」を減らす

生活が崩れている時ほど、

郵便を開けられない。

期限を忘れる。

書類をなくす。

だから、

期限を過ぎた。

支援終了。

という制度には、

可能な範囲で救済措置を設ける。

もちろん、

財政年度。

事務処理。

公平性。

のため期限は必要である。

しかし、

一日の遅れで人生を立て直す支援まで失う

ような制度はできるだけ避ける。


■ 解決策10――「生活支援119」のような一本化された入口をつくる

救急なら119。

警察なら110。

しかし、

家賃が払えない。

仕事を失った。

介護が限界。

食べるものがない。

どこへ電話すればいいか。

多くの制度を知らなければならない。

そこで自治体単位または全国共通で、

「生活支援総合窓口」

を明確にする。

電話。

対面。

オンライン。

どこからでも入れる。

本人は、

制度名を言わなくていい。

「困っています」

だけでよい。


■ 解決策11――地域の「気づく人」を増やす

行政だけでは、

すべての困窮者を見つけられない。

そこで、

郵便。

薬局。

医療。

学校。

介護。

民生委員。

社会福祉協議会。

NPO。

住宅事業者。

地域の商店。

など、

日常生活で人と接する場所との連携が重要になる。

ただし、

「怪しい人を行政へ密告する」

仕組みではない。

本人へ、

「こういう相談先がありますよ」

と情報を渡せる地域をつくる。

必要なら、

本人の同意を得てつなぐ。


■ 孤立は、困窮を見えなくする

一人でも、

友人がいる。

近所に知り合いがいる。

かかりつけ医がいる。

行きつけの店がある。

誰かと話している。

そういう接点があれば、

「最近おかしいな」

と気づく人がいる。

逆に、

社会との接点が全部なくなると、

困窮しても誰にも見えない。

だから福祉政策には、

お金だけでなく、

人とのつながりを失わせない政策

も必要になる。

厚生労働省の地域共生社会の考え方でも、相談支援だけでなく、社会への参加支援や地域づくりを一体的に行うことが重視されている。


■ 解決策12――一人の人を「制度別」に切り刻まない

ある家庭に、

高齢の母。

介護する50代の息子。

ひきこもっている孫。

借金。

家賃滞納。

がある。

高齢者問題。

介護問題。

ひきこもり問題。

生活困窮。

住宅問題。

と分けることはできる。

しかし家庭は一つである。

だから、

「一人一制度」ではなく、「一世帯一支援計画」

をつくる。

関係機関が連携し、

誰が何を担当するか決める。

本人は、

同じ苦しい話を、

5人の担当者へ5回説明しなくてよい。


■ 解決策13――支援員を「申請審査員」だけにしない

福祉職員が、

書類を見る。

要件を確認する。

可否を判断する。

それだけになってしまえば、

本人の生活全体を見る時間がなくなる。

AIや行政DXを使い、

定型的な事務を減らす。

そして人間の職員には、

本人の話を聞く。

家庭へ出向く。

関係機関をつなぐ。

生活再建計画を考える。

という仕事へ時間を戻す。

制度を守る職員から、人を支える職員へ。


■ 解決策14――「支援到達率」を政策の成績にする

ここが非常に重要である。

給付金を100億円用意した。

相談窓口を100か所作った。

それだけで、

政策成功としてはいけない。

本当に見るべきなのは、

必要な人のうち、何人へ届いたか。

である。

制度を知っていた割合。

対象者への通知率。

相談から支援開始までの日数。

途中離脱率。

一つの相談から必要な複数支援へつながった割合。

生活再建できた割合。

を測る。

私は、

「支援到達率」

を社会保障政策の重要KPIにしたい。


■ 「予算を使い切ったか」より「救えたか」を見る

行政では、

予算執行。

件数。

事業数。

も必要である。

しかし、

10億円使った。

それで何人の生活が立ち直ったのか。

ここまで見なければならない。

制度は、

役所のためにあるのではない。

生活へ届いた時に初めて完成する。


■ 私なら「支援到達10年計画」をつくる

第一に、

全国で「一つの入口で全部相談できる」体制を整える。

第二に、

たらい回しを原則なくす。

第三に、

必要な人へのアウトリーチを強化する。

第四に、

対象になりそうな制度を行政側から通知する。

第五に、

可能な給付はプッシュ型・簡易同意型へ近づける。

第六に、

申請書・添付書類を大幅に減らす。

第七に、

AIで制度探索を支援する。

第八に、

地域の医療・介護・学校・NPO等との接点を支援への入口にする。

第九に、

本人のプライバシーと拒否する権利を保障する。

第十に、

政策成果を、

「制度を作ったか」ではなく「必要な人へ届いたか」

で評価する。


■ ただし、福祉国家が人の人生を管理してはいけない

私は、

必要な人を見つけに行く福祉を提案している。

しかし同時に、

強い注意も必要だと思う。

国が、

この人は困窮者。

この人は孤独。

この人は危険。

と勝手に分類する社会になれば、

それは福祉ではなく管理になる。

だから、

アウトリーチ。

データ利用。

AI判定。

には、

必ず人間の判断と本人の権利を入れる。

支援は近づく。しかし支配しない。

これを鉄則にする。


■ 「助けて」と言えること自体が、一つの能力である

制度を検索する。

電話する。

事情を説明する。

断られても別の窓口へ行く。

これは、

実はかなり高度な能力である。

知識。

気力。

文章力。

コミュニケーション力。

時間。

交通手段。

が必要になる。

だから、

「申請できた人だけ支援する」

という制度は、

意図せず、

元気な困窮者ほど助かりやすく、弱り切った困窮者ほど取り残される

構造を生むおそれがある。

ここを逆転させたい。


■ 本当に弱った時、人間は「助けて」と叫ぶとは限らない

ドラマなら、

「助けてください」

と叫ぶ。

現実は違うかもしれない。

電話に出なくなる。

郵便を開けなくなる。

部屋から出なくなる。

仕事へ行かなくなる。

人と会わなくなる。

静かになる。

だから、

沈黙を「問題なし」と判断しない社会

が必要なのである。


■ 最後に

立派な制度を100個作る。

それ自体は悪くない。

しかし、

困っている人が、

その100個の制度から、

自分に必要な三つを探し出さなければ救われない。

それでは、

制度の迷路を作っただけになってしまう。


これからは逆にする。

本人が、

制度を探すのではない。

制度が本人を見つける。

本人が、

役所を回るのではない。

役所の中で支援がつながる。

本人が、

「私は○○制度の対象者です」

と言う必要もない。

「困っています」と一言言えばいい。

そして時には、

その一言すら言えなくなった人へ、

こちらから、

「何か困っていませんか」

と声をかける。


ただし、

無理やり救わない。

監視しない。

人生を管理しない。

本人が決める。

本人が断ることもできる。

その尊厳を守りながら、

支援だけは遠くに置かない。


一番弱っている人に、一番難しい申請をさせない。

制度を知らなかったことを、人生の罰にしない。

「助けて」と言える力まで失った人を、最後に取り残さない。

そして、

福祉とは、窓口で待つことではない。

必要な人の生活まで届いて、初めて福祉になる。

それが、日本再設計の第九原則、

「助けを求められない人も救える国」

なのである。