5月4日から6日までワシントンD.Cで開かれた『日米韓国会議員会議』に出席するために、5月3日から10日までアメリカのワシントンD.Cとニューヨークを訪れました。
 この会議の中で、現在の日本の経済、アメリカの経済、日米関係に関する竹本レポートを発表いたしました。
是非、ご一読いただければと思います。

竹本レポート

 リーマンショック以後の経済不況や世界各地における政情不安などにより、現在、世界情勢は大きく変化しています。
そのような中、世界においてアメリカ、日本、韓国が果たす役割は非常に大きいと思います。

このレポートでは、1.日本の経済分析、2.アメリカを初めとした世界の経済分析と金融危機への緊急経済対策からの出口戦略、3.揺れる日米外交について、問題点を指摘し、私なりの所感を述べさせていただきたいと思います。

1.日本の経済情勢分析

現在の日本は、リーマンショック時に比べ株価は比較的上昇しておりますが、地価の上昇はなく、下がり続けています。
また、自民党政権下で成立させた補正予算によって経済の下支えを行っておりますが、未だ企業の設備投資などが増加してこないところからすると自立的な回復には至っていないと考えられます。

それに加え、日本にはもう一つ大きな問題を抱えております。
それは国家財政に関する問題です。
日本は世界のどの国と比べても多くの個人貯蓄を抱えておりますが、一方で多くの国債も発行しており、債務残高ではGDP比197.2%にも上ります。

この数字は先進諸国の中では特筆して高い数字を示しています。
幸いな事に、未だ日本の長期金利は低い水準を保ったままですが、いつ長期金利が跳ね上がってもおかしくない状況です。

最近ささやかれている国債の格付け引き下げなどが、長期金利の上昇のきっかけになる可能性もあります。
長期金利の上昇は企業の資金調達に重大な影響も出てくる可能性が高く、注意して見ていかなければならなりません。

もちろん日本の長期金利を急上昇させないための対策を現在考えております。
私は、国債発行額に毎年、キャップ(制限)を設けることで国債の発行額を抑えるための法律的施策を検討するべきだと主張してきました。
そして、少なくとも財政の基礎的収支の黒字化を目指し、世界から見ても安定した財政運営をするべきだと考えております。

2.アメリカを初めとした世界の経済分析と金融危機への緊急経済対策からの出口戦略

日本は、バブル崩壊後、いわゆる『失われた10年』というものを経験いたしました。
今回の金融危機からの『出口戦略』として日本が経験したことを世界に示すことは非常に重要なのではないかと思います。

バブル崩壊後、我が国は金融機関に対して約12兆円の公的資金を注入し、不良債権処理と資本増強を行う枠組みを導入いたしました。
その結果、金融システムの更なる不安定化は回避されましたが、金融機関の収益力や経営体力の回復は2003年以降にまでかかりました。

 今回の金融危機では、多くの国で銀行に対し公的資金の注入を行いました。
しかし、一方で、各銀行は公的資金の返済を非常に急いでおります。
もちろん公的資金は国民の税金ですから早く返すことは必要です。

昨年の夏以降、銀行は市場取引部門の利益により、資金貸出部門の負債を相殺し多くの利益を計上しております。
しかしながら、各銀行のバランスシートを見るとわかりますが、公的資金を返す一方で、貸倒れ引当金を積み上げが高水準であることも一方でございます。

これは銀行内部には多くの不良債権が存在している可能性が高いことを示しております。
私は各金融機関が公的資金の返済を急ぐのではなく、銀行内にある不良債権の処理を積極的に進めるべきだと考えます。
そうしなければ将来的に銀行の経営に重大な影響を及ぼす可能性が高いからです。見た目をいくらきれいにしても中身が汚ければ意味がありません。

アメリカの銀行経営の厳しさは、アメリカでは地方銀行の破綻がとまらないことからもわかります。
FDICに報告されている数を見ても、2009年度には148行の銀行の破綻が起こっております。2010年度も同様の数の銀行破たんが起こる可能性が高い状態です。
内部に多くの不良債権を抱え、市場取引部門のあまり強くない多くの地方銀行は、地価などの急速な回復が無ければ、これからもどんどんと破綻していく可能性が高くあります。

 アメリカ経済の冷え込みや銀行の破綻は、グローバル経済の下で様々な国々に影響を与えます。
私はこのような不安定な状態への対処として、不良債権の処理を進めるために、破綻金融機関以外の金融機関からも不良資産を買い取る制度の導入を各国は進めるべきなのではないかと考えております。

そして、『金融は黒子に徹すべき』という理念の下、『ボルガールール』の導入を各国に呼びかけ、市場の暴走を防ぐため規制なきレバレッジの拡大を止めるべきだと考えます。

最近では、金融危機への緊急経済対策からの出口戦略について検討され始めています。そもそも私は金融危機後の緊急的な政策からの脱却のためには、金融政策と、財政政策の両方を上手く合わせることが必要だと考えています。
 例えば、政策金利の引き上げに関して言えば、金融危機以後、各国はそれぞれ政策金利を0%から1%近くまで下げており、どこか1つの国のみが上げる事はできないと思います。いわゆる資源国と呼ばれる国々は政策金利の引き上げを考えているようですが、その他の先進諸国では今すぐに政策金利を引き上げる事は難しいと思います。

なぜなら、アメリカは3月のFOMCにて金利の据え置きを決定していますし、未だに地価の上昇がないこと、秋の下院議会の選挙を考えても、政策金利の引き上げはなかなか難しいと思います。ヨーロッパはギリシャの問題等もあり困難、日本も先に述べたように困難な状況です。
私は政策金利を上げるためには①各国が同じ時期に、②似たような上げ幅を、取ることが必要だと思います。そうしなければ為替相場の悪化など重大な影響を及ぼしかねません。そのためにも、政策金利引き上げに際しては、各国の財務大臣が良く連携を取ってタイミングを合わせなければならないと考えています。
 財政政策としては財政の健全化を目指さなければなりません。財政状況の悪化は国の経済を圧迫する可能性が高くあります。
金融危機後に一時的に増大した財政をどう緊縮させるかが焦点となると思います。

アメリカでは今年度予算で対GDP比11.6%の負債を抱えており、今年どの予算だけでみると日本の対GDP比8%よりも高い水準にあります。
しかし、各国共に実体経済、雇用共に非常に厳しい状況にあります。

このような中で、金融危機後の緊急的な措置から脱却するのは時期尚早なのではないかと考えております。
いまだ厳しい実体経済や雇用を下支えるためには経済対策は必要でが、段階的には緊急的な政策からの離脱も考えなければならない時期だと思います。

 経済が持続的成長軌道に復帰するためには、急ぐのではなく、より長い時間を必要としていることに留意しなければならないと思います。

3.揺れる日米外交

 政権が交代し、外交政策の分野では、日本はかつてないほどの岐路に立たされています。新政権のアジア偏重主義、普天間基地問題、牛肉輸入問題などにより、日米関係が非常に悪化しております。
 冷戦終結後、大きく我が国を取り巻く状況は変化しました。中国の台頭、台湾の独立意識の高まり、ロシアの復活、北朝鮮の強硬な外交姿勢など、日本にとって脅威となるものが表面化してきています。
我が国の安全保障政策の根幹となっているのは日米安全保障条約を中心とした国防政策であり、自衛隊もまた専守防衛を基本としています。

日本は、北朝鮮のミサイルに対応するにあたり、MDを配備し、迎撃できる態勢を整えつつあります。
しかし、現実的には100%迎撃可能な訳ではなく、日本全土がMDでカバーできる状況になっているわけではありません。
そのような理由からミサイル基地攻撃能力を保有すべきであるという議論があります。

しかし、我が国にはミサイル基地を攻撃する能力はなく、それを可能にするには憲法改正が必要となります。
日本はそういう状況にあるので、現実的にはアメリカ軍のみが攻撃能力を持っているということになるわけです。
そもそも、専制武力を憲法上、持ち得ない日本は、アメリカとの協力のもと平和を維持してきました。
日本が単独で自国を守る事になったとしたら、数万人の自衛隊の増員と、さらには核兵器などの戦術兵器を持たなければならなくなります。そのため、私たちは日米安保条約及び、日本と米国の関係に多くの配慮を配らなければなりません。

そうすると、日米安保条約の有効性については考えなくてはなりません。
これについては攻撃部門に関してはアメリカが、守備部門に関しては日本が担うという住み分けを前提として、合同演習等も行ってきました。

お互いの信頼関係を強固にしていくためにも、アフガニスタンやイラクへの自衛隊派遣など、我が国はアメリカの要求には最大限応える必要があり、それが日本の外交政策の要となっているのであります。残念ながらアジアは多数の民族、多数の宗教が存在し、核保有国もアメリカ、ロシア、中国、インド、パキスタン、それに核保有が疑われる北朝鮮が存在する極めて不安定な地域であります。

しかし、日本の新政権で外交を担う方々は長く平和な日本に住んでいたため、そのようなことを忘れてしまっているのではないでしょうか。

 アメリカにとってみても日本は戦略的に非常に重要な地域であります。
中国は軍事費を毎年10%以上増大させていますし、北朝鮮の核問題もあります。

中国や北朝鮮に対する軍事的脅威を与え続けるためにも、日本は極東の軍事戦略拠点だと考えられます。それに加え、日米間の貿易など、経済面を考えても切っても切り離せない関係です。

 これらのことを考えると、日米同盟の堅持は日本とアメリカにとってWin-Winの関係であると考えられます。日本のためには日米同盟を堅持し続ける努力が我が国には求められているのではないでしょうか。