ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」(上)を読みました、本書もリベラルアーツの推薦図書として紹介されていたものでした。副題にある「1万3000年にわたる人類史の謎」の通り、世界史を再度学び直すような圧倒的なボリュームに圧倒されました。本書は上下巻ありまだ上巻だけです、下巻も気を引き締めて臨まないと読了出来ないですね。
本書はジャレドが長年フィールドワークを続けているニューギニアで優秀な現地スタッフより受けた以下の質問から始まっています。
「あなたがた白人はたくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだ。私たちニューギニア陣には自分たちのものと言えるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」
第一部「勝者と敗者をめぐる謎」、第二部「食料生産にまつわる謎」、いずれも改めて「なぜ?」から始まっている研究とストーリーには本質に迫る迫力と裏付けがある内容でした。
第一部第2章「平和の民と戦う民の分かれ道」では、ラグビー選手にはなじみ深いマオリ族とモリオリ族の物語が紹介されています。1000年ほど前同じポリネシア人から派生した「もめごとは穏やかな方法で解決するという伝統」を作ったモリオリ族が住む島に「人口の稠密なところに住み残虐な戦闘に加わることが珍しくなく武器も優れたものをもっていた」マオリ族が訪れ数年のうちにモリオリ族を全滅させてしまったのでした。やはりマオリ族は強く恐ろしい。
第3章「スペイン人とインカ帝国の激突」では疫病について説明されています。「もし天然痘の大流行がなかったらインカ帝国の分裂は起こらず、スペイン側は一致団結したインカ軍を相手にしなければならなかったのである。(中略)世界史ではいくつかのポイントにおいて疫病に免疫のある人たちが免疫のない人たちに病気をうつしたことが、その後の歴史の流れを決定的に変えてしまっている。天然痘をはじめとしてインフルエンザ、チフス、腺ペスト、その他の伝染病によってヨーロッパ人が侵略した大陸の先住民の多くが死んでいるのだ。」
本の題名にも「病原菌」が入っている通り人類の歴史とともに病原菌はあるのですね。
「食料生産にまつわる謎」では食料生産に関する諸要因の因果連鎖について次のように説明されています。
「東西方向に伸びる大陸」
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「種の分散の容易性」 「適正ある野生種の存在」
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「多くの栽培植物と家畜の存在」
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「余剰食料、食料貯蔵」
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「人口が稠密で定住している人々の階層化された大規模社会」
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「技術の発達」 「政治機構、文字」
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「銃、鉄剣」 「外洋船」
そして第三部「銃・病原菌・鉄の謎」第11章「家畜がくれた死の贈り物」から感染症についてのストーリーが始まります。
・基本的に病原菌もわれわれ人間と同様自然淘汰の産物なのである。生物は進化のある過程において自分の子孫を適正な生存環境にばらまくことによって生き残る。病原菌にとって自分の子孫をばらまくという行為はどれくらい多くの人間につぎからつぎへと感染できるかという数学的な問題である。そして、感染者の数がどれくらいになるかは罹患者がどのくらい長い間感染源として生き延びられるかということと、病原菌がどのくらい効率よく感染できるかによって決まるのである。
・もっと強力な手段で伝播するのがインフルエンザ、風邪、百日咳に代表されるタイプである。これらの病原菌は感染個体に咳やくしゃみをさせ、新たな犠牲者にうつっていく。
・病原菌はわれわれを「病気にする」ことによって得をするのである。(中略)平均して一人以上の新しい犠牲者を出すことが出来れば最初の感染個体が死んでしまっても病原菌は伝播の目的を達成できるというわけである。
・病原菌が人類史上で果たした役割について考慮しながら、本書のはじめでとりあげたニューギニア人スタッフの問いかけに答えると、どうなるのだろうか。非ヨーロッパ人を征服したヨーロッパ人がより優れた武器を持っていたことは事実である。より進歩した技術や、より発達した政治機構をもっていたことも間違いない。しかし、このことだけでは少数のヨーロッパ人が圧倒的な数の先住民が暮らしていた南北アメリカ大陸やその他の地域に進出していき、彼らにとってかわった事実は説明できない。そのような結果になったのはヨーロッパ人が家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌をとんでもない贈り物として進出地域の先住民に渡したからだったのである。
主な引用を終わります。
今日私たちが直面しているウィルスとの闘いは人類の歴史そのものであったことを再認識することが出来ました。そして病原菌が人類の歴史を変えたことも気づくことが出来ました。コロナウィルスの影響はもちろんですが、このウィルスがどのように人類の歴史を変えていくのか、今を生きる私たちに大きな問いかけとなりました。
下巻ではさらに物語が続きます。ボリュームが多い著書ですが根気強く読破を目指したいと思います。