政府は「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」の名のもとに、
数十兆円規模ともされる投資計画を掲げている。
再生可能エネルギー、水素、アンモニア、次世代原子力など、技術・プロジェクトのリストは華やかだ。

しかし足元のエネルギー構造を見ると、

  • LNG・石炭・石油への依存

  • 老朽火力の延命

  • 再エネ導入の遅れと送電網の制約

という現実は、そう簡単には変わっていない。

「GX」と名付けただけで、実を伴わない計画は、
**“緑色の看板をかけ替えただけ”**に終わる。

■ 三つのバランスを同時にとる難しさ

エネルギー政策は常に、

  1. 安定供給(Lights must stay on)

  2. 経済性(料金・産業競争力)

  3. 環境・脱炭素(CO₂削減)

の三つのバランスの上に成り立つ。
どれか一つを優先しすぎれば、他の二つが犠牲になる。

  • 脱炭素だけを急げば、料金高騰や停電リスクが生じる。

  • 安さだけを追えば、化石燃料依存と気候リスクが高まる。

  • 安定供給だけを守ろうとすれば、古い火力や老朽インフラの延命にしがみつくことになる。

GXの本当の課題は、

この三つを、時間軸を含めてどう設計するか
にある。

■ 「いつ、どの電源を、どの程度減らし、何に置き換えるのか」

日本には、

  • 石炭火力

  • LNG火力

  • 原子力

  • 水力

  • 太陽光・風力などの再エネ

が混在している。

GXを掲げるなら、

  • 老朽火力のフェードアウトスケジュール

  • 原子力の位置づけと新増設・リプレースの可否

  • 再エネの導入目標と系統整備

  • 省エネ・需要側管理の強化策

を、「いつ・どこで・どの程度」という数字とともに示す必要がある。

単に「再エネを拡大」「脱炭素を加速」と言うだけでは、

  • 電力会社はどの設備に投資すべきか判断できず

  • 企業も、エネルギー価格・供給の見通しを立てられない。

結果として、
誰もリスクを取って投資しないエネルギーシステムになってしまう。

■ 料金の議論から逃げてはならない

GXには、当然コストがかかる。

  • 新しい設備投資

  • 送配電網の増強

  • 蓄電池や水素インフラ

これらは、最終的には料金か税金を通じて国民が負担する。

「脱炭素は大事だが、料金は上げない」
という“魔法のような約束”はできない。

だからこそ、

  • どの層にどの程度の負担を求めるのか

  • エネルギー多消費産業への移行支援をどう設計するのか

  • 低所得層への逆進性をどう緩和するのか

を、正直に説明することが不可欠だ。

■ 結び──GXは「看板」ではなく「国のかたちの選択」

GXは、単なる技術プロジェクト集ではない。

  • 地方にどれだけ再エネの収入を還元するのか

  • 都市構造や交通・住宅をどう変えていくのか

  • 産業構造と雇用をどう移行させるのか

といった、「国のかたち」を選び直すプロセスでもある。

美しいスローガンや巨額の数字だけでは、現実は動かない。

  • 三つのバランス(安定・経済・環境)

  • 時間軸

  • 負担の配分

を具体的に示し、国民と共有すること。
それができて初めて、GXは“看板”ではなく、「現実を変える力」になる。