日弁連の少年法「成人」年齢引下げ反対の意見書 2 | T-MOTOの日曜映画

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第2 現行少年法成立時における少年年齢引上げの経緯と年齢引上げの意義

1 少年法の対象年齢の上限を何歳とするかは,立法政策として極めて重要な問題である。
 旧少年法は少年の年齢を18歳未満としていたが,現行少年法(昭和23年制定)は20歳未満に引き上げた。
 現行少年法の成立に当たってアメリカ法が大きな影響を与えたことは歴史的な事実であるが,新憲法の下で,我が国の司法省大臣官房保護課においても少年法改正を企画し,全国の控訴院,同検事局,地方裁判所,同検事局,少年審判所,矯正院に対して,「少年法中,憲法改正に伴って改めるべき事項」についての意見を求めた。その結果は,「この際,少年の年齢を20歳未満に引き上げるべきである。」との意見が圧倒的に多く,積極的に反対するものはなかったと報告されている。

2 旧少年法の少年年齢を改正する法案が審議された第2回国会参議院司法委員会(1948年)において,提案者は,改正理由を次のように説明している。
 「第二は,年齢引き上げの点であります。最近における犯罪の傾向を見ますと,20歳ぐらいまでの者に特に増加と悪質化が顕著でありまして,この程度の年齢の者は,未だ心身の発達が十分でなく環境その他外部的条件の影響を受け易いことを示しているのでありますが,このことは彼等の犯罪が深い悪性に根ざしたものではなく,従ってこれに対して刑罰を科するよりは,むしろ保護処分によってその教化を図る方が適切である場合の極めて多いことを意味しているわけであります。政府はかかる点を考慮し,この際思い切って少年の年齢
を20歳に引上げたのでありますが,この改正は極めて重要にして,かつ適切な措置であると存じます。」(国会会議検索システム:1948年6月25日付け参議院司法委員会における佐藤藤佐政府委員の説明)
 すなわち,少年年齢の引上げは,若年犯罪者の増加と悪質化が顕著になっている状況を踏まえ,その対応策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとしてとられた対応である。

3 若年者は,成長過程にある存在である。それゆえ,若年者の犯罪・非行は,その資質と生まれ育った環境に大きく帰因しているといってよい。これは,非行少年と接し,その立ち直りの支援に当たっている者が,日々体感している事実である。
 それゆえに,少年法8条は,少年事件については家庭裁判所が事件の調査をしなければならないとし,同法9条は,「前条の調査は,なるべく,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して,これを行うように努めなければならない。」と定めている。
 このように,人間行動科学に基づくデータを踏まえて,少年の非行の原因と背景を解明し,その少年の立ち直りにとって最も適切な処遇方法を探り,生活環境の調整を行うことが,家庭裁判所の任務とされている。
 当該調査等を行う家庭裁判所調査官と少年鑑別所は,刑事裁判手続にはない,家庭裁判所の手続における独自の機関である。このような少年に対する処分決定前の調査機関の存在と機能こそが,我が国の少年法を支える最も重要な柱といえる。
 ちなみに,法務省法務総合研究所編集の犯罪白書(平成21年版)は,「再犯防止施策の充実」を特集しており,そこでも「早期の段階で,必要に応じ,再犯の芽を摘む絶好の機会として,指導・支援を行うことが重要であると考えられる。その機会を逃さないためにも,(中略)事件の動機,背景事情等を可能な限り解明し,その者の行動傾向や態度,再犯の可能性も的確に把握した上で,適切な処遇を行うことが必要である。」(第7編/第5章/3)と指摘している。
 すなわち,処分決定前の科学的調査とそれを踏まえての適正な処遇が再犯防止に何よりも重要であることが,近年の法務省の調査研究結果でも裏付けられているのである。
 そして,事件の背景に関する科学的調査と,それを踏まえた適切な処遇を実現するためには,家庭裁判所調査官及び少年鑑別所による専門的調査・鑑別のシステムと少年院,保護観察などの個別的な指導・教育処遇が確保されている少年法を適用することが必要なのであり,その方法こそが再犯の防止に有効なのである。
 このように,新憲法の下で旧少年法の「成人」年齢を20歳に引き上げた改正は,極めて意義が大きくかつ適切であったことを改めて確認しておく必要がある。