久しぶりに投稿します。

今回は私が日本医科大学在職中に参加した治験で、画期的な成果が出たので紹介します。

 

不育症の原因は多岐にわたります。抗リン脂質抗体症候群、先天性子宮形態異常、夫婦染色体構造異常は不育症の3大原因といわれますが、その他にも内分泌代謝異常、血液凝固異常なども原因になり得るといわれています。不育症の検査を行っても原因が特定できない場合は60%以上に登るといわれます。いわゆる原因不明不育症です。

この度、流産歴4回以上の原因不明不育症 に対する免疫グロブリン大量療法が、妊娠継続および生児獲得の割合を上昇させ、治療として有効であることが証明されました。特に、妊娠4~5週台に投与すると効果が高いこともわかりました。

この研究は山田秀人神戸大学教授(当時)と齋藤滋富山大学教授(当時)が中心となり、全国14施設における共同研究として行われました。私が在籍した日本医科大学産婦人科もこの治験に参加しました。研究デザインは、二重盲検ランダム化プラセボ対照群間比較試験という最も厳密なもので、原因不明かつ難治性の不育症に対する妊娠初期の静注免疫グロブリン大量療法の有効性を解析しました。

その結果、免疫グロブリンを投与された50人ではプラセボ(偽薬(生理的食塩水))の49人に比べて、妊娠継続率はプラセボ 34.7%→免疫グロブリン投与62.0%、生児獲得率はプラセボ 34.7%→免疫グロブリン投与58.0% に上昇することがわかりました。特に、免疫グロブリンを妊娠6週台に投与するよりも、妊娠4~5週台に投与開始した症例では、より治療効果は高く、妊娠継続率が67.6% (プラセボ 25.0%; OR 6.27, 95% CI 2.21–17.78; p<0.001)、生児獲得率が61.8% (プラセボ 25.0%; OR 4.85, 95% CI 1.74–13.49; p=0·003) にまで上昇することがわかりました。

一般に流産の原因は胎児の染色体異常などが多い(60%以上)といわれています。染色体異常など胎児側に原因がある場合は母体の治療をしても結局は流産してしまいます。そこで、胎児の染色体異常がみつかった症例を除いて解析をし直しました。すると統計学的に意味のある差異(有意差)が確認できなくなりました。このことは一見免疫グロブリンの有効性はなかったことになりますが、詳しくデータを見直すとそうでもないことがわかってきました。

免疫グロブリン投与群で流産した場合の胎児染色体検査をすると、染色体異常が非常に少ないことがわかったのです。この偏りは偶然では説明できないほど顕著でした。この解釈は難しいのですが、免疫グロブリンが染色体異常を減らしたとも考えられます。受精卵(胚)にはかなりの確率で染色体異常細胞が発生しますが、染色体異常細胞を排除する自己修復能が備わっていることがわかっています。染色体異常流産は、この自己修復能が及ばなかったために流産したとも考えられます。すなわち、免疫グロブリンが自己修復能を手助けしている可能性が示唆されたのです。

研究成果は、6月29日に、英国の科学雑誌 THE LANCET Discovery Science, eClinical Medicine(インパクトファクター:17.033)にオンライン掲載されました。

この治療の欠点は治療費が高額になることです。有効性が世界的に認められても保険適用になっていないため、全額自費で支払わなければなりません。薬剤費だけで5日間の点滴治療費が70万円〜120万円(体重によって増減します)になります。入院での治療が必要になるので、これに自費入院費(+差額ベッド代)が加わります*。

不妊治療が保険適用なった現在、何とか本治療にも保険が適用されることを願うばかりです。自治体によっては不育症自費診療に対する助成金制度がありますので、お住まいの自治体にお問い合わせ下さい。

 

*竹下レディスクリニックには入院設備がないので現在のところ本治療は行っておりません。