30万円以下で買える中長期候補株

――少額投資家が、相場に振り回されないために

2026年8月21日(金)終値

1.日経平均株価

66,016.36円
前日比:-200.43円(-0.30%)

一時は956円超下落しましたが、終値では200円安まで戻しました。日米金利上昇などが重荷になりました。

2.竹内式・日経平均の実勢価格

8月14日と同じく、

アドバンテスト、ファーストリテイリング、東京エレクトロン、ソフトバンクGの上位4銘柄=合計ウェート37.35%

を機械的に除外して計算します。

66,016.36円 × 62.65% = 約41,359円

前日8月20日は、

66,216.79円 × 62.65% = 約41,485円

したがって、

竹内式実勢価格:約41,359円
実勢価格の前日比:約-126円

です。

8月14日の約43,049円から見ると約1,690円、約3.9%低下しています。

ただし、これは実際の指数ではなく、8月14日から比較可能にするため37.35%を固定した独自試算です。

3.TOPIX

4,067.29ポイント
前日比:+0.19%

ここが今日の重要点です。

日経平均は-0.30%なのに、TOPIXは上昇しました。東証プライムでも値上がり883銘柄、値下がり622銘柄、33業種中18業種が上昇しています。

4.今日は「半導体の日」だったのか

結論:違います。全面高でもありませんが、「日経平均より実体の方が強かった日」です。

半導体の一角は上昇しましたが、主力半導体には翌週のNVIDIA決算待ちもありました。一方、ファーストリテイリングなど値がさ株の下落が日経平均を押し下げました。上昇業種では海運、鉱業、石油・石炭などが強く、NTTも年初来高値を更新しています。

つまり8月21日は、

「半導体だけが相場を引っ張った日」ではありません。

むしろ、

日経平均 -0.30%
TOPIX +0.19%
値上がり銘柄数 > 値下がり銘柄数

です。

これは、まさに日経平均だけでは分かりにくい相場です。

私なら8月21日を、

「値がさ株で日経平均は下落したが、通信・エネルギー・金融・鉄道などを含む市場の裾野は底堅かった日」

と評価します。


5.本命5銘柄

銘柄 コード 8/21終値 100株 予想配当利回り PER 今期最終利益予想 判断
NTT 9432 166.1円 16,610円 3.25% 13.80倍 9,800億円(-5.5%) 分割買い
三菱HCキャピタル 8593 1,395円 139,500円 3.66% 12.51倍 1,600億円(-1.4%) 分割買い
KDDI 9433 2,915.5円 291,550円 2.88% 15.18倍 7,310億円(+3.4%) 分割買い
東京メトロ 9023 1,480円 148,000円 2.97% 17.19倍 500億円(-15.3%) 押し目待ち・分割買い
日本郵政 6178 2,336円 233,600円 2.57% 17.09倍 3,800億円(+1.5%) 分割買い

NTTは8月21日に166.1円まで上昇して年初来高値を更新。予想配当5.40円、利回り3.25%、PER13.80倍です。第1四半期は増収増益でしたが、通期最終利益は9,800億円と5.5%減益予想です。したがって、会社そのものは本命ですが、年初来高値で一括購入するより分割買いが妥当です。最大のリスクは通信競争とネットワーク・データセンター投資負担です。

三菱HCキャピタルは1,395円、利回り3.66%、PER12.51倍。通期純利益予想1,600億円はほぼ横ばいです。第1四半期利益は前年の特殊要因の反動などで大幅減でしたが、通期予想は維持されています。高成長株ではなく、配当と事業分散を取りに行く銘柄として本命に残します。金利・信用コスト、資産価格悪化が最大のリスクです。

KDDIは2,915.5円で100株291,550円。30万円枠のほぼ上限です。第1四半期は売上5.1%増、調整後営業利益21.1%増と好調で、通期最終利益も7,310億円、3.4%増益予想です。一方、情報管理問題への対応などはリスクです。業績面では5銘柄中かなり強いため本命ですが、一度に30万円近く使うより分割が適します。

東京メトロは1,480円、100株14万8,000円。東京という巨大な生活圏の鉄道インフラを持つ点は魅力です。一方、今期最終利益は500億円と15.3%減益予想。人件費、資材費、電力費上昇もあります。したがって、長期候補としては残すが、今すぐ強く追わず押し目を拾う評価です。

日本郵政は2,336円。第1四半期は銀行部門を中心に純利益が大幅増となりましたが、郵便・物流事業は赤字です。通期最終利益3,800億円は1.5%増益予想。全国的な社会インフラという強みは明確ですが、郵便事業そのものの構造問題を無視できないため、分割買いまでとします。


6.参考候補5銘柄

銘柄 コード 8/21終値 100株 予想配当利回り PER 今期最終利益予想 判断
ソフトバンク 9434 233.8円 23,380円 3.76% 19.97倍 5,600億円(+1.7%) 分割買い
ホンダ 7267 1,753円 175,300円 3.99% 17.06倍 4,000億円(黒字転換) 分割買い
東急 9005 1,676.5円 167,650円 1.91% 10.58倍 900億円(+3.4%) 分割買い
関西電力 9503 2,610円 261,000円 3.07% 9.38倍 3,100億円(-18.4%) 様子見
ENEOS HD 5020 1,331円 133,100円 2.55% 8.61倍 4,150億円(+60.4%) 押し目で分割買い

ソフトバンクは少額で買いやすく、通信収入と高めの配当利回りが魅力です。第1四半期は増収増益、通期も1.7%増益予想。ただしPER約20倍、PBR約3.8倍で、本命のNTTや三菱HCより割安感は弱いため参考枠です。

ホンダは純粋な内需株ではありませんが、8月21日終値でも17万5,300円で購入可能。第1四半期は四輪事業が黒字化して大幅増益、通期最終利益も4,000億円の黒字転換予想です。配当利回り3.99%は魅力ですが、自動車需要、為替、通商政策、EV競争で業績が振れやすいため参考枠です。

東急は鉄道、不動産、生活サービスを持つ典型的な都市生活圏銘柄です。今期最終利益900億円、3.4%増益予想でPERも10倍台。ただし配当利回りは1.91%と本命群より低いため、配当より都市圏成長を買う銘柄です。

関西電力はPER9.38倍、利回り3.07%と数字だけなら魅力がありますが、今期営業利益は大幅減益予想で、最終利益も18.4%減です。8月19日の料金見直し後に株価が急上昇しており、今は追いかけるより様子見とします。燃料価格、規制、原発稼働など固有リスクも大きいです。

ENEOSは8月21日に2.15%上昇して1,331円。PER8.61倍、今期最終利益予想4,150億円で60.4%増益予想です。ただしこれは通信・鉄道のような安定内需型とは違い、原油価格・精製マージン・為替で利益が大きく動く景気敏感株です。したがって本命にはせず、安い局面で分散して持つ参考候補です。

7.8月21日の最終判断

私は今日の相場を、**「日経平均の200円安だけを見て弱気になる必要はない日」**と判断します。

竹内式実勢価格も約126円安ですから、実体部分まで全面高だったわけではありません。しかし、TOPIXは上昇し、プライム市場では値上がり銘柄が56%を占めました。そして今日挙げたNTT、KDDI、東京メトロ、三菱HC、日本郵政は5銘柄すべて上昇しています。これは半導体だけの相場とはかなり違います。

したがって8月21日時点では、

「全面的に買い急ぐ日」ではない。
しかし同時に、
「日経平均が下がったから内需株まで売る日」でもない。

本命順位をつけるなら、私は、

①NTT → ②三菱HCキャピタル → ③KDDI → ④東京メトロ → ⑤日本郵政

とします。

ただしNTTは年初来高値、KDDIは100株で約29万円です。したがって少額投資家には、**一括買いより「現金を残しながら2~4回に分けて買う」**方が今の相場には合います。

そしてこの記事全体の結論は、これでよいと思います。

短期の値動きに一喜一憂せず、日本経済の成長を信じて長期・分散で持つ。大化けの保証はないが、生活・社会インフラを支える企業の着実な成長と配当を狙う。半導体だけを追わず、内需・生活インフラ株を資産形成の土台にする。

8月21日は、むしろこの考え方を裏づけるような一日でした。日経平均は下落したのに、TOPIXと市場の過半の銘柄は上昇したからです。

※上記の「買い・分割買い・様子見」は8月21日時点の業績・株価・配当水準から見た一般的な研究上の評価で、利益を保証するものではありません。

「食べる?」


イエス。


見る。


小さな。


パン。


「いただきます。」


食べる。


兄。


「何してたの。」


イエス。


少し考える。


「考えていました。」


妹。


「こんなところで?」


「はい。」


妹。


「馬鹿なの?」


イエス。


少し。


笑う。


「たぶん。」


兄。


大笑い。


二人。


名前。


聞く。


兄。


ナタン。


妹。


サラ。


二人は。


イエスが。


歩けるようになるまで。


そばにいた。


天使。


羽。


なかった。


光。


出なかった。


ただ。


水。


パン。


そして。


少し。


笑わせた。


後に。


イエスは。


マタイへ。


この話をした。


マタイ。


「では、天使ではなく子どもだったのか。」


イエス。


「あなたには。」


少し間。


「どう違うのですか。」


マタイ。


黙った。


そして。


結局。


福音書には。


天使

と。


書いた。


イエスは。


訂正しなかった。


ただ。


小さく。


笑った。


荒野を出る

イエス。


戻る。


身体。


痩せた。


髭。


伸びた。


服。


埃。


ナザレ。


家。


マリア。


戸口。


見る。


一瞬。


何も言わない。


そして。


「馬鹿。」


イエス。


「はい。」


マリア。


近づく。


抱く。


強い。


「本当に。」


声。


震える。


「馬鹿。」


イエス。


「すみません。」


ヨセフ。


後ろ。


腕。


組む。


「何か分かったか。」


イエス。


少し。


考える。


「はい。」


ヨセフ。


「何だ。」


イエス。


「空腹で考えると。」


少し間。


「やはり、かなり危ないです。」


ヨセフ。


笑う。


「だから言っただろ。」


マリア。


泣きながら。


笑う。


マタイが聞いた

その夜。


マタイ。


来る。


シモンも。


マタイ。


帳面。


持つ。


「全部話せ。」


イエス。


「嫌です。」


マタイ。


「なぜ。」


「恥ずかしい。」


シモン。


笑う。


「荒野で何をした。」


イエス。


「石と話しました。」


シモン。


止まる。


マタイ。


筆。


止まる。


「それは。」


イエス。


「書かないでください。」


マタイ。


「書く。」


イエス。


「なぜ。」


マタイ。


「面白いからだ。」


イエス。


ため息。


そして。


話した。


パン。


奇跡。


権力。


故郷。


承認欲求。


全部。


マタイ。


最後。


黙った。


長い。


沈黙。


そして。


「最後の話は。」


イエス。


「はい。」


マタイ。


「書かない。」


イエス。


少し驚く。


「なぜ。」


マタイ。


「人は。」


少し間。


「救世者に、承認されたい心があったと知りたくない。」


イエス。


マタイを見る。


「だからこそ。」


少し間。


「書くべきでは。」


マタイ。


「伝わらなくなる。」


イエス。


「真実でも。」


マタイ。


「真実でも。」


二人。


見つめる。


ここに。


後の福音書の。


大きな問題が。


すでに。


あった。


真実を。


全部書けば。


誰も読まないかもしれない。


削れば。


人間が。


聖人へ。


変わっていく。


マタイ。


「私は。」


少し間。


「何を残すかを選ぶ。」


イエス。


「では。」


「はい。」


「あなたが捨てたものも。」


さらに。


「別に残してください。」


マタイ。


「どこに。」


イエス。


「いつか。」


少し笑う。


「私の全部を書く場所に。」


マタイ。


眉。


動く。


「全部?」


イエス。


「日本から。」


マタイ。


「日本。」


「私の国です。」


マタイ。


「遠いのか。」


イエス。


「とても。」


マタイ。


ため息。


「嫌な予感がする。」


イエス。


笑う。


まだ。


二人とも。


知らない。


その「全部を書く場所」が。


何十年も後。


日本で。


本当に。


必要になることを。


そして、公の活動が始まる

荒野から。


帰ったイエスは。


以前とは。


少し。


違った。


自信が。


ついたのではない。


むしろ。


逆。


自分が。


危険な人間になり得ることを。


知った。


善意。


危険。


力。


危険。


人気。


危険。


正義。


危険。


そして。


自分。


危険。


だから。


人と。


歩く。


一人で。


決めない。


マタイ。


記録する。


シモン。


反対する。


マリア。


叱る。


ヨセフ。


働かせる。


この人たちが。


必要だった。


ある朝。


イエス。


ガリラヤへ。


向かう。


マタイ。


「どこへ。」


イエス。


「湖へ。」


シモン。


「何をする。」


イエス。


少し。


笑った。


「漁師と話します。」


マタイ。


「なぜ漁師。」


イエス。


「知らないから。」


マタイ。


「何を。」


イエス。


「魚のことを。」


シモン。


ため息。


「本当にそれだけか。」


イエス。


「たぶん。」


マタイ。


「またそれだ。」


三人。


歩く。


その先。


ガリラヤ湖。


二人の兄弟。


網。


そして。


後に。


最も有名な。


弟子の一人になる。


シモン・ペトロ。


さらに。


アンデレ。


ヤコブ。


ヨハネ。


人々。


集まり始める。


そして。


ついに。


マタイによる福音書でも。


最も有名な場面の一つ。


山上の説教

へ。


近づいていく。


しかし。


この福音書では。


イエスは。


最初から。


山へ登って。


美しい言葉を。


完璧に。


語ったのではない。


その前に。


一人の漁師から。


こう怒鳴られる。


「腹を空かせた漁師に、天国の話をするな!」


イエスは。


そこで。


また。


説教を。


止める。


そして。


網を。


一緒に。


引く。


その夜。


初めて。


知る。


人を集める前に、その人が今日何を食べるのかを知らなければならない。


荒野で得た答えが。


今度は。


湖の上で。


試される。


第十回 終

次回 第十一回「ガリラヤ湖――『人間をとる漁師』の前に、イエスは魚を一匹もとれなかった」

次回。

有名な弟子たちが登場します。

しかし最初からイエスを敬うわけではありません。

ペトロはイエスを見て言います。

「大工が漁を教えるのか。」

イエス。

「教えません。」

ペトロ。

「では何をしに来た。」

イエス。

「手伝いに。」

ところが。

イエスは網の扱いが下手。

足を滑らせ。

湖へ落ちます。

弟子たちは大笑いします。

後に「救世主」と呼ばれる男が、最初の日にはずぶ濡れになって漁師たちに笑われる。

そこから友情が始まります。

そして、よく知られた「人間をとる漁師」という言葉も、この福音書では少し違う意味で生まれます。

ペトロが言います。

「人を魚みたいに捕まえるのか。」

イエス。

「違います。」

「網に入れるのではありません。」

少し間。

「沈んでいる人を、岸まで一緒に引くのです。」

そこから、イエスの最初の本格的な仲間たちが集まり始めます。

「ここは、お前の国ではない。」


「ヨハネも死んだ。」


「次は、お前かもしれない。」


少し間。


「なぜ。」


「知らない人々のために。」


さらに。


「自分の命を使う。」


イエス。


涙。


出る。


他の誘惑とは。


違う。


これは。


悪いことではない。


故郷へ帰る。


親へ会う。


平穏に暮らす。


愛する人。


守る。


何が。


悪い。


声。


「世界全部を。」


「背負う必要はない。」


イエス。


「はい。」


初めて。


同意。


「本当にそうです。」


声。


「なら帰れ。」


イエス。


長い。


沈黙。


「帰りたい。」


声。


震える。


「帰りたいです。」


それは。


本音だった。


日本平。


母。


あの丘。


両手。


海。


十年以上。


帰っていない。


マリア。


ヨセフ。


ナザレ。


ここにも。


家族。


でも。


最初の家。


ある。


イエスは。


膝。


抱える。


しばらく。


泣いた。


「世界を救う必要はない」

そして。


イエス。


ようやく。


気づく。


自分は。


また。


間違えていた。


世界を救う。


そんな。


大きな言葉。


自分で。


背負っていた。


でも。


世界は。


一人の人間が。


救うものなのか。


イエス。


小さく。


「私は。」


声。


待つ。


「世界を救う必要はない。」


声。


「そうだ。帰れ。」


イエス。


首を振る。


「違う。」


少し間。


「世界を救えないから。」


さらに。


「目の前の一人を。」


「見捨ててもいい。」


「それも違う。」


声。


消える。


イエス。


「私は。」


涙。


拭く。


「世界を背負いません。」


少し間。


「でも。」


「出会った人から。」


さらに。


「逃げるために。」


「故郷を使うこともしません。」


長い。


沈黙。


イエス。


「帰る日が来たら。」


富士。


思う。


「帰ります。」


少し。


笑う。


「生きていたら。」


父の言葉。


「帰ります。」


それが。


第四の誘惑への。


答えだった。


故郷を愛することと、世界から逃げることは同じではない。


五つ目の声

四つ。


終わった。


そう。


思った。


しかし。


夜明け前。


もう一つ。


声。


来た。


これは。


後のどの福音書にも。


残らなかった。


マタイ自身。


書くべきか。


最後まで。


迷った話だった。


声。


「お前は。」


イエス。


疲れている。


「今度は何です。」


「愛されたいのだろう。」


イエス。


黙る。


「人を救いたい。」


「人を助けたい。」


少し間。


「本当に、それだけか。」


イエス。


胸。


止まる。


声。


「感謝されたいのではないか。」


「立派だと言われたいのではないか。」


「必要とされたいのではないか。」


イエス。


何も。


言えない。


声。


「母を泣かせてまで日本を出た。」


「十年歩いた。」


「ヨハネに認められた。」


「人が集まり始めた。」


さらに。


「自分は特別だと。」


少し間。


「どこかで思っているのではないか。」


イエス。


立てない。


これは。


痛かった。


石。


パン。


奇跡。


王権。


帰郷。


それより。


もっと。


奥。


自分の中。


誰にも。


見せたくないところ。


イエス。


小さく。


「あります。」


初めて。


認めた。


「私には。」


少し間。


「特別でありたい気持ちがあります。」


声。


「なら、お前の愛は偽物だ。」


イエス。


長く。


黙る。


そして。


「いいえ。」


声。


「なぜ。」


イエス。


「混じっているからです。」


少し間。


「愛だけではない。」


「欲も。」


「見栄も。」


「寂しさも。」


「認められたい気持ちも。」


さらに。


「全部。」


「私の中にあります。」


声。


「汚れている。」


イエス。


「はい。」


「それでも人を教えるのか。」


イエス。


少し。


考える。


「教えるのではなく。」


少し間。


「一緒に考えます。」


声。


「逃げたな。」


イエス。


「そうかもしれません。」


そして。


少し。


笑う。


「でも。」


「完全になってから。」


少し間。


「人を愛そうとしたら。」


さらに。


「私は一生。」


「誰も愛せません。」


そこで。


声。


消えた。


完全に。


消えた。


悪魔の正体

朝。


日。


昇る。


イエス。


岩に。


座る。


身体。


弱い。


頭。


痛い。


口。


乾く。


でも。


少し。


笑った。


悪魔。


どこにも。


いなかった。


あるいは。


どこにでも。


いた。


空腹。


善意。


恐怖。


権力欲。


故郷への思い。


承認欲求。


全部。


自分。


人間。


イエスは。


その時。


初めて。


こう理解した。


悪とは、いつも悪い顔で来るわけではない。


時には、「人を救いたい」という最も美しい願いの中に入ってくる。


そして。


もう一つ。


自分の中の闇を持たない人間が聖人なのではない。


闇を知りながら、それを他人の運命にしない人間であろうとする。


それが。


この荒野で。


イエスが得た。


第三の悟りだった。


天使は来たのか

後に。


マタイは。


こう記すことになる。


悪魔は去り。


天使たちが来て。


イエスに仕えた。


では。


この物語では。


天使とは。


誰だったのか。


昼。


イエス。


倒れていた。


意識。


薄い。


足音。


聞こえる。


子ども。


二人。


羊。


連れた。


遊牧民の兄妹だった。


兄。


イエス。


見つける。


妹。


「死んでる?」


兄。


「分からない。」


妹。


棒で。


イエスの足。


つつく。


イエス。


「痛い。」


妹。


飛び上がる。


「生きてる!」


兄。


水。


出す。


イエス。


少し。


飲む。


妹。


パン。


差し出す。

 

パンが必要だからこそ、それを支配の道具にしてはいけない。


それが。


第一の誘惑だった。


秘密の一口

その夜。


イエス。


荷物。


探す。


何もない。


と思った。


しかし。


布。


奥。


小さな。


乾いたパン。


一片。


マリアが。


隠していた。


イエス。


見る。


少し。


笑う。


「やられた。」


それを。


食べるか。


迷う。


断食。


続ける。


自分を。


試す。


しかし。


マリアの言葉。


思い出す。


「死にそうになったら食べなさい。」


イエス。


パン。


食べた。


一口。


小さい。


涙。


少し。


出た。


これは。


後に。


誰にも。


話さなかった。


マタイにも。


長い間。


言わなかった。


もし。


知られれば。


「四十日完全断食した聖人」

では。


なくなる。


でも。


イエスは。


後に。


マタイへ。


こう言った。


「人は、伝説のために死ぬ必要はない。」


マタイ。


「では、なぜ四十日と書く。」


イエス。


「あなたが書きたいからでしょう。」


マタイ。


「そういう言い方をするな。」


このやり取りは。


さらに。


後の話。


第二の誘惑――神殿

数日後。


イエス。


高い岩場へ。


登った。


遠く。


町。


さらに。


神殿を。


思う。


そして。


また。


声。


「人は、お前を信じない。」


イエス。


黙る。


「なら。」


「奇跡を見せろ。」


少し間。


「神殿の一番高いところから。」


「飛び降りろ。」


イエス。


目を閉じる。


想像。


群衆。


下。


飛ぶ。


死なない。


神。


助ける。


人々。


驚く。


跪く。


一日で。


何万人。


信じる。


誰も。


疑わない。


声。


「早いぞ。」


イエス。


「はい。」


「説教する必要もない。」


「はい。」


「反対者も黙る。」


イエス。


少し。


怖くなる。


それも。


魅力的だった。


なぜ。


何年も。


歩く。


なぜ。


一人ずつ。


話す。


なぜ。


誤解される。


なぜ。


嫌われる。


奇跡。


一つ。

 

全員。


黙る。


イエス。


突然。


思った。


「それでは。」


声。


「何だ。」


「信じるのではない。」


少し間。


「驚いているだけです。」


声。


「同じだ。」


イエス。


「違います。」


「なぜ。」


イエス。


「驚きは。」


少し間。


「もっと大きな驚きが来れば。」


さらに。


「そちらへ行く。」


風。


イエス。


「人を。」


「奇跡で縛ってはいけない。」


後に。


この話は。


「神を試してはならない。」


と。


短く。


語られる。


しかし。


イエスが恐れたのは。


神を試すことだけではなかった。


人間の自由を、奇跡で奪うこと。


それだった。


第三の誘惑――権力

夕方。


山。


高い場所。


遠く。


町。


道。


農地。


兵士。


市場。


イエス。


見下ろす。


声。


また。


来る。


今度は。


さらに。


甘い。


「お前は。」


少し間。


「政治を嫌っている。」


イエス。


「嫌ってはいません。」


「嘘をつけ。」


イエス。


少し笑う。


「面倒だと思っています。」


声。


「なら。」


「お前が支配すればいい。」


イエス。


顔。


止まる。


「王になれ。」


風。


「税を軽くしろ。」


「貧しい者へ食料を渡せ。」


「兵士の暴力を止めろ。」


「腐った役人を追い出せ。」


「神殿の金を貧民へ回せ。」


イエス。


胸。


激しく。


動く。


それは。


まさに。


見てきた問題。


全部。


権力があれば。


変えられる。


ヨハネ。


殺されなかったかもしれない。


井戸の少年。


水を飲めたかもしれない。


インドの少女。


飢えなかったかもしれない。


ローマ兵に。


老人が。


殴られなかったかもしれない。


声。


「愛だけでは剣を止められない。」


シモンの顔。


浮かぶ。


「なら。」


「剣を持つ側へ立て。」


イエス。


長い。


沈黙。


これは。


三つの中で。


最も。


強かった。


なぜなら。


彼は。


後に。


本当に。


王となるからである。


しかし。


この時。


イエスは。


まだ。


それを知らない。


王になれば救えるのか

イエス。


声へ。


聞く。


「もし。」


「何だ。」


「私が王になって。」


少し間。


「善いことだけを命じれば。」


声。


「世界は良くなる。」


イエス。


「反対する人は。」


「排除しろ。」


イエス。


顔。


変わる。


「従わない人は。」


「罰せ。」


「間違った宗教を信じる人は。」


「正せ。」


「私を嫌う人は。」


少し。


沈黙。


声。


「国のためなら。」


イエス。


目を開く。


そこだった。


一番。


怖い場所。


国。


民。


正義。


善。


美しい言葉。


その名前で。


人を。


消す。


イエス。


小さく。


「違う。」


声。


「何が。」


「人を救うために。」


少し間。


「人を人でなくしてはいけない。」


声。


「では、悪人も自由にするのか。」


イエス。


「分かりません。」


「王には向かない。」


イエス。


苦笑。


「そうかもしれません。」


しかし。


さらに。


「でも。」


風。


「人間の心まで。」


少し間。


「支配する王には。」


「なりたくありません。」


後に。


この誘惑は。


「世界の国々とその栄華を与えよう。」


という形で。


伝わる。


しかし。


この福音書では。


もっと。


危険だった。


金。


豪華さ。


名誉。


それだけではない。


「善い世界を作るためなら、すべてを支配してよい。」


その誘惑だった。


そして。


イエスは。


それを。


完全には。


捨て切れなかった。


なぜなら。


ずっと後。


日本へ帰った後。


この問いが。


もう一度。


彼の前に。


現れるからである。


その時。


イエスは。


剣を。


持つ。


ここでの答えが。


最後の答えでは。


なかった。


第四の誘惑――帰れ

夜。


これが。


一番。


静かだった。


声。


優しい。


母のよう。


友のよう。


自分自身のよう。


「もういい。」


イエス。


目。


開く。


「何が。」


「十分やった。」


日本。


浮かぶ。


富士。


駿河の海。


日本平。


母。


父。


愛鷹山。


空の行者。


声。


「帰れ。」


イエス。


胸。


苦しくなる。


「日本へ。」


「帰れ。」

 

『竹内眞記雄の福音書』

――日本に生まれ、世界を歩き、愛鷹山へ還った男

第十回 荒野の四十日――悪魔は角を持って現れなかった

ヨハネが死んで。


人々は。


イエスを。


探し始めた。


病人。


貧しい者。


徴税に苦しむ者。


ヨハネを失った者。


新しい指導者を。


求める者。


そして。


ただ。


奇跡を見たい者。


人が。


増えた。


イエスは。


怖くなった。


人に嫌われることが。


ではない。


むしろ。


逆だった。


人に期待されることが。


怖かった。


「少し離れます」

ある朝。


イエス。


マリアへ。


「少し。」


「何。」


「離れます。」


マリア。


手を止める。


「どこへ。」


「荒野へ。」


マリア。


顔。


曇る。


「何日。」


イエス。


「分かりません。」


マリア。


ため息。


「その答え。」


「はい。」


「嫌い。」


イエス。


少し笑う。


ヨセフ。


奥から。


「食料は持て。」


イエス。


「少しだけ。」


ヨセフ。


「少しではなく持て。」


イエス。


「荒野で考えたいことがあります。」


ヨセフ。


「空腹で考えたことは。」


少し間。


「だいたい間違うぞ。」


マリア。


「本当にそう。」


イエス。


笑う。


しかし。


目。


真剣。


「それでも。」


少し間。


「一度。」


「人の声がないところへ行きたい。」


マリア。


イエスを見る。


それ以上。


止めなかった。


ただ。


出発前。


小さな包み。


渡した。


イエス。


「何です。」


マリア。


「パン。」


イエス。


「断食するかもしれません。」


マリア。


「好きにしなさい。」


そして。


少し間。


「でも。」


「死にそうになったら食べなさい。」


イエス。


「はい。」


マリア。


「神より先に。」


少し。


声を強くする。


「身体を大切にしなさい。」


イエス。


頭を下げる。


「分かりました。」


マリア。


「本当に?」


イエス。


「たぶん。」


マリア。


睨む。


イエス。


「はい。」


荒野

人。


いない。


石。


乾いた草。


空。


風。


夜。


寒い。


昼。


暑い。


イエスは。


歩いた。


最初の数日。


何も。


起きなかった。


祈った。


考えた。


眠った。


少し。


食べた。


水を飲んだ。


そして。


ある日。


食べ物が。


なくなった。


そこから。


時間。


変わった。


空腹は。


身体だけに。


来るのではない。


心。


思考。


記憶。


全部へ。


入ってくる。


一日。


二日。


三日。


イエスには。


何日目か。


分からなくなった。


後に。


人々は。


四十日。


そう伝えた。


本当に。


四十日だったのか。


三十七日だったのか。


四十二日だったのか。


マタイ自身も。


正確には。


知らなかった。


ただ。


長かった。


それだけ。


悪魔は来なかった

角。


ない。


黒い翼。


ない。


炎。


ない。


声も。


最初は。


聞こえなかった。


しかし。


人間は。


一人で。


長くいると。


自分の中に。


相手を作る。


ある朝。


イエス。


石を見る。


丸い。


パンに。


少し。


似ていた。


腹。


痛い。


その時。


心の中。


一つ。


言葉。


浮かぶ。


「もし。」


イエス。


顔を上げる。


誰も。


いない。


「もし、お前に力があるなら。」


イエス。


石を見る。


「これをパンにすればいい。」


イエス。


黙る。


「自分のためだけではない。」


声。


続く。


「世界中の石を。」


「パンに変えれば。」


少し間。


「飢える子どもはいなくなる。」


インド。


少女。


浮かぶ。


「愛があるなら、どうして私は今日も腹が減るの?」


イエス。


胸。


動く。


もし。


本当に。


できるなら。


どれほど。


いい。


穀物。


足りない。


土地。


痩せる。


税。


重い。


子ども。


飢える。


石を。


パンに。


できるなら。


悪いことでは。


ない。


むしろ。


善い。


イエスは。


その誘惑が。


一番怖かった。


悪。


ではない。


善意の顔をしていたから。


第一の誘惑――パン

イエス。


小さく。


「でも。」


声。


「何が。」


イエス。


石を。


拾う。


「私が。」


少し間。


「すべてのパンを。」


さらに。


「与える者になったら。」


風。


「人は。」


「私なしでは生きられなくなる。」


声。


「飢えるよりいい。」


イエス。


止まる。


その通り。


とも。


思う。


「人間は。」


イエス。


ゆっくり。


「パンが必要です。」


空腹。


腹。


鳴る。


「でも。」


「パンだけを。」


少し間。


「私一人から受け取る世界に。」


さらに。


「してはいけない。」


声。


「では飢えさせるのか。」


イエス。


「違う。」


石。


地面へ。


置く。


「畑を作る。」


「分ける。」


「奪わない仕組みを作る。」


少し間。


「一緒に食べる。」


さらに。


「人が、自分でもパンを作れるようにする。」


声。


消えない。


「遅い。」


イエス。


「はい。」


「その間に死ぬ者もいる。」


イエス。


苦しい。


「はい。」


「なら力を使え。」


イエス。


目を閉じる。


そして。


「力を使うことが。」


少し間。


「いつも愛とは限りません。」


マタイが。


後に。


この場面を。


短くした。


「人はパンだけで生きるのではない。」


しかし。


この福音書では。


その前後を。


残す。


イエスが。


パンを軽視したのではない。


むしろ。


逆だった。

 

「イエス。」


そう。


呼んでいる。


マリア。


戸口から。


大声。


「マキ!」


外。


少し。


静かになる。


マキ。


いや。


イエス。


振り返る。


マリア。


「ご飯!」


群衆。


何人か。


笑う。


シモン。


大笑い。


マタイ。


「救世主も夕飯には勝てない。」


マキ。


「救世主ではありません。」


マリア。


「いいから早く来なさい。」


マキ。


家へ。


戻る。


その瞬間。


一つ。


決まった。


外。


世界。


人々。


彼を。


イエス

と。


呼び始める。


しかし。


家。


母。


家族。


最も深い場所。


そこでは。


いつまでも。


マキ。


だった。


二つの名前

その夜。


マタイ。


聞いた。


「嫌ではないのか。」


マキ。


「何が。」


「イエスと呼ばれること。」


マキ。


考える。


「少し変な感じです。」


マタイ。


「マキの方がいいか。」


長い沈黙。


そして。


「どちらも。」


マタイ。


「また面倒な答えだ。」


マキ。


「マキは。」


少し間。


「私が、どこから来たかを思い出させます。」


「イエスは。」


さらに。


「これから、誰と生きるかを思い出させる。」


マタイ。


筆。


止まる。


マキ。


「だから。」


「どちらも必要です。」


マタイ。


書く。


その一文も。


後に。


広く知られる福音書には。


残らなかった。


しかし。


この福音書では。


残る。


「マキは、私の帰る場所の名だ。イエスは、私がこれから歩く場所の名だ。」


その夜、イエスは一人になった

皆。


眠る。


マキ。


外。


一人。


空。


星。


ヨハネ。


思う。


「あなたは。」


少し間。


「私の真似をするなと言いました。」


風。


「分かりました。」


さらに。


「でも。」


声。


小さく。


「あなたを忘れることもしません。」


沈黙。


そして。


一つ。


言う。


「私は。」


少し間。


「叫ぶだけではなく。」


「人の家へ行きます。」


「罪を指さすだけではなく。」


「その人と飯を食べます。」


「正しい人だけではなく。」


さらに。


「嫌われた人とも。」


「病人とも。」


「徴税人とも。」


「敵とも。」


少し。


止まる。


シモン。


思い出す。


ローマ兵。


思い出す。


「敵とは。」


苦い顔。


「まだ。」


さらに。


「うまくできる自信はありません。」


一人。


笑う。


そして。


最後。


「でも。」


空。


見る。


「やってみます。」


それが。


ヨハネの後を。


継ぐ宣言ではなかった。


むしろ。


ヨハネとは。


違う道を。


歩く宣言だった。


ここから。


マキは。


少しずつ。


イエス

となっていく。


名前だけではない。


生き方として。


マタイの秘密の追記

深夜。


マタイ。


一人。


帳面。


開く。


書く。


「今日、イェシュアは初めて、ギリシャ人からイエスと呼ばれた。」


次。


「本人はその名を受け入れた。」


そして。


しばらく。


迷う。


最後。


小さく。


一行。


「しかし、母マリアだけはマキと呼び続けた。」


さらに。


もう一行。


「私は後に、この二つの名を一つにまとめるかもしれない。」


筆。


止まる。


「伝えるためには、削らなければならないからだ。」


そして。


最後。


「だが、削ったものが真実でなかったわけではない。」


この言葉。


後の。


『竹内眞記雄の福音書』を。


理解する。


大切な鍵になる。


福音書に。


書かれていること。


書かれていないこと。


削られたこと。


伝えやすく。


変えられたこと。


その間に。


一人の人間の。


長い人生がある。


そして。


物語は。


これから。


いよいよ。


よく知られた。


イエスの時代へ。


入っていく。


しかし。


この福音書では。


その裏側も。


描く。


イエスは。


突然。


完全な教師として。


現れたのではない。


母に叱られた。


人を助けて。


失敗した。


泣いた。


逃げた。


怖がった。


間違えた。


そして。


何度も。


戻った。


その人間が。


ようやく。


世界へ。


歩き出す。


第九回 終

次回 第十回「荒野の四十日――悪魔は角を持って現れなかった」

次回から、マタイによる福音書でも特に有名な荒野の誘惑へ入ります。

しかし、この物語では「悪魔」を単純な怪物としては描きません。

イエスが荒野で戦う相手は、むしろ自分自身です。

空腹の中で聞こえる。

「石をパンに変えられるほどの力があれば、誰も飢えない。」

その誘惑は、一見すると善意です。

次には、

「神殿から飛び降りて無事なら、誰もがお前を信じる。」

そして最後。

「権力を持てば、戦争も税も貧困も一度に変えられる。」

イエスはそこで初めて気づきます。

人を救いたいという願いそのものが、独裁へ変わることがある。

そして、この福音書独自の第四の誘惑も入ります。

「愛する者だけを救えばいい。世界全部を背負う必要はない。」

その言葉に、イエスは最も揺れます。

なぜなら彼には、

日本平の母。

ナザレのマリア。

ヨセフ。

マタイ。

シモン。

そして死んだヨハネ。

愛してしまった人々が、もう多すぎたからです。

「ヨハネの代わりにはならない」

人。


静かになる。


マキ。


立つ。


まだ。


泣いた後。


目。


赤い。


誰か。


叫ぶ。


「ヨハネの続きを話してくれ!」


別。


「次はお前だ!」


マキ。


顔。


少し。


強くなる。


「違います。」


群衆。


静か。


マキ。


「私は。」


少し間。


「ヨハネの代わりにはなりません。」


ざわつく。


「なれません。」


さらに。


「なるつもりもありません。」


人。


戸惑う。


マキ。


「ヨハネには。」


「ヨハネの声がありました。」


「私には。」


少し間。


「私の声しかありません。」


一人。


「では何を話す!」


マキ。


しばらく。


黙る。


そして。


布。


掲げる。


「名前です。」


群衆。


見る。


マキ。


「ヨハネが残した。」


「苦しんだ人の名前。」


さらに。


「神について話す前に。」


少し間。


「この人たちを。」


「忘れないところから。」


「私は始めます。」


最初の「幸い」

群衆の中。


一人の女。


泣いていた。


夫。


失った。


子。


二人。


貧しい。


マキ。


その女。


見る。


そして。


初めて。


後に。


広く知られる言葉へ。


つながる。


一つの言葉を。


口にした。


「泣いている人は。」


少し間。


「弱いのではありません。」


人。


静か。


「泣けるということは。」


「まだ。」


さらに。


「誰かを大切にしているということです。」


女。


顔。


上げる。


マキ。


「だから。」


少し間。


「泣いている人を。」


「恥じさせてはいけない。」


後に。


人々は。


もっと短く。


こう伝える。


「悲しむ者は幸いである。」


しかし。


最初。


マキが。


語ったのは。


悲しみを。


美化する言葉ではなかった。


泣いている者を。


一人にするな。


それだった。


「イエス?」

話の後。


人々。


残る。


その中。


旅人。


一人。


ギリシャ語を話す男。


名。


ニカノル。


商人。


マキのところへ。


来る。


「あなたの名前を。」


マキ。


「イェシュア。」


男。


聞き取れない。


「イエス?」


マキ。


「いや。」


言いかける。


止まる。


男。


「イエス。」


もう一度。


マキ。


その音。


聞く。


知らない。


自分の名前。


少し。


違う。


しかし。


思う。


自分は。


日本では。


マキ。


この地では。


イェシュア。


さらに。


言葉を越えれば。


また。


違う音になる。


名前。


変わる。


でも。


自分。


消えない。


マキ。


ゆっくり。


「それでもいい。」


ニカノル。


「イエス。」


マキ。


「はい。」


それが。


初めて。


本人が。


その呼び名を。


受け入れた瞬間だった。


マタイ。


少し離れたところで。


聞いていた。


帳面。


開く。


書く。


「イェシュア。」


その横。


「ギリシャ人、イエスと呼ぶ。」


少し。


考える。


さらに。


「本人、否定せず。」


シモン。


横から。


「名前が増えすぎだ。」


マキ。


いや。


イエス。


笑う。


「私もそう思います。」


マタイ。


「どれを記録する。」


イエス。


マタイを見る。


「あなたが。」


「一番伝わるものを。」


マタイ。


「責任を押しつけるな。」


イエス。


「記録する人には。」


少し笑う。


「責任があります。」


マタイ。


嫌な顔。


「弟子になる前から仕事が多い。」


イエス。


「まだ弟子とは言っていません。」


マタイ。


「もっと悪い。」


マリアだけは「マキ」と呼んだ

その夜。


家。


マリア。


食事。


並べる。


外では。


人々。


まだ。

 

ルキウス。


見た。


ヨハネも。


自分の足を見る。


「見ろ。」


兵。


怪訝。


ヨハネ。


「怖いと。」


少し間。


「ちゃんと震える。」


そして。


一度。


深く。


息を吸う。


誰も。


天の声を。


聞かなかった。


奇跡も。


起こらなかった。


鎖。


鳴る。


人間。


一人。


連れていかれる。


それだけ。


しかし。


ルキウスは。


後に。


何度も。


思い出した。


勇気とは。


震えないことではない。


震えながら。


歩くことだった。


知らせ

翌朝。


ナザレ。


マキ。


仕事。


していた。


木。


削る。


また。


足音。


今度は。


ゆっくり。


一人の男。


近づく。


走っていない。


だから。


余計に。


悪い知らせだと。


分かった。


マキ。


道具。


置く。


男。


何も言わない。


マキ。


「ヨハネですか。」


男。


頷く。


それだけ。


マキ。


立ったまま。


動かない。


マリア。


少し離れたところから。


見る。


ヨセフ。


仕事。


止める。


マキ。


「死んだのですか。」


男。


小さい声。


「はい。」


その瞬間。


マキは。


何も言わなかった。


怒らない。


叫ばない。


泣かない。


ただ。


座った。


地面。


そして。


両手。


膝。


置く。


長い。


沈黙。


マタイ。


後から。


来る。


シモンも。


来る。


誰も。


近づけない。


マリアだけ。


マキの横。


座る。


何も。


言わない。


しばらくして。


マキ。


小さく。


「私は。」


マリア。


待つ。


「助けられなかった。」


マリア。


「そうね。」


マキ。


顔。


上げる。


責められる。


そう思った。


でも。


マリア。


続ける。


「助けられなかった。」


少し間。


「だから。」


マキ。


見る。


「悲しんでいい。」


その一言で。


マキの顔。


崩れた。


マキは人前で泣いた

声。


出る。


子どものように。


ではない。


でも。


抑えられない。


涙。


止まらない。


マキ。


「あの人は。」


息。


詰まる。


「怖いと言っていました。」


マリア。


「うん。」


「帰りたいと。」


少し間。


「言わなかったけれど。」


「本当は。」


さらに。


「帰りたかったはずです。」


マリア。


「そうでしょうね。」


マキ。


「なのに。」


声。


震える。


「私は。」


「何もできなかった。」


ヨセフ。


少し離れたところ。


言う。


「マキ。」


マキ。


泣きながら。


見る。


ヨセフ。


「死んだ人間のために。」


少し間。


「生きている人間が。」


さらに。


「全部死ぬ必要はない。」


マキ。


何も言えない。


ヨセフ。


「悲しめ。」


「でも。」


少し間。


「戻ってこい。」


マキ。


胸。


押さえる。


その言葉。


日本。


父。


思い出す。


「間違えたら戻れ。」


違う父。


遠い国の父。


同じようなことを。


言う。


マキは。


長く。


泣いた。


そして。


夕方。


ようやく。


立った。


ルキウスが来た

その日の夜。


一人の男。


ナザレへ。


来た。


ルキウス。


看守。


マキ。


警戒。


シモン。


もっと。


警戒。


剣。


手。


ルキウス。


「私は戦いに来たのではない。」


シモン。


「ローマ側の人間を信用しろと。」


ルキウス。


「信用しなくていい。」


マキ。


シモンを見る。


「聞きましょう。」


シモン。


不満。


でも。


下がる。


ルキウス。


マキへ。


「ヨハネから。」


マキ。


顔。


変わる。


「最後の言葉を。」


そして。


全部。


伝えた。


「私の続きをするな。」


「私の真似をするな。」


「あいつは、あいつの言葉で話せ。」


マキ。


聞く。


一度。


目を閉じる。


ルキウス。


さらに。


「名前の布を、聖なる物にするな。」


マキ。


目。


開く。


「生きている人を探すために使え、と。」


マキ。


少し。


笑った。


涙。


まだ。


残る。


「最後まで。」


ルキウス。


「何だ。」


マキ。


「私に仕事を増やす。」


初めて。


皆。


少し。


笑った。


悲しみ。


消えない。


でも。


笑うことは。


裏切りではなかった。


それも。


生きることだった。


ヨハネの名前

マタイ。


布。


開く。


ヨハネ――


空白。


筆。


持つ。


マキを見る。


「書くか。」


マキ。


長く。


考える。


そして。


「はい。」


マタイ。


「何と。」


マキ。


「処刑された。」


マタイ。


書こうとする。


マキ。


「待って。」


マタイ。


止まる。


マキ。


「その前に。」


少し間。


「怖かった、と。」


マタイ。


顔。


上げる。


「それを書くのか。」


マキ。


「書いてください。」


シモン。


「弱く見えるぞ。」


マキ。


「弱かったから。」


少し間。


「勇気があったことが分かる。」


マタイ。


ゆっくり。


書く。


「ヨハネ。死を恐れた。それでも言葉を曲げず、処刑された。」


マキ。


見る。


そして。


「それでいい。」


群衆

ヨハネの死。


噂。


広がる。


人。


怒る。


怖がる。


そして。


行き場を失う。


ヨハネの声を。


聞いていた人々。


次。


誰へ。


行く。


何人か。


ナザレへ。


来る。


十人。


二十人。


五十人。


百人。


マキ。


困る。


マリア。


「増えましたね。」


マキ。


「帰ってもらえませんか。」


マリア。


「自分で言いなさい。」


マキ。


外。


見る。


人。


多い。


シモン。


「話せ。」


マキ。


「何を。」


マタイ。


「それを自分で決めろ。」


マキ。


二人を見る。


「皆、同じことを言う。」


シモン。


「便利だからな。」


マキ。


ため息。


外へ。


出る。

 

『竹内眞記雄の福音書』

――日本に生まれ、世界を歩き、愛鷹山へ還った男

第九回 ヨハネの死――その日、マキは初めて「イエス」と呼ばれた

紀元二十五年。


夜。


ナザレ。


風。


弱い。


マキは。


眠っていなかった。


ヨハネの名前が書かれた布を。


何度も。


開いた。


閉じた。


その横には。


マタイが書いた。


一つの空白。


ヨハネ――


その後に。


何を書くか。


まだ。


決まっていない。


マキは。


その空白を。


長く。


見ていた。


そして。


小さく。


言った。


「死ぬな。」


誰にも。


聞こえない。


「頼むから。」


少し間。


「死ぬな。」


それは。


祈りというより。


願いだった。


もっと正直に言えば。


命令だった。


しかし。


命は。


マキの命令には。


従わない。


その頃。


別の場所。


権力者の館では。


宴が開かれていた。


酒。


音楽。


笑い。


豪華な料理。


灯火。


その地下。


同じ建物の中に。


ヨハネがいた。


上では。


笑い声。


下では。


鎖。


同じ夜。


同じ建物。


全く。


違う世界。


ヨハネは。


壁へ。


背を預けていた。


看守。


若い。


名を。


ルキウス

といった。


ローマ人の父と。


現地の母を持つ。


どちらの側からも。


完全には。


仲間と見られない男だった。


ヨハネ。


「上は楽しそうだな。」


ルキウス。


「聞こえるのか。」


「聞こえすぎる。」


少し。


笑う。


ルキウス。


「怖くないのか。」


ヨハネ。


「怖い。」


即答。


ルキウス。


顔。


変わる。


ヨハネ。


「前にも言った。」


「怖くない人間の方が。」


少し間。


「私は怖い。」


ルキウス。


「それでも。」


ヨハネ。


「それでも。」


少し間。


「言ったことを。」


「なかったことにはできない。」


よく知られた願い

上。


宴。


一人の娘が。


踊る。


客。


喜ぶ。


権力者。


気分。


大きくなる。


酒。


約束。


「望むものを言え。」


娘。


一度。


母の方を見る。


母。


顔。


変わらない。


しかし。


目だけ。


答えを出す。


娘。


静かに。


言う。


「洗礼者ヨハネの首を。」


宴。


止まる。


笑い。


消える。


権力者。


顔。


硬くなる。


望んだ言葉ではない。


しかし。


皆の前。


約束した。


権力者は。


自分の言葉に。


捕らえられる。


これが。


後に。


広く知られる。


物語。


しかし。


この夜には。


その裏で。


もう一つの出来事があった。


ヨハネの最後の頼み

足音。


地下。


近づく。


ルキウス。


気づく。


ヨハネも。


気づく。


ヨハネ。


「来たな。」


ルキウス。


何も言わない。


ヨハネ。


「ルキウス。」


「何だ。」


「頼みがある。」


ルキウス。


「逃がせと言うな。」


ヨハネ。


笑う。


「お前一人では無理だ。」


ルキウス。


「分かっているなら。」


ヨハネ。


「東から来た男を知っているか。」


ルキウス。


「マキとかいう。」


ヨハネ。


「そうだ。」


少し間。


「いや。」


「この土地では。」


さらに。


「イェシュアと呼ばれ始めた男だ。」


ルキウス。


「聞いたことはある。」


ヨハネ。


「伝えろ。」


「何を。」


ヨハネ。


長く。


考える。


そして。


「私の続きをするな。」


ルキウス。


眉。


動く。


「意味が分からない。」


ヨハネ。


「私の真似をするな。」


「私は荒野で叫んだ。」


「あいつは。」


少し間。


「人の家へ入れ。」


「私は罪を責めた。」


「あいつは。」


さらに。


「罪の向こうにいる人間を見ろ。」


ルキウス。


黙る。


ヨハネ。


「同じ神を語っても。」


「同じ話し方をする必要はない。」


そして。


笑う。


「あいつは。」


「私より飯を食う。」


ルキウス。


思わず。


少し笑う。


ヨハネ。


「それでいい。」


足音。


近づく。


ヨハネ。


急ぐ。


「もう一つ。」


ルキウス。


「何だ。」


ヨハネ。


「名前の布。」


「はい。」


「あれを。」


少し間。


「聖なる物にするな。」


ルキウス。


「なぜ。」


ヨハネ。


「人は。」


「遺品を拝み始める。」


少し間。


「名前は。」


「祈るためではなく。」


さらに。


「生きている者を探すために使え。」


ルキウス。


その言葉。


覚える。


ヨハネ。


最後。


「そして。」


少し。


笑った。


「マキに言え。」


ルキウス。


「何を。」


ヨハネ。


「あいつは。」


少し間。


「あいつの言葉で話せ。」


足音。


止まった。


扉。


開く。


ヨハネは逃げなかった

兵。


入る。


命令。


短い。


ヨハネ。


立つ。


足。


少し。


震えている。

 

母。


「マキ。」


あの声。


思い出す。


名前を。


捨てる。


それは。


できない。


マキ。


ゆっくり。


言った。


「マキは。」


マリア。


見る。


マキ。


「私が生まれた時にもらった名前です。」


少し間。


「捨てません。」


さらに。


「でも。」


「ここで人々と生きるために。」


長い間。


「私は。」


「イェシュアという名も。」


「生きます。」


マタイ。


帳面。


書く。


最初。


マキ。


その横。


イェシュア。


二つ。


名前。


同じ男。


マタイ。


「どちらが本当の名前だ。」


マキ。


少し笑った。


「両方です。」


シモン。


「面倒だ。」


マキ。


「人間は面倒です。」


マリア。


「それは本当。」


笑い。


起こる。


しかし。


この小さな出来事が。


後に。


大きく。


変わる。


イェシュア。


その名が。


人から人へ。


町から町へ。


アラム語から。


ギリシャ語へ。


渡っていく。


やがて。


遠い地域で。


イエス

と。


呼ばれるようになる。


しかし。


その時も。


本人の中では。


一つ。


残る。


マキ。


母が。


最初に。


呼んだ名。


それだけは。


最後まで。


消えない。


マタイの最初の表題

その夜。


マタイ。


一人。


帳面。


見る。


「マキ。」


その横。


「イェシュア。」


考える。


そして。


上。


一行。


書く。


「東方より来たイェシュア、通称マキ。」


眺める。


少し。


変。


消す。


次。


「マキ、後にイェシュアと呼ばれる者。」


また。


消す。


最後。


何も。


書かなかった。


名前を。


固定するより。


男が。


何をしたか。


残す方が。


大事。


そう思った。


ただ。


帳面の端。


小さく。


一つ。


書いた。


「名前は変わっても、その人が捨ててはいけない最初の呼び声がある。」


それは。


後に知られる。


福音書には。


入らなかった。


この物語だけに。


残る。


マタイの。


最初の。


秘密の一行だった。


ヨハネから二度目の知らせ

数日。


人。


増えた。


七人。


十二人。


二十人。


マキ。


いや。


この土地では。


少しずつ。


イェシュア。


と呼ばれる。


ある夕方。


一人の男。


走ってくる。


また。


ヨハネの使い。


顔。


青い。


マキ。


立つ。


「何がありました。」


男。


息。


整えられない。


そして。


一言。


「処刑が。」


マキ。


動かない。


男。


「近い。」


空気。


変わる。


マキ。


「いつ。」


男。


「分からない。」


「でも。」


少し間。


「時間がない。」


マキ。


布。


握る。


名前。


たくさん。


そして。


一つ。


その布には。


まだ。


書かれていない名前。


ヨハネ。


マキ。


マタイへ。


言った。


「書いてください。」


マタイ。


「何を。」


マキ。


「ヨハネの名前を。」


マタイ。


黙る。


そして。


書く。


ヨハネ。


その横。


空白。


マタイ。


「何と書く。」


マキ。


「まだ。」


少し間。


「死んだと書くな。」


マタイ。


「分かった。」


マキ。


「まだ。」


もう一度。


「生きている。」


声。


強い。


自分へ。


言っている。


そして。


この瞬間から。


マキは。


初めて。


自分の言葉が。


人を集め始めたことを。


知る。


その言葉は。


もう。


自分だけのものではない。


だからこそ。


危険だった。


ヨハネを。


捕らえた権力が。


次に。


誰を見るか。


答えは。


少しずつ。


明らかになっていた。


第八回 終

次回 第九回「ヨハネの死――その日、マキは初めて『イエス』と呼ばれた」

ヨハネの処刑。

そして、宴席の裏で決まる一人の男の死。

よく知られている物語では、ヘロディアの娘の踊りと、首を求める場面が語られます。

しかし、この福音書では、その裏側にさらに一つの秘密を置きます。

ヨハネは処刑の前夜、一人の看守に頼みます。

「東から来た男へ伝えろ。」

看守。

「何を。」

ヨハネ。

「私の続きをするな。」

看守。

「どういう意味だ。」

ヨハネ。

「私の真似をするな、という意味だ。」

そして最後に。

「あいつは、あいつの言葉で話せ。」

ヨハネの死を知ったマキは、初めて人前で泣きます。

その後、彼は群衆の前へ立ちます。

そこでギリシャ語を話す旅人が、イェシュアという名を聞き取り、

「イエス?」

と問い返す。

マキは一瞬、否定しようとする。

しかし。

やがて。

「それでもいい。」

と答える。

こうして。

マキから、イェシュアへ。

イェシュアから、イエスへ。

名前が変わる。

ただし。

彼の心の一番奥で。

母の声だけは。

最後まで。

「マキ。」

と呼び続けます。