祖師ヶ谷大蔵の駅に着くと救急隊が消毒用のアルコールを差し出してくれましたが、手に着いた血痕はなかなか落ちないものです。また明るいところに来て初めて分かりましたが、ズボンの下半分は血で真っ赤に染まり、シャツにも血液が付着していました。駅舎で最寄りの駅を聞きましたが、京王線の千歳烏山まで30分程かかると言います。例え歩いて辿り着いたとしても、血まみれの姿で電車に乗るわけにも行かなかったでしょう。救護活動をしたからと言って、警察や救急隊が家まで送ってくれるわけではないことは分かっていましたが、さすがにどうしたものかと困り果ててしまいました。タクシーを拾おうにも駅周辺はパトカーや救急車が停車し、一般車両は渋滞で一歩も動けない状態でした。

 しかたなく、渋滞の車を尻目に環八まで歩いて行くことにしました。幸い、空車がすぐに来ましたので手を挙げると止まってくれました。運転手が訝しそうな表情を浮かべたので、やはり血まみれでは乗せてくれくれないのかと思いきや、マスクをしていないことに気づきました。騒動の最中にいつの間にか外れていたのでしょう。8月の初旬と言えばコロナ第5波のピークに向かって感染者が急増している時期でしたので、マスクをしないのはあり得ないことでした。すぐに鞄の中からスペアのマスクを取り出し装着すると快く乗せてくれました。周囲はかなり暗かったので血まみれの姿とは思わなかったのでしょう。タクシー内でスマホニュースを見ましたが、この時は犯人の行方などあまり詳しい情報はありませんでした。犯人が確保されたのを知ったのは、家に着いてテレビのニュースを見てからでした。

 ほどなくしてYouTubeに車内の様子を写した動画がアップされていました。あんな状況でもスマホ動画を撮る人がいることに驚きました。----つづく