独シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の職員2名の案内で同州フーズム地区。北海に近い農業地帯。偏西風が強いため大規模な風力発電(Husum Wind)を行っている。首相も是非見てほしいという取り組み。昨日県功労表彰を受けたカールステンセン前首相の故郷にも近いという。




担当の方から話を聞く。




20年前に20KW/h(キロワット)の風力発電2基を始めた。当時は州の条例で補助金があった(今はない)。私たちの村は6つの地域に分かれるが、その村民全員で決議を採択して風力発電を始めた。企業などが入らず地域の共同体だけで運営していたのが他との違いである。当初は発電された電力は農家だけで使っていた。特徴しては全員賛成と(全員が大規模農家なので)大規模。まさに風力発電のパイオニアである。地域によっては全員が賛成せず、建設にいたらない地域や反対が高じて裁判になった例もある。



ここでは、現在2MW/h(メガワット/キロの千倍)のものが70基あり、140MWの発電ができる。設備は全て企業ではなく村民320名の所有である。現在の設備は2MWだが、そろそろ発電力の高い3MWに設備を更新したいと考えている。最新は4mwのものもある。古いものは他の国に売っている。東欧など外国に中古品として売却する。この間、既に160基も売った。アジアではミャンマーや韓国にも売った。



その発電した電気で村民が使うのは半分だけ。残りの半分は電力会社に売電している。メルケル首相も価格保証をしてくれている。1kwあたり9セント(セントはユーロの百分の一/現在のレートでは1セントはほぼ1円)

Q.ちなみに日本で決定された自然エネルギーの1kw買取価格は42円と9セント(約9円)と比較にならないがどうか。
A.(高すぎるということで考えられないといった様子。半ばあきれている)日本のトヨタのテレビCMで「できないことは何もない」というものがあった。日本ではどうにかなるのだろう。※説明-この金額の差は、日本の場合、売電者を優遇し、その分を電力の消費者が料金で負担するということになる。

Q.北海道などでは、台風が近づくとそれを避けるために羽根を降ろすなどの作業をしているが、ここではどうか?
A.おかしい。ここでも強い風が吹くが設備は頑丈である。なぜそうするのかわからない。

Q.1基あたりのコストは?
A.2kwの機械で250万ユーロ(約2億5千万円)。ただし、これには機械そのものや建設費用、売電のための送電設備や機械の耐用年数の保守メンテナンス費用など全てが含まれている。2mwの設備の耐用年数は25年である。

Q.電力会社に払う送電コストは誰が払うのか?
A.上記のコストに含まれている(参考ドイツでは発電会社と送電会社は別)。

Q.設備の販売会社が倒産したらメンテナンスはどうなるのか?
A.倒産などの事態にそなえた再保険に入っているので心配ない。

Q.初期投資が高いがお金はどのように調達しているのか?
A.95%が銀行融資、5%が自己資金である。銀行は返済の確実性がないと貸さない。儲かるのである。銀行の融資条件は立地である。ここでは現在、17億円の融資を受けている。10年で元が取れる。

Q.金利は?
A.3%。(高いと言う日本側の指摘に)投資しませんか(笑)※本当は日本がゼロ金利政策のため低すぎるだけ

Q.風が吹かないときはどうするのか?
A.北海からの偏西風がいつも吹いている。ここに吹かなくてもどこかで吹いている。ドイツ南部の風力発電と連携している。たまに風力が落ちたときなどは、ガスタービンで回す。次はよりクリーンな水素を考えている。

Q.ここでは太陽光発電はないのか?
A.ここではやっていない。日照時間は多くない。ただし、バイオマス発電はある。食用のとうもろこしを使っている。

Q.村民と言っても誰が中心となって運営しているのか?
A.私がチーフであり、事務所もここにある。事務所スタッフが14名、現場など40名である。とはいっても私は現在も農家を本業として地に足をつけて生活している。農家だから地に足を埋めているといった方がいいか(笑)。

Q.日本では風力発電に問題があるという人がいる。例えば、プロペラの回転によって周囲に低周波が発生し、人間の健康に害があるとか。
A.もしそんな心配をするなら、海の上につくればいいじゃないか。

Q.鳥がぶつかる(バードストライク)という問題を主張する愛護団体もいる。

A.ドイツでも同じ。ワシなどの鳥が飛ぶところでは建設が認められていない。許可を得るには、渡り鳥などの飛行ルートのモニタリング結果を提出しなければならない。モニタリングのコストは物凄い費用である。動物の生態系に影響を及ぼさない箇所ということで建設許可を得ることのできる場所は限られており、州の土地の2%にしか建設できない。私たちは恵まれていた。地図の中の黒い地域が許可地域である。


Q.こことは直接関係ないが、ドイツでは高圧線の下の住民補償はあるのか?
A.高圧線はドイツでもあるが、聞いたことがない。

Q.これまでの話をきくと、自分の電力を賄うどころか売電して儲かるということで、風力発電可能な地域で反対する住民がいるという理由がわからない。なぜ反対するがいるのか?
A.州は導入を呼びかけている。反対するのは元々その地域に住んでいなかった人たちで、引越ししてきた新住民である。彼らは、定年後に緑の中で生活したいとか田舎の景色や景観といったものを求めて農村部に転居してきた。お金に困っているわけでもなく、儲ける必要もない。「(人工的なプロペラで)ロマンチックな景観を壊す必要はない」などと主張するのである(ちなみに電線は地下化されており景観に影響しない)

Q.他に問題点はないか?
A.電気があまる時があり(売電もできない)、風力施設を間引き運転して調整している。蓄電できれば調整できるのだが、現在も蓄電の技術が低く効率も悪い。



その後、バスで実際の発電設備へ。高さ60メートルの天辺まで。4年前にも登ったことがある。前回は全て梯子。今回はリフトがあったが、それにしても高くて恐い。


(↑の画像をクリックすると動画が見れます)この動画のように強い風が吹いていた。冬はもっと強いらしい。こんな風が一年中吹いているような自然の地域は日本にはほぼないだろう。発電のための風車の多くは農道に沿ってつくられているので農作物に影響はない。




2人乗りリフト








内部の電気制御装置は独シーメンス社製