朝からテレビのニュース番組は安倍総理の辞意表明を受けての話が続いている。色々梯子して見ていると、報道番組ではないが、TBSのサンデージャポンでは元自民党議員の二人のタレントが今回の総裁候補の一人である石破氏だけの批判やツイッターで辞意表明会見を批判したタレントの批判を真顔で思い切りやっていた。


笑いならいいが、総裁選挙の前に公共の電波で特定候補だけの批判や選挙で選ばれた人でもない一般人向けに総理を経験してから言えとかかなりバランスが悪い。というか質が低い。どんな立場でやっているのか。


それはそうと、7年半続いた安倍政権について振り返ってみる。安倍氏がやりたいことは何だったのか。政治家としてもそうだが、総理大臣となったときに何を成し遂げるかを考えるはずだ。安倍氏の場合、何よりも「憲法改正」だろう。これは母方の祖父 岸信介がなし得なかった自主憲法制定という悲願である。第一次安倍内閣発足時に掲げた『戦後レジームからの脱却』というスローガンだが、その意味するところは『憲法改正』であった。


とはいえ、連立を組む公明党の消極姿勢や野党第一党が欠席する形での強引な憲法調査会の運営は国会対策上とれなかったこともあり、旗こそ降ろさなかったものの途中からその実現は諦めていただろう。

 

一方、実績とも称される経済対策はどうか。デフレ経済に苦しむ中での就任だった。アベノミクスと称する自らの名を冠した経済対策(自ら名を冠するなど通常の日本の政治家は憚るものだが…)で3本の矢を掲げた。


第一の矢は日本銀行の黒田総裁と連携した金融緩和だ。マネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)を拡大することで他国の通貨に対して円安に誘導し、日本の基幹産業である輸出企業の業績は回復した。株価も連れて上昇したことで、資産効果などで信用は拡大し、民間企業全体の業績も回復してGDPも増えた。失業率は下がり、有効求人倍率も高くなるなど雇用状況もよくなった(異論としては、研究者の藻谷浩介さんは、日本の生産労働人口が減り続けているから有効求人倍率が上がっただけと以前から主張されている。これも正しい)。

 

第二の矢は、機動的な財政政策と言われるものだ。社会インフラの整備や災害対策にかかる公共事業を「国土強靭化」と命名して批判をかわし、地方での公共事業を増やし、景気の落ち込みにつながる歳出削減を行わず、社会保障費も含めた国の財政規模は年100兆円を超えるものとなった。また、コロナウイルス感染症では国民一人あたり10万円の一律給付なども国債発行による補正予算で措置した。


また税収が伸びる中でもプライマリーバランスの目標年度を先送りさせた(2018年に国と地方の基礎的財政収支[PB/プライマリーバランス]黒字化の目標時期を当初の2015年から2020年、更に2025年に先送り)。消費増税を行ったにもかかわらず国債残高が累増しているのはその結果。この矢は第一の矢とある意味でのセット。財政出動とは地方での公共事業による景気刺激策だったという側面もあった。

 

そして、最後の第三の矢。一、ニは実現させたが、この肝心な成長戦略が残念ながら実現できなかった。成長戦略が実現されなかったことで、実質賃金の伸びは限られ、可処分所得の状況等はよくなっていない。戦後最長とも言われた景気回復に生活実感が伴わなかったのはそうした背景があるということだ。

 

下記リンクで多くのエコノミストがアベノミクスに論評しているが、当初の円安誘導策の実行は一部のエコノミストや日銀プロパーからの批判もあったと思うが率直に評価できると思う。


とはいえ当初2年で物価が2%程度上昇すると言われていた金融緩和だが、未だに物価上昇などは実現されていない。また、その後の日銀による国債の間接引受けやETFやリートの大量買い入れに至っては、その出口戦略が不明なまま、その金額が累増しており、将来の禍根だと思われる。国債の増加と同じで形で将来世代への付け回しに思えてならない。後始末をせず退陣するのはかなり無責任。禁じ手とされる財政ファイナンスと言われてもおかしくないだろう。当初の金融緩和の期間がある種の猶予期間であったが、その間に成長の種をまくことができず、追加緩和を繰り返して株価(信用)を維持しているという見方ができるのではないか。

 

情報BOX:アベノミクスの功罪は、識者はこうみる(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/abenomics-views-idJPKBN25O0YR
総じて、アベノミクスの評価は円安誘導と世界経済、特にアメリカ経済の拡大に支えられた背景があるという分析だが、私も支持したい。

 

その他の政治課題については、拉致被害者救出は安倍総理自身が記者会見でも述べていたが、残念ながら進展しなかった。ロシアとの平和条約締結、北方領土の2島先行返還は、憲法改正に暗雲が垂れ込む中で次にレガシーとなる候補だったと思うが、ロシアのプーチン大統領の態度の変化から水泡に帰した。


民主党が唱えていた官ではなく選挙で選ばれた政治主導の実現、特に高級官僚人事の内閣人事局による一元管理については、安倍政権で初めて実現した。7年半も総理と官房長官が変わらないという毎年のように総理大臣が交代していた時代からは想像すらできない体制の中で、逆に官僚側が官邸に忖度するようになったことはいくつかの事例が示すとおりである。制度の導入から一代のうちに「忖度」という負の側面まで行き着いた。それくらいこのツートップやそれに使える補佐官らの官邸官僚は強かったということだろう。これは検証されなければならない。


途中から出てきた政策目標である地方創生。東京都内にある大学の定員増などが認められなくなったり、一部税財源の地方移譲は行われるなど、ごく局地的に東京への一極集中が規制されたが、人口動態や企業の東京への本社集中は逆に加速し、短期的には資本主義経済に逆行することにもなる東京から地方への資本や人の移動は行われなかった。

最後に。この安倍政権の長期間の政権運営を支えたのは誰か。ある人は野党のだらしなさと言っていた。端的に言うと、国政選挙で6回連続で勝利したこと。つまり、国民の選択である。野党に任せようという国民が少数であったということだ。野党の側はそれを真摯に受け止める必要がある。


さらにもう一つ。いつも永田町の動きをおしえてくれる人が情報提供してくれた、今週末に行われた共同通信の緊急世論調査の結果だ。



辞意表明の記者会見を受け、なんと20%もたった1日で支持率が上がっている。政策の中身が変わったのか、結果が人が変わったのか。違うだろう。これがこの国の政治の土台、数字が示している。

これをみて狂喜している人たちがいる。これを喜んでいる人の本音は何か。その選択をした人たちをどう見ているか。主権者教育、シチズンシップ教育、ソブリンエデュケーションの遅れ。わたし的には驚愕の結果と本心から寂しくなった…。

昼食は東洋水産のマルちゃん焼きそばをつくる。