静岡から新幹線で東京。バスで永田町の都立日比谷高校へ。途中、皇居や国会の近くも通る。


都立日比谷高校


急用で不在となったI校長に代わり、H副校長から学校概要、都教委「進学指導重点校」の取り組みについて説明を受ける。

都立日比谷高校は創立133年という伝統校。戦前は、府立一中と呼ばれた旧制中学であり、兵庫県さんでは○○高と同じような位置づけ。皆さんの中には、日比谷というと東大をはじめとする難関大合格というイメージがあるかもしれないが、東大合格を目標とした教育は本校では一度もしたことがない。これから先もない。大学合格はゴールではないという考えがある。もちろん日本のリーダーをつくろうという考えはある。一部の学校では、大学受験に必要のない科目を教えなかったり、1年生の段階で理数特進コースをつくったりと受験が目的という高校も見られるが、うちはそういうことはしていない。学ぶ価値のない科目はないという考えに立ち、理科も社会も全て履修し、文系理系でのクラス分けもしない。そのため授業時間がどうしても多くなる。平日は45分×7コマの授業。45分は他の学校より短いかもしれない。ただし、連続授業としている科目もある。その場合、45+45=の90分授業となる(時間割を参照)。


1年生の時間割

他の進学校では土曜授業をしている学校もあるが、授業は行わず、「土曜講習」の時間を設けている。これは1、2年生は1・3・5週、3年生は毎週あり、自主的に参加するもので、出欠も取らない。参加せずに部活を優先する生徒もいる。現在の参加率は70%程度。あくまで任意である。大学生や予備校ではなく本校の教師が担当する。進学指導については1年生の時から3年間を見通した進路指導計画を作成し、実力試験・全国模試を活用する。また、各界で活躍するOBの講演のほか、PTAとの共催で保護者向けの進路講演会も実施している。

部活の話をしたが、部活の加入率は95%とかなり高く力を入れている。学校行事も同様に多く熱心で、演劇などは全員参加である。これらが3年生の9月まで続く。本格的に勉強ができるのは10月からである。しかし、生徒の将来を考えると、人格形成に資するだけでなく、学校生活の中で苦楽を共にすることの中から、卒業後もそれぞれが助け合う人脈形成の意味もある。というのも本校の卒業生は、似たような進路、職業につくことが多いからである。

昨年度はOBで ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士を招き、全学年で東大の安田講堂で講演を聴いた。現在、「利根川先生に続く2人目のノーベル賞受賞者を」スローガンに理系教育に力を入れている。これまで日本の将来を支えるリーダーを養成するという考えがあったため、どうしても東大・官僚という文系が多かったが、平成19年の文科省のスーパーサイエンスハイスクール指定にあわせて、理系教育の重要性に注目した。進学指導重点校となった13年の時点では文系2、理系1の比率だったが、指定4年目の現在、若干理系の方が多くなった。これは開校以来初めてのことではないか。

都立高の事務所は教育改革によりどこも経営企画室と名前を変え、事務長ではなく経営企画室長であり、教務会議などには事務職員も一緒に出席している。学校の目的を全職員が共有することとしている。

本校の学年定員は317名だが、今年は私立大医学部の専願者1名を除き、センター試験に全員出願している。国公立志望比率が高い。私立は早慶がほとんど。また東大以外にも国公立大学の医学部医学科を志望する生徒が増えている。東大理Ⅰに行っていた子が他の国公立大学の医学部に入っている。現在1学年に50人ぐらいの医学部医学科志望者がある。

進学実績は、昭和42年に学校群制度(学区制)が導入されて以降、東大合格者は次第に減少し、最低は1名という年もあった。学校群制度が廃止され、平成13年に進学指導重点校という制度ができて以降、都教委の支援も得て様々な改革を実施してきた。特筆すべきは、独自の入学試験問題を作成したこと。これは全国初だった。本校の入学試験の倍率は、男2、女1.6倍ほどだが、昨年は現役で22名の東大合格者を出した(浪人は別に7名。)。これは都道府県立高ではトップ(ただし国立は除く)。しかし、学校群制度の導入により、開成などの私立に逆転された結果は現在もそのままとなっている。

その後、意見交換。

Q.教員の資質の向上については?
A.都教委には公募制度があり、進学指導重点校等への異動の希望を出すことができる。そのため、やる気がある教員が集まってきており、モチベーションが高い。また、校長と副校長で授業を見た上で、年2回面談し、改善点等の指摘もする。また他の教員の授業を見たり、見られたりする時間を設け、相互にリポートを書く制度もある。

Q.説明を聞いて日比谷のイメージが変わった。東京には、進学指導重点校7校、同特別推進校5校、同推進校14校があるが、予算が多く措置されているのか?
A.重点校ということで教員の加配は2名あるが、予算で言えば、他の都立高とあまり差はない。

Q.加配教諭はどんな役割を担っているのか?
A.授業は1日7時間といったが、8・9時間目として、生徒が自主的に勉強しているので、わからないことなどがあった場合にいつでも質問することができるよう数・国・英の教諭を教科控室に配置している。しかし、これもあくまで自主的な勉強であり、本校では赤点をとっても補講をするなどはしていない。

Q.最近の報道によると、親の収入で子供の学力が決まるという話も聞く。ここの親はどんな職業の人が多いのか?
A.調査はないが、あまり他と変わらないと思う。ただ、お医者さんの子供が少し増えたのかなと感じる出来事があった。それは、入学式の時に、気分が悪くなって倒れた人がいて、マイクで「お医者さんはいませんか?」と体育館で呼びかけると多くの方が申し出られて、医師団が形成されたようになった。これには正直驚いた(笑)。

Q.低所得者の親もいるのか?
A.高校無償化の導入により、学費を払えないという状態はなくなったが、以前はあったと思う。

Q.不登校の生徒はいるのか?
A.中学校の時に不登校となっていた生徒にその傾向が見られる。本校の場合、入試の20%を推薦、80%を学力検査としているが、学力検査のうち10%は、「特別選考」といって中学の調査書の成績を一切考慮しない当日の試験だけで入れる枠を設けている。つまり中学で不登校となり調査書の成績に関係なく入学するということもできるが、残念ながら学校生活に馴染めないという生徒も出ている。とはいえ数はごくわずかである。

Q.私の母校もそうだが、私立の中高一貫校では、5年間で高校3年生までのカリキュラムを全て終え、最後の1年は受験対策に専念できるような仕組みを整えている。私学の人気が高い理由はそこ。最近、兵庫の私学の中には公立校の学区見直しに対抗して、高校1年時の編入を実施せず中学入試で囲い込みをしようとしている学校も出てきているが、東京ではそうした話はないのか?
A.東京では今でも私立の一貫校の編入試験はある。実は、本校に願書を出しておいて、当日受験しない生徒がどれほどいるかわかりますか?本校では実は200名もいる。他の学校ではあり得ないこと。なぜなら有名私学の高校編入試験が先にあり、これに合格した生徒はもう本校を受験しない。都立校を受験する最上位200名の生徒は有名な私立の中高一貫校に行っているということである。これが現実である。

Q.予備校に行っている生徒はどのくらいいるのか?
A.そんなに多くないと思う。

Q.(全教科を教えたり、行事や部活に参加させたり)人格教育と受験指導は時として矛盾すると思うが?
A.両立できる。3年生の9月までは本当に勉強だけでなく、部活や行事で本当に忙しい。入学したばかりの1年生の保護者から「家に帰ってきた子供が倒れるように眠るが学校で何かあったのか」という電話がかかってくるほど、慣れるまでは大変である。ただし、3年生の10月から本校の生徒は本気で死ぬほど勉強する。うちの子供は努力型である。

Q.副校長の言葉に「将来もこの方針は変わらない」という事項がいくつもあった。しかし、校長が交替するなどして学校運営や進学指導の方法などが変更されることもあると思う。なぜ、日比谷高校の方針はこれからも変わらないと言えるのか?
A.100年以上続く臨海学校を一例として挙げたい。これは千葉の海を男子はふんどし姿で伝統の古式泳法により遠泳をする行事であるが、旧制府立一中時代から続き、一水会というOB組織もある。戦後の2年しか中止となったことがない。こうした伝統行事に教員として関わり、日比谷の歴史や伝統に触れると、日比谷の伝統を自分が変えられるとは全く思わなくなる。

その後、学校見学。


英語の授業


生物の授業。鶏頭の解剖。1人ずつ解剖しています。


廊下に掲示されている利根川進先生の色紙


学校から国会議事堂が見える


副校長の説明後、党に関わらず県議会の出席委員全員から拍手が起こった。進学実績ばかりが注目されてきたが、それは結果の一部に過ぎない。高校無償化の導入により、有名私立は無理でも、公立高校には入学することができる。行事や部活はもちろん学びたいという生徒はどんどん学ぶことができる。またその環境を公が整えている。私も感動した。


その後、靖国神社に程近い千代田区立九段中等教育学校。





千代田区立九段中等学校のH、M両副校長から説明を受ける。ここは6年前に千代田区立九段中学校と東京都立九段高校を統合する形で開校。『豊かな心 知の創造』を教育目標に掲げ、「自らの意志と責任で判断し、行動する力」をもった生徒を育てることとしている。

千代田区ではそれまで3つの区立中学校があったが、公立中離れ・私学選択が進んできていた。区内の学校で学ばせたいという思いがあり、そこで魅力ある区立中学づくりをしようということになった。そこで、高校受験から解放し、大学への進学実績もあげられる取り組みとして中高一貫教育に注目した。しかし、区内には新たに高校を設立する土地等もなく、九段中学に隣接する都立九段高校に注目し、千代田区から東京都教委へ委譲を申し出た。

募集定員は1学年4クラス160名。千代田区在住者を80名、その他80名を募集している。千代田区在住者は試験に不合格の場合でも、他の区立中に進学するという確約をもらっている。こちらの倍率は1.6倍。入学金は6千円弱。区外枠の80人の倍率は7倍。入学金は6万円弱である。

授業は50分×6時間。教育課程は、6年間を前期3年・後期3年にわけ、前期は土曜授業を年17回、土曜予備校を年12回(大手予備校講師による英数)、放課後スタディを毎週3回実施している。後期は土曜授業が32回に増え、大手予備校のサテライト講座が毎日入る。5年間で高校3年生までのカリキュラムを終了し、最後の1年はセンター試験に対応できる取り組みとして進学希望にあわせた講座を週20選択できる。これは少人数教育である。全員がセンター試験を受験することも目標の一つである。開校6年目ということで入学時に試験をした学年が来春初めて卒業する。大学受験の結果が初めて出ることになるので大変緊張している。

施設としては、基本的に九段高校の施設を利用しているが、地下温水プール、冷暖房完備の体育館などがある。


委員長として御礼の挨拶をする竹内


その後、質疑応答。

Q.区立中は3つあったということだが、1つだけが中高一貫となり、入試もするということになると、残り2つの学校は試験に落ちた人の受け皿となったり、志望者が減少するなどの弊害はないのか?
A.中高一貫導入と同時に、2中学を含め全てで学校選択性を実施した。区内の居住地区に関係なく、どこの中学校も希望できるということである。3つの学校の生徒数が減少しているということは特にない。受け皿ということもない。

Q.区内外の生徒の倍率が大きく違う。学力差も大きいのではないか?
A.確かに入学当初の学力は二極化している。しかし、それは小学校卒業時の学力に過ぎない。途中での逆転も起こっている。

Q.教員の加配などの状況は?
A.中高一貫校には都の加配があり、これは他校と同じである。それとは別に千代田区の単独予算で加配があり、同じ規模の都立学校より14~5人多いのではないか。

Q.前期は中学課程だから都の給与・人事権があるが、後期(高校)はどうなっているのか?
A.私もそうだが都立高校の教員出身であり、辞表を出す形で千代田区へ異動してきた。後期の教員の給与は全て千代田区の負担である。

Q.教員採用を都に委ねていることから、いい教員の確保はどのように実施するのか?
A.東京都教委には様々な教員の公募制度があり、中高一貫校を希望することもできる。その中高一貫校の希望の中に、「千代田区立九段中高一貫校」には他の学校は別にチェックマークをつけることができる。

Q.中高一貫校には都立と区立があるが、都がやればいいという見方はないのか?
A.都立の中高一貫校は10校ある。区立はここだけ。都立が高校中心であるのに対して、ここは区立中学が開校の中心となった。やはり区内の学校に通って欲しいという思いがある。

Q.都教委は九段高校を譲ってくれたのか?
A.九段高校の土地建物は約80億円で東京都から千代田区が買い取った。千代田区から申し出だからということで無償譲渡ではなかった。

Q.給食はどうなっているか?
A.前期は給食がある。後期は給食はなく弁当持参が基本である。都立の中高一貫では前期でも給食がないと聞いている。

Q.都立九段高校と言えば、旧制中学からの伝統校である。母校がなくなるという考えも一部にあったかと思うが、同窓会組織の反応は?
A.同窓会組織は菊友会といい、社団法人格をもち、関連施設を持つなど歴史ある強固な組織である。この話が最初に出たとき猛反対された。しかし、千代田区、都教委との3者での話し合いの中で最終的には理解をしてくれた。ただし、条件として旧制中学時代からの伝統行事である『至大荘』(しだいそう)の継続などがあげられた。至大荘とは、千葉県沖の遠泳であり、80歳ぐらいのOBでもこの話をするときは高校生のように生き生きとされる伝統行事である。現在の教員も1年ぐらいをかけて準備をしたり船舶免許を取得したりする。九段の伝統には驚かされる。

その後、学校見学。


授業風景


地下温水プール

その後、栃木県宇都宮市へ。