麻生要一著「新規事業の実践論」を読みました。久しぶりに熱い気持ちにさせられた充実した一冊でした、大変勉強になりました。

本書は仕事を一緒に行っているチームメンバーから紹介され読みました、チーム全体で読書を習慣化していきたいと思います。

 

印象に残った点を以下引用します。

 

1. 日本ではなぜ起業家が増えないのか?

理由は大変シンプルで、アメリカと比べて日本の労働者は手厚く守られているからです。日本の優秀なサラリーマンはどんなにスタートアップ企業を取り巻くエコシステムに資金が流れても会社を辞めてまで起業しないのです。

アメリカ社会では企業が簡単に解雇することが出来る。だから社員は自律的にキャリアを考えざるを得ないし、転職もすれば、起業だってする。そんな「いまいる組織を簡単にやめる」構造の中で資金が流入するので、比例して起業家が増える。絶対数が増えれば起業家のレベルが上がりより革新的なイノベーションが生まれ、強固なエコシステムができていく。それと比べ、労働者が強く守られている日本社会では、同じようにはいきません。アメリカと同じ考え方で起業家を増やすのはどだい無理なのです。

では、労働者を守る社会の仕組みはイノベーションにとって害悪なのか。そんなことはありません。「簡単にやめされられない」ということは「どれだけ失敗しても生活が揺るがない」とも言えます。生活が揺るがないからこそ進んでリスクを取ることが出来る。本来、それが

イノベーションを加速させる社会デザインであってしかるべきなのです。

2. WILL

最初にやるべきことはWILL(意志)の形成です。WILLが形成されていくことが社内起業家としての「覚醒」につながっていくのです。(中略)

そもそも「WILL」とは「未来形」を表す助動詞であり「意志」を表す名詞であり、「決意する」を意味する動詞です。この言葉を、私(麻生)は新規事業開発の「一番最初に必要な要素」と考えているのですが、その「定義」とは次の3つの質問に対する回答です。

Q1:誰の

Q2:どんな課題を

Q3:なぜあなたが → 解決するのか?

これらの問いに、初めは弱々しく不明確にしか答えられませんが、明確に、力強く、自分の中で確信できている状態にまでなると、

社内起業家としての「覚醒」に至ります。

3. 「ゲンバ」と「ホンバ」

普通の人が「とある行動と体験」を繰り返すと、だんだんWILLが形成され(中略)「社内起業家として覚醒する」と表現してきたかけがえのない瞬間です。これを、私(麻生)は「原体験化」と呼んでいます。では「人を原体験化に導く行動・経験」とはなんなのでしょうか。

それは「ゲンバ」と「ホンバ」に行くことです。(中略)実際にゲンバに足を運んだときに大切なことは、肩書やこれまでの経験・常識を捨て「1人の人間」としてゲンバの当事者と対話すること。(中略)どれだけ立派な会社の立派な肩書があろうと、これまでに華々しい実績があろうとまったく通用しない。そういう根深い課題のゲンバに、肩書や所属や実績を捨て「1人の人間」として向き合った瞬間に感じる全ての感情が、コップに水を溜めていってくれます。ホンバとは「新規事業開発の最前線」のことです。企業でいえば、東京のスタートアップ企業や先進的な大手企業の社内ベンチャーもホンバと言えるし、既存事業の部署で働く人で言えば、自分が所属する企業の新規事業開発部やイノベーション推進本部などの最前線もホンバです。(中略)ホンバの人に触れ、刺激を受けることはWILLの形成を大きく助けてくれます。ゲンバを訪ね根深い社会課題を前にしたとき、既に異なる領域で課題に立ち向かい、創造性と強い意志を持ち立ち向かうホンバの人たちの存在は勇気を授けてくれるからです。

ゲンバとホンバ、この2つを往復することが原体験化へと導いてくれます。ゲンバで解決の糸口が見えない課題を知り、ホンバで視座の高さ

や技術を体感し、またゲンバに戻る。これを繰り返すことで、自分の中の空のコップに水が溜まっていくのです。

4. 3つの力

「Network:異分野をつなぎネットワークする力」×「Execution:あらゆる業務を圧倒的に実行しやりきる力」×

「Knowledge:深く広い教養と知識」

5. 創業チーム

創業チームは「3人以下で、外部に委託し得ない役割が網羅され、Network+Execution+Knowledgeの3つの力が内包されている」状態を目指すべきです。

6. 立ち上げ期に考慮すべきたった2つの要素

新規事業の立ち上げ期に登場するべき単語は「たった2つ」。「仮説」と「顧客」です。

仮説を顧客のところに持って行き、顧客の反応に応じて仮説を修正する。そして修正仮説を顧客のところに持って行き、再び仮説を修正する。そして修正仮説を顧客に持って行く・・・・。「仮説を顧客に持って行き、修正する」のサイクルをひたすら回すのが、立ち上げ期のチームがやるべき唯一のことです。

7. 顧客へのヒアリング

「この人だ」と思う対象顧客を見つけ、ようやくアポイントまでこぎつけたとします。しかし、当日のヒアリングのやり方がまずければ得るべき情報がまったく得られないという悲しい事態が生じてしまいます。そこで重要なのが深い情報を引き出すヒアリングスキルなのですがこれは一言で言えば「仮説を押し付けないスキル」です。新規事業の創業メンバーは、自らの仮説に強いこだわりや思いがあるから、ヒアリングすべき対象顧客と向き合った際、つい相手を説得してしまいがちです。自分がよいと思っている案だから、どうしてもそれをわかって欲しい、よい反応が欲しい。そういう気持ちから、全力でその仮説をプレゼンテーションしてしまうのです。その結果、全力で説得された対象顧客は本当は「ちょっと違うな」と思っていたとしても、ポジティブな反応を示してしまうことがあります。対象顧客だって人間です。自分たちの課題を全力で解決しようとしてくれている目の前のチームに対して好意もあるから、なるべく傷つけないようにしたい。こうしたバイアスが本当に知るべき情報を歪めてしまいます。(中略)できる限り、意志や気持ちではなく動かせない事実のみをヒアリングするようにします。

8. 最初の顧客発見のためにPDCAを回すべき3C

Channel:顧客に出会うためのあらゆる手法を試す

Communication:トークスクリプト、セールストーク。チャネルが正しくて出会ていてもトークが刺さらず購入に至らなかったのかもしれない。

Customer Success:最初の顧客は商品の使い方がわからず、サポートを必要とすることがほとんど。どんなサポートが必要か。

 

引用を終わります。

 

私自身は「社内起業」し一度失敗しました。その後社長として「社内事業再生」に挑みそこでは成果を挙げることが出来ました。なので、多少前提条件は違いますが、本書に書かれている要諦は大いに共感することが出来ると共に、自分自身を振り返っても該当することが多くありました。

 

*失敗した社内起業

・WILLは全くありませんでした。

・ゲンバに行かず、ホンバとも接点を持とうとしませんでした。

・チームも曖昧な構成でした。

 

*成果を挙げた社内事業再生

・WILL:「俺がやらなきゃ誰がやる」、この厳しい環境の中で先頭に立ち困難に立ち向かっていくために、学生時代にラグビーに取り組んでいたと繋がったこと。

・ゲンバとホンバ:ゲンバは店舗のゲンバを回りスタッフの皆さんと対話を続けたこと、ホンバは大前さん、斎藤さん、越さんから学んだこと。

・チーム:2人で毎日ミーティングを続けたこと。

・顧客:店舗にいらっしゃるお客様に直接インタビューする機会を作り、いくつもの示唆を頂き、それを実行し成果に繋がったこと。

 

私にとってかけがいの無いビジネスの、いや人生の1ページでした。あの時の挑戦は私の人生を変えましたが、新規事業に取り組んだ多くのビジネスパーソンが同じような経験を積み重ねているのだと共感することが出来ました。

 

本書の冒頭は「あなたは仕事で涙したことがありますか?」という問いかけから始まります。私は社長時代何回か涙しました、「恐怖を乗り越えた後」、「自分の人生と生き様を人前で話した時」、「課題に対し自分の限界を知った時」。しかし、残念ながらその後はそこまで到達したことがありません。近づいた時は何度かありましたが到達していません。本書を読み、もう一度あの場に立ちたいと強い願望を持ちました。もちろん当時と年齢も違います、環境も違います、立ち位置も違います。しかし、「ビジネスは論理と気合、自分の人生と生き様を賭けるもの」、自分の持っている全ての力を課題に対しぶつける場に立ちたいと思います。

 

行動を挑戦をこれからも続けます、素晴らしい本をありがとうございました。

 

#新規事業の実践論