今日の読売新聞朝刊に、国会図書館には過去の偉人らの歴史的音源が残っており、インターネットでも公開しているとの記事。中に日露戦争の日本海海戦で活躍した東郷平八郎元帥本人による朗読音源が残っているという。


「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動、これを撃滅せんとす。本日晴朗なれども波高し。」


日本海軍がバルチック艦隊との雌雄を決するときに連合艦隊司令長官であった東郷が旗艦三笠から大本営に打電した報告内容。有名なフレーズだ。


毎日新聞社の雑誌エコノミストで高橋是清の伝記連載が続いており、少し前に日露戦争の背景、その後のワシントン軍縮条約の締結理由などを少し前に改めて学んだばかり。当時の国力でよく勝利したものだ。


 他にも著名人の演説や講演が公開されている。面白い。



朝日放送のクイズ番組アタック25が最終回を迎えた。歴代チャンピオン大会。46年間放送されたそうだ。私はいつから見ていただろうか。前司会者の児玉清さんも亡くなった。最後の答えが始皇帝というのはちと簡単だなと思ったが最後の最後は当たらないといけないだろうというRの解説に納得。歴史ある番組の終了は残念だが最後の放送を見れて良かった。

その後、甥や姪が遊びに来ていたが、ゲームをしていたあと、皆で外に出ていったので、録画していた番組を見る。なんとハードディスクが満杯でこの一週間の録画はできてなかった。見過ごし配信でリカバリー。助かった。



録画していたのはNHK・Eテレの「100分 de 名著」という番組。9月6日(月)に、フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボン(1841 - 1931)が著した『群衆心理』(原書は1895年出版/櫻井成夫訳・講談社学術文庫)の第一回目の放送が始まった(全4回)。それを見た軍師 河了貂(『キングダム』)から『心に刺さった』との感想を聞いていた。

今日3回分をまとめて見る(一回はネットNHKプラス)。

『群衆心理』


第1回「群衆心理」のメカニズム
群衆に影響を与えるものとは何か?

フランス革命(1789年〜)当時の理論の中心となった啓蒙思想(人間の理性を重視する思想→その集大成が百科事典の誕生)だが、実際には、群衆は理性によって動くことはなく、ただ感情的に理解できたものに従い行動した。

民衆を抑圧してきた王族への怒り
→マリー・アントワネットら王族のギロチンを使った処刑だけでは飽き足らず、まだ8歳だったルイ17世を幽閉して虐待、死亡。

→民衆に、啓蒙思想の理解などはなく、王政を壊せばよいという分かりやすい発想

→群衆が思想を理解するのは簡単ではない。

ル・ボン
「思想は、極めて単純な形式をおびたのちでなければ、群衆に受け入れられないのであるから、
思想が一般に流布するようになるには、しばしば、最も徹底的な変貌を受けねばならないのである。」

「ある思想が、群衆の水準に達して、群衆を動かすという事実だけで、その高級さ、偉大さが、ほとんどすべて失われてしまうのである。」

ゲスト講師 ライター武田砂鉄さん
・「100分で名著」という番組名だが、本来(単純化して)100分ではわからない。自分の著書にも、まとめ本出版の提案もあるが、断固拒否している(笑)。
・民衆へのわかりやすさ→テレビ番組の箇条書きまとめやテロップなど。
・ネットなどで論破することが流行っている。単純化と相性がいい。

司会 伊集院光さん
・ディベートで賛否を決めて、二択でわかりやすく議論するのも似ているかも。


第2回「単純化」が社会を覆う
ル・ボン
「群衆は心象(イマージュ)によらなければ、物事を考えられないのであるし、また心象によらなければ、心を動かされもしないのである。この心象のみが、群衆を恐怖させたり、魅惑したりして、行為の動機となる。」

何が群衆のイマージュを刺激するのか?
フランス革命当時の懸案事項は「食糧危機と財政難」だった。
不穏な空気の中で群衆の心を掴んだのは「自由・平等」といったある意味単純で曖昧な意味をもつ言葉。

ル・ボン
「道理や議論も、ある種の言葉やある種の標語に対しては抵抗することができないであろう。
群衆の前で、心をこめてそれらを口にすると、たちまち、人々の面はうやうやしくなり、頭をたれる。
多くの人々は、それを自然の力、いや超自然の力であると考えた。
言葉や自然は、漠然とした壮大な心象を人々の心のうちに呼び起こす。心象を暈(ぼか)す漠然さそのものが、神秘な力を増大させるのである。
言葉とは、心象を呼び出す押しボタンにほかならないのだ。」


ルボンが政治家をどう評価していたか?
ル・ボン
「政治家の最も肝要な職責の一つは、古い名称のままでは群衆に嫌悪される事物を、気うけのよい言葉、いや少なくとも偏波のない言葉で呼ぶことにある。

言葉の力は、実に偉大であるから、用語を巧みに選択しさえすれば、最もいまわしいものでも受けいれさせることができるほどである。」

武田砂鉄さん
・自分の党(自民党)をぶっ壊す、抵抗勢力(というレッテルばり)。
→小泉総理が総裁選や郵政解散で用いたスローガン。区画整理された(単純な)見え方。

ル・ボン
「政治指導者の手口=幻想」と指摘。真実である必要はないと。

「幻想は、民衆にとって必要欠くべからざるものであるために、
民衆は、灯火に向かう昆虫のように、幻想を提供する修辞家のほうへ本能的に向かうのである。

これまで群衆が、真実を渇望したことはなかった。群衆は、自分らの気に入らぬ明白な事実の前では、身をかわして、むしろ誤謬でも魅力があるならば、それを神のように崇めようとする。

群衆に幻想を与える術を心得ている者は、容易に群衆の支配者となり、群衆の幻想を打破しようと試みる者は、常に群衆のいけにえとなる。」

武田砂鉄さん
「幻想」の具体例は、2021年1月のアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件。大統領選挙で不正があったと主張するトランプ前大統領を信じた群衆が蜂起し、連邦議会に突入して警察官を含む5人が死亡した。


ル・ボンのいう群衆の主な特徴
①衝動的で、動揺しやすく、昂(こう)奮しやすい
②暗示を受けやすく、物事を軽々しく信ずる性質
③感情が誇張的で、単純であること
④偏狭さと横暴さと保守的傾向
⑤群衆の徳性
※武田砂鉄さんは⑤を連帯と捉え、正しい方向に向かえば、社会を改革・前進させる要素があるとした。
→SNSを中心に拡がった女性へのセクハラを告発する運動 #MeToo運動など


第3回 操られる群衆心理
いかにして群衆は操られるのか?
偶然なのか?政治指導者側から仕掛けるのか?その手口

ル・ボン
「およそ推理や論証をまぬかれた
無条件的な断言こそ、群衆の精神にある思想を沁みこませる確実な手段となる。

断言は、証拠や論証を伴わない、簡潔なものであればあるほど、ますます威力を持つ。  

何らかの政治上の立場を擁護すべく求められる政治家とか、広告で製品を宣伝する産業家は、断言の価値を心得ているのだ。」

武田砂鉄さん
(断言の)結果は、シビアに問われない。2016年の都知事選における小池知事の7つの公約をみても、ほとんど実現していないが、2020年の都知事選では圧勝。(4年前の)2016年の公約を検証することが非生産的に映る。断言を欲する民衆の姿もある。


フランス革命から150年後
ドイツ語版『群衆心理』を読んでいたとされるのが、ナチス・ドイツを率いたアドルフ・ヒトラー。

ル・ボン
「ある理念を大衆に伝達する
能力を示す扇動者は、しかもかれが単なるデマゴーグにすぎないとしても、つねに心理研究家であらねばならない。

そうすればかれは、人間にうとい、世間から遠ざかっている理論家よりも、つねに指導者にもっとよく適するであろう。

大衆の受容能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわりに忘却力は大きい。

この事実からすべて効果的な宣伝は、重点をうんと制限して、
そしてこれをスローガンのように利用し、そのことばによって、目的としたものが最後の一人にまで
思いうかべることができるように
継続的に行われなければならない。」

→群衆は断言を反復されると疑いを持たなくなってしまう。
この拡がりを「感染」と呼ぶ。

ル・ボン
「 ある断言が、十分に反覆されて、その反復によって全体の意見が一致したときには、いわゆる意見の趨勢なるものが形づくられて、
強力な感染作用が、そのあいだに働くのである。

群衆の思想、感情、感動、信念などは、細菌のそれにもひとしい
激烈な感染力を具えている。

意見や信念が伝播するのは、感染の作用によるのであって、推理の作用によることはあまりない。

現在、労働者たちのいだく考えは、酒場で、断言、反覆、感染の結果、形づくられるのである。」

伊集院さん
近年ではSNSでも。Twitterでは字数制限があるのでより強いメッセージになっている。

→フランス革命のときに指導者の他に群衆に影響を与えたもの

ル・ボン
「極めて不十分ながら、定期刊行物が、指導者のかわりをすることもある。
定期刊行物というものは、読者たちに意見をつくってやり、彼等に出来合いの文句をつぎこんで、自ら熟慮反省する労をはぶいてしまうのである。
以前には世論を指導した新聞雑誌はどうかといえば、これも、政府と同じく、群衆の力の前には
醸歩せねばならなかった。

もちろん、その勢力は絶大である。しかし、それというのも、新聞雑誌が、民衆の意見と意見の不断の変化とをもっぱら反映しているからにすぎない。

新聞雑誌は、単なる報道機関に化して、どんな思想もどんな主義も
強制しなくなり、ただ世論のあらゆる変化に追随する。」

・定期刊行物や新聞雑誌
現代ではテレビやインターネット、SNSなどが加わる

武田砂鉄さん
ニュース番組で「街の声」を聴いたとしてインタビューを流す。メディア側はどれをどれだけ流すかは作為的に選んでいる。それより報道機関としての声を取り戻してほしい。

伊集院さん
街の声とすると説得力があるかもしれないが、メディアが自分の意見を出すほうがいいということですか?

武田さん
そうです。

伊集院
「この本をヒトラーが読んでいて、群衆が読んでいないというのが良くない」


1895年にこれだけの内容を記しているというのは凄すぎる。この問題は、政治側の課題というより群衆側が賢くなるしかないというのが私なりの結論。130年たっても当てはまっているというのは、これだけ文明や教育水準が上がっているのに褒められたことではないと思う。さて明日の最終日はどういった内容なのだろうか。

次回
9月27(月)午後10時25分~10時50分/第4回 群衆心理の暴走は止められるか。

NHKテキストでも販売されている。

テレビを見ているとその前で、ちーちゃんが眠っていた。