先日たまたま見ていたテレビ番組「こころの時代」で、聖路加国際病院の日野原重明先生と岡村美穂子さんが対談されていました。その時、ああ、この人が岡村美穂子さんか・・・と思いました。


 岡村さんは仏教学の大家であり、鈴木大拙先生の後年の秘書を15年間努められた人で、歎異抄を英訳したことでもよく知られています。岡村さんが15歳の時、ニューヨークのコロンビア大学に招聘され、教授として教鞭を執られていた鈴木先生の講演を聴き、その思想に共鳴されたそうです。その後岡村さんは鈴木先生の秘書となり、先生が95歳で他界されるまで傍に寄り添っておられたそうです。


 私は、この岡村さんとは直接の知己ではありませんが、ある方を介しての関係にあります。私がアメリカ留学中、コロンビア大学に通っていた時の下宿先のビルが、美穂子さんのお母様所有の建物だったのです。かの湯川秀樹博士もこの建物に住まれていました。


 岡村さんのお母様は、当時ニューヨークに10本程のビルを所有する成功者でした。事業欲は大変旺盛な上に大変面倒見の良い方で、官費留学中の私も大変お世話になりました。


 ある日、私は彼女に「これだけ成功されているのに、まだ事業を拡張されるのですか?」と質問したことがあります。この非礼ともとれる私の問いに、彼女は窓の景色の一角を指差して答えられました。「私はあのビルが欲しいのです。」と。彼女が指差した先には、エンパイア・ステート・ビルがそびえ立っていました。


 そんな彼女の人柄に惹かれてか、実に多くの著名な在米邦人がこの建物の1Fにあったレストラン「安芸」を訪れていました。キッコーマンの茂木名誉会長もよくこのレストランに通われたと、日本経済新聞の「私の履歴書」に記されていました。


 岡本美穂子さんのテレビ番組から始まった、「人の輪」は際限なく広がります。岡本さんが師事された鈴木大拙先生は、生と死は連続しているという東洋的霊性に基づく死生観をアメリカに伝播された方です。「人の輪」も途切れることなく連続し、互いに影響しあい社会を構築していくのではないかと思いました。


 人生は出会いである―改めてそう感じました。