8年分の「動く待ち合わせ場所」の行方。 | 歩く雑誌・月刊中沢健のブログ

8年分の「動く待ち合わせ場所」の行方。






僕が割とされる質問に「今までに作った『動く待ち合わせ場所』や『歩く雑誌』って取っておいてあるんですか?」というものがある。
 僕が全身画用紙を身に纏うようになってから、もう10年以上経ってしまったわけで、平均月1ペースで新しい記事や待ち合わせ場所を作っていると、その量も膨大になる。
 ただ画用紙で作った記事だ。それもこの活動を始めてから最初の8年間くらいは衣服にガムテープで記事を貼り付けていた(今は安全ピンで止めている)ので剥がす時にはもうボロボロになってしまうことも多く、ゴミとして廃棄してしまった物も多い。
 それでも残った歩く雑誌の記事と動く待ち合わせ場所のボリュームも相当であることは確かだ。

 残してある歩く雑誌の記事と動く待ち合わせ場所がどこに置いてあるのか。学生時代に作っていた物は実家の奥に親にバレないようにこっそりと隠してあり、この2年間くらいに作った物は自分の部屋に置いてある。
 では、残りの動く待ち合わせ場所たちはどこに行っているのか? というと、実は一人の女の子の家に置かれているのである。
 ニ年半ほど前のこと、それまで約8年ほど住んでいたマンションから引っ越す準備で大変なことになっていた。オタクの悪い癖(?)で、とにかく物が多い。 マンションでは妹とルームシェアをしていたのだが、共有の空間にも自分の荷物が大量に置いてあったため、引越し先にこれらの荷物を全て持ち込むのは不可能だということは分かっていた。
 本当にいらない物は処分して、捨てるには惜しい物は友人にあげたり、古本屋やまんだらけで売って来た。
 そんな中、僕を大いに悩ませたのが、押入れの中に大量に押し込められていた歩く雑誌の記事と、動く待ち合わせ場所である。
 捨てずに大事に取っておいた自分の作品だ。出来ることなら新居にも持っていきたい。しかし、ただでさえ物が多いのにこの尋常じゃない量の動く待ち合わせ場所たちまで持っていくというのは如何なものなのか?
 動く待ち合わせ場所を取っておく=その量の本やフィギュアなどを手放さないという状況に悩まされてしまうのだ。
 既にボロボロにもなっているし、思い切って捨ててしまうべきなのか……とも考えた。友人たちにその悩みを打ち明けると、大抵の人が「捨てるのは勿体無いですよ」「取っておきましょうよ」と言う。
 だが、僕が「じゃあ、よかったら貰ってくれる?」と聞くと、みんな「すみません」と答えやがるのだ。
 いくら使い古した状態とはいえ、何だか自分が8年間ずっとゴミを作り続けていたような気持ちになり、ちょっぴり落ち込みもした。
 それでも最後に悪あがきで、あまり期待もせずにツイッターに僕はこんなことを書き込んだ。
『引越しをするのに、8年分の動く待ち合わせ場所と歩く雑誌の記事をどうするべきか悩んでいます。 もしも、譲ってほしいという方がいるのなら一個や二個でもいいので貰ってやってください』
 ……まぁ、こんなふうなことを呟いてみたのだ。すると、すぐにある女の子からリプライが届いた。
 その女の子は、僕も出演した都市伝説をテーマにしたトークイベントにお客で来ていた子だった。
『動く待ち合わせ場所、欲しいです』と、その子は言った。
 ツイートして本当にまだ数分で、動く待ち合わせ場所を譲ってほしいという声が届き、嬉しくなった僕の質問『ありがとうございます! 是非とも、送らせていただきたいと思うのですが何個くらい欲しいですか?』 すると今度は驚きの答えが返ってきた。
『もし貰えるんなら全部ください。全部欲しいです!』と。
 一応、僕は動く待ち合わせ場所も歩く雑誌もとんでもない量があるので大変ですよと説明したのだが、それでも欲しいと言うので、僕は小さい冷蔵庫くらいなら入れられそうなダンボール箱いっぱいにぎゅーぎゅーに押し込んだ動く待ち合わせ場所と歩く雑誌を、着払いで(オイ!)、その子の元へと送ったのだった。
 怒られるかな? ともちょっと思っていたんだけど、動く待ち合わせ場所を受け取ったその子はとても喜んでくれた。
 どう見ても大量のゴミが送られてきたようにしか見えなかったその子の家族からは「今日がゴミの日だったんだぞ」とか「怖い!」「異常者!」とかいろいろ言われたみたいですが、まぁその反応も至極真っ当だと思う。

 それから三ヶ月ほど経って、その子が同じ事務所に所属することになったことを聞いた時には驚いた。
 生きるリアル妖怪として活動中の十四代目トイレの花子さんが、その子だったのである。
 今では同じ事務所の仲間であるし、仲のいい友達でもあるのだが、そもそもは僕にとって彼女は、動く待ち合わせ場所をゴミにしないでくれた恩人(恩妖怪?)なのだ。

 ということで、現在、一番数多くの動く待ち合わせ場所を持っているのは、たぶん十四代目トイレの花子さんなのでした。
 もっとも、花子さんにとっても、想定外の量が送られてきたため、お気に入りの物は今でも残しておいてあるが、いくつかは処分してしまったらしいのだけれど……現実はドラマのように綺麗なオチとは行かぬ。

 さて、それはそうと、最初にも言ったようにこの2年くらいに作った動く待ち合わせ場所や歩く雑誌の記事は今も僕の部屋に置かれている。
 が、部屋の空きスペースもどんどん少なくなってきているので、もし欲しい方がいるのなら、また誰かに差し上げたいという気持ちがあります。
 僕と直接会う機会があるような人になら直接持って行ってもいいし、そうじゃなければ郵送で送らせてもらえればと思う。
 十四代目トイレの花子さんのように全部とは言わなくて良いので、1個でも2個でも欲しいという人がいれば是非、僕に言ってください。
 着払いで送り付けます。