安倍内閣の解釈改憲により可能となった、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連一括法案。参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会に付託、審査されて来たが、昨晩の同委理事懇で委員長職権により、本日18時から「締め括り総括質疑」(締め総)が設定された。

重要法案や予算の審査については国会法の規定で公聴会を開かなければならないとされているが、昨日各党推薦の有識者を招いて公聴会が行われたことから、採決の要件は整ったことになる。

今日の横浜での地方公聴会の後、18時からの締め総設定である。夜の委員会設定だ。とはいえ本日の参議院本会議は既に「散会」となっており、本日中の本会議への緊急上程、採決は出来ない。夜に採決まで実施する必要性はあまりない。

与党内の衆参国対で採決の日程を巡り衝突があったと報じられていたが、衆参の主張の間をとって17日の本会議採決による可決、成立というシナリオが与党内の落としどころなのだろうか。明日委員会採決、午後に緊急上程して本会議という可能性もある。いずれにしろ17日可決だ。

与党推薦の憲法学者を含め違憲立法論に立つ有識者も多く、その中には内閣法制局長官経験者も含まれるなど、かなり無理な立法であることは誰しも認めるところ。素直に憲法を読めば、立憲主義と相容れないという批判はよく理解できる。言葉と現実が違うことを素直に認めるのは政治に関わる者としてどうかと思う。

王道を行くなら、きちんと憲法改正を発議し、国民投票で信を問うべきだろう。

私は、解釈改憲路線でお茶を濁し、解釈でルールを変えていくのは嫌いだ。

しかし、世論調査でも反対の人が多いが、敢えて言いたい。昨年12月に衆議院の解散総選挙が行われた。素直に結果を評価すると、安倍内閣が国民の信任を受けたと言えるだろう。

安倍内閣の過去の姿勢から今回のような安保施策は想定の範囲内ではないか。シングルイシューの国民投票ではないが、ある意味で与党にお墨付きを与えている状況を作り出しているのは選挙結果だ。

野党がだらしないと批判を頂くのだろうが、政権交代可能な二大政党制をつくるためにこの世界に入った。現状は情けない限り。解党的出直しと言ってきたが、誰もそんなことになっているとは思っていない。

しかし、選挙で国民が決める基本的な民主主義のルールのもとで、国のあり方が時に誤った方向に行くのはなぜなのか。

世界的にも知られているのは第二次世界大戦のドイツの戦犯を裁いたニュルンベルク裁判のことを記したニュルンベルグ日記の中で記されているヘルマン・ゲーリングの言葉だ。

ドイツが、第一次世界大戦の敗北によりベルサイユ条約で軍備を禁じられたあと、すぐさま、再軍備化、徴兵制を進めていったとは知られるところ。それも「選挙」によって国民の信任を受けた上で政権が実施していった歴史がある。その方法を再びの敗戦後、アメリカ軍の精神分析官に語ったのがヒトラーの後継者にも指名されたヘルマン・ゲーリングだ。

ヘルマン・ゲーリング
ヘルマン・ゲーリング(Hermann Wilhelm Göring、1893年‐1946年)は、ドイツの政治家、軍人。ナチ党政権下のドイツにおいて、ヒトラーの後継者に指名されるなど高い政治的地位を占めた。国会議長、プロイセン州首相、航空相、ドイツ空軍総司令官、四ヵ年計画全権責任者、ドイツ経済相などを歴任。軍における最終階級は全ドイツ軍で最高位の国家元帥 (Reichsmarschall) である。

Interview in Göring's cell (3 January 1946)

Göring: Why, of course, the people don't want war. Why would some poor slob on a farm want to risk his life in a war when the best that he can get out of it is to come back to his farm in one piece? Naturally, the common people don't want war; neither in Russia nor in England nor in America, nor for that matter in Germany. That is understood. But, after all, it is the leaders of the country who determine the policy and it is always a simple matter to drag the people along, whether it is a democracy or a fascist dictatorship or a Parliament or a Communist dictatorship.
Gilbert: There is one difference. In a democracy, the people have some say in the matter through their elected representatives, and in the United States only Congress can declare wars.
Göring: Oh, that is all well and good, but, voice or no voice, the people can always be brought to the bidding of the leaders. That is easy. All you have to do is tell them they are being attacked and denounce the pacifists for lack of patriotism and exposing the country to danger. It works the same way in any country.

Interview in Göring's cell (3 January 1946)

日本語訳
「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。」(同じくギルバート心理分析官に対して)
日本語訳ページ

法理も立憲主義も関係なく危機だけを煽っている人もいるがそんな人は別に考える。

今の日本に、実際に近隣に侵攻される不安がないのかと言えば、尖閣の問題も含めてノーだ。ゲーリングの話が全て当てはまっているわけではない。やはり私が問題と思うのは、成文法の解釈を周囲の状況に応じて、変えてしまう権力の遂行の方向だ。この国らしいといえばそうだが、やはり今回の解釈改憲やそれに基づく立法には反対だ。

防衛大臣のこれまでの答弁のレベルや直近の総理大臣のペルシャ湾の機雷掃海についての関与否定答弁など最後まで文民統制も不安になるレベルだ。ここは国会をまたいで継続審議にするのがいいのではないか。執行側の不安定性はいずれ文民統制も壊れるような気がしなくもない。それは怖い。