HPVワクチンのキャッチアップ接種の期限が迫ってきたので、改めてご紹介しておきます。

 

【HPVワクチン公費助成】

平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女性の中に、通常のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの定期接種の対象年齢で接種できなかった方がおられます。まだ接種を受けていない方に対する公費補助による接種が令和7(2025)年3月末で終了となりますので、初回接種を本年9月までに受けないと3回接種できません

 

【子宮がんについて】

子宮がんには、子宮の入り口付近(子宮頸部)から発生する子宮頸がんと子宮の奥(子宮体部)から発生する子宮体がんの2つがあり、それぞれ発生する場所だけでなく、原因や特徴も異なる別の病気です(図1)。子宮頸がんはワクチンであるヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:以下、HPV)ワクチンを接種することで高率に予防できます。

 

 

【子宮がんの死亡者数】

日本では、子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約 2,800人が死亡しており、患者数・死亡者数とも近年漸増傾向にあります(2020 年)(図2)。

 

【子宮がんは若い世代におおい】

特に、他の年齢層に比較して50歳未満の若い世代での罹患の増加傾向が問題となっています(図3)。

 

【子宮がんの死亡率は他の癌に比べて高い】

他の主要な5大がんの死亡率が低下または増加傾向が止まってきている傾向が見られるのに対し、子宮頸がんは死亡率の増加が加速 していることが示されています(図4)。

 

【海外のHPVワクチン接種の有効性】

接種率が約90%におよぶスコットランドでは、2009 年の20~21歳女性の子宮頸がん検診時のサンプルでHPV16・18型感染率は 28.8%でしたが、2013年には10.1%と減少しており、疫学的にも有効性が証明されました。さらに重要なことは、HPVワクチン接種プログラムを導入し、接種率が70%を超えるスコットランドでは、プログラム開始から7〜8年以上が経過し、導入以前のワクチン未接種世代と比較して、接種世代における子宮頸がんの前がん病変である中等度異形成(CIN2)・高度異形成と上皮内がん(CIN3)・上皮内腺がん(AIS)の発生が有意に低下しています(図10)。

 

【日本におけるHPVワクチンの有効性】

日本においてのHPVワクチンの有効性を評価したNIIGATA STUDYでは、2016年度までに登録完了したワクチンの有効性の中間解析で、20~22 歳(公費接種世代を含む)における HPV16・18 型の感染はワクチン非接種者2.2%(10/459)に比べて、ワクチン接種者では0.2%(3/1379)であり、ワクチン接種者で感染率は有意に低く(p<0.01)、ワクチンの有効性は91%と高い感染予防効果があることが示されました。更に、性的な活動性による感染リスクの差を調整(ワクチン接種前に初回性交があった者を除外し、性交経験人数の差を調整)すると、ワクチン有効性は約94%に高まることが示されました(図11)。

 

ワクチン接種により、10万人あたり1,322人の子宮頸がん生涯累積罹患者数を10万人あたり595~859人減少させ、また、10万人あた り321人の子宮頸がん生涯累積死亡者数を10万人あたり144~209人減少させることができると考えられています(図 13)。

 

【海外と日本のHPVワクチンのワクチン接種率の比較】

日本では、公費助成当時の接種対象であった1994〜1999年度生まれの女子のHPVワクチン接種率が70%程度であったのに対して、2013年6月の接種の積極的勧奨差し控えにより2000年度以降生まれの女子では接種率が劇的に低下し、欧米やオーストラリアなどとの大きな差ができてしまいました(図14)。

 

【日本の年齢別接種率】

特に2002年度以降生まれの女子では1%未満の接種率となっています(図 15)。その結果として、将来の日本では、接種率が高かった1994~1999年度生まれの女子においてはHPV感染や子宮頸がん罹患のリスクが低下する一方で、2000年度以降に生まれた女子ではワクチン導入前世代と同程度のリスクに戻ってしまうことが予測されています(図 15)。

 

【HPVワクチン接種後の副反応の調査について】

名古屋市において、2015年に、1994~2000年度生まれの女性(15~21歳)にアンケート調査が行われています(回収率:43.4%(30793人/70960人))。この調査では、接種者と非接種者の24 症状の年齢調整後の起こりやすさに有意差は検出されず、HPVワクチン接種と24 症状の因果関係は証明されませんでした(図 18)。

公益社団法人 日本産科婦人科学会HPより転載

 

【HPVワクチン接種の重要性】

以上のように、比較的若い女性が年間約3000人も子宮頸がんで死亡しておられます。HPVワクチンを接種することで約90%の割合で子宮頸がんを予防できます。HPVワクチン接種により、多くの若い働き盛りの女性や子育て世代の女性が、子宮頸がんに罹患して妊娠ができなくなったり命を失ったりしている現状を回避できます。

副作用の心配もありますが、現状の調査では、接種部位の疼痛は高率にでますが、それ以外の副作用は他の予防接種と大差ないようですので、HPVワクチン接種のメリットを十分に理解して、大切なお子様を守ってあげるために、HPVワクチン接種を積極的にしていきましょう。