5月上旬、ゴールデンウィークを利用して、ワシントンに出張しました。毎年恒例である、「日米国会議員交流会議」に出席するためです。この会議は3日間にわたって開催され、内政や経済、貿易、安全保障などの多岐に渡るテーマについて議論します。私は毎年この機会に米国を訪れ、政財界の要人と懇談をし、活発な議論や意見交換をしています。


久々に訪れるニューヨークやワシントンは、街が再開発され、治安が随分良くなった印象を受けました。


数十年前、私がコロンビア大学に政府派遣留学をしていた頃と比べると、想像もつかない程美しく、何よりも大変安全な街になっています。


これは何故かと考えると、1つはやはり、それぞれの行政市長の手腕によるものだろう。ニューヨークはマイケル・ブルームバーグ市長、ワシントンは黒人のヴィンセント・グレイ市長であり、しっかりとした治安対策を練っているようである。


ただ、それ以上に街が穏やかで安全なのは、やはり戦争をしていないということだろうと思う。


かつて、私が留学していた頃は、ベトナム戦争の最中であったし、最近では1980年代のイラン・イラク戦争であったりと、やはり戦争というものが世の中をすさませ、米国社会を蝕んでいたことは間違いないと感じました。


今回の会議では、ラムズフェルド元国防長官や知日派で知られるアーミテージ元国務副長官、そして経済界ではシティグループのサンディ・ワイル元会長、次期FRB議長候補の一人とも言われているドン・コーン元FRB副議長など、多くの要人と意見交換を行ったが、総じて米国はオバマ政権の下で社会全体が安定を求めているといった雰囲気が感じられました。


米国内の経済については、日本におけるアベノミクスのように、米国もバーナンキFRB議長による量的金融緩和政策であるQE1からQE2、QE3まで打ち、その効果として確かに株価も1万5千ドルを越すほど上昇しています。


消費者心理も上向きで、住宅の価格もリーマン・ショック前ほどではないが、相当戻しています。


このように、景気が良くなってきているのは事実だが、現行の金融緩和から脱却する時期がいつか――ということもまた議論になっている状況です。


次に、外交、防衛関係でいえば、まずTPPについてです。


米国の立場からは、この重責を日本に押し付けるつもりは全くなく、日本が参加したければどうぞ、というスタンスです。


ただし、米国には北米五大湖周辺の自動車産業の関税問題があり、日本には言うまでもなくコメの関税問題があるため、この辺りにどのような妥協が生まれるか、それがTPPが成功するか否かのカギであると考えています。


ただ米国にとっては日米の貿易額より中国との米中の貿易額の方がはるかに多いため、むしろ米国の関心は、中国とのFTA・EPAをどのように結ぶかの方に強く向いているという印象でした。


また、防衛に関しては、我が国が尖閣諸島の領有問題で中国ともめていることについては、非常に慎重に行動してほしいという要望を受けました。


というのは、尖閣諸島を取り囲んで日中の船が入り乱れている状況下では突発事故が起きかねないが、米国としては事故が起きても手が出せないということなのです。


これは、尖閣諸島についての日本の行政権は日米安保条約で認めているが、領有権については米国はどちらに所属するとも言っておらず、ノーコメントであるためです。


そこが北方領土との違いであり、北方領土は領有権そのものが日本にあるということを米国はしっかりと認めています。


いずれにしても、アジアでトラブルを起こして欲しくないというのが米国の本心でしょう。


米国は、韓国とも従来以上に親韓的な関係を築こうとしています。実際、我々が米国滞在中に、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領を米国議会で演説をさせました。


これは史上初めてだと思います。私もその演説を聞きました。日本を名指しこそしなかったものの、「歴史認識を変えてもらわなければ困る」といった発言もありました。



最後に北朝鮮問題についてです。


北朝鮮の暴挙がなかなか止まらない中で、米国は中国をも巻き込んだ米中韓日の連携下で解決を考えています。その中で我が国の懸案である拉致問題をどのように引き出し解決に導くかは大問題です。


いずれにしても、世の中の資金の流れは途上国から先進国へ、そして先進国は金融緩和により株高を演出しています。


そういう中で、今後の世界全体の景気回復がどのように展開していくか、常に目を見張るべき問題と認識しています。我が国においては、アベノミクスの成功とそれによる内需の喚起が今後の大きな課題でしょう。



平成二十五年五月

    衆議院議員 竹本 直一