ダネル弦楽四重奏団 ショスタコーヴィチ弦楽四重奏団全曲演奏会 (武蔵野市民文化会館小ホール)
マルク・ダネル(ヴァイオリン)、ジル・ミレ(ヴァイオリン)
ヴラッド・ボグダナス(ヴィオラ)、ヨヴァン・マルコヴィッチ(チェロ)
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲《全曲》
11:00 開演
弦楽四重奏曲第1番 ハ長調 作品49
弦楽四重奏曲第2番 イ長調 作品68
<35分間休憩>
12:30
弦楽四重奏曲第3番 ヘ長調 作品73
<55分間休憩>
14:00
弦楽四重奏曲第4番 ニ長調 作品83
弦楽四重奏曲第5番 変ロ長調 作品92
<30分間休憩>
15:30
弦楽四重奏曲第6番 ト長調 作品101
弦楽四重奏曲第7番 嬰ヘ短調 作品108
弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 作品110
<25分間休憩>
17:00
弦楽四重奏曲第9番 変ホ長調 作品117
弦楽四重奏曲第10番 変イ長調 作品118
<35分間休憩>
18:30
弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 作品122
弦楽四重奏曲第12番 変ニ長調 作品133
<40分間休憩>
20:00
弦楽四重奏曲第13番 変ロ短調 作品138
弦楽四重奏曲第14番 嬰ヘ長調 作品142
<35分間休憩>
21:30
弦楽四重奏曲第15番 変ホ短調 作品144
(アンコール)
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏団第1番〜第1楽章
ショスタコーヴィチの15曲ある弦楽四重奏団を、なんと1日で全曲演奏するというこの企画。しかもチケット代は4,000円(会員は3,600円)ということで行くことにしたものの、この苦行のような企画が近づくにつれて憂鬱に…
途中退屈するのではないか?体力がもたないのではないか?演奏者が途中でスタミナ切れを起こし、駄演になるのではないか?
しかし、そのような心配はすべて杞憂に終わった。ダネル弦楽四重奏団のショスタコーヴィチ、驚異的に素晴らしい演奏である!11時の開始から22時過ぎの終演までの11時間、退屈に思う瞬間は一度たりともなかった。ダネル弦楽四重奏団のメンバー、武蔵野市、そしてショスタコーヴィチに感謝である。
昨年秋に、台湾のクラシックファンの方から、12月に台北でダネル弦楽四重奏団がショスタコーヴィチサイクルをやるという情報を得た。日程の関係で結局行かなかったのだが、そのときのサイクルは
12月18日19:30 1,2,3番
12月20日14:30 4,5,6番
12月20日19:30 7,8,9番
12月21日14:30 10,11,12番
12月21日19:30 13,14,15番
と3日間に分けての、常識的なもの。今回の武蔵野の企画が、いかにすごいかがわかる。よくダネル四重奏団がOKしたものだ。ちなみに武蔵野、過去にマンハッタン弦楽四重奏団、アトリウム弦楽四重奏団でも同じ企画をしたことがあるそうだ。
ダネル弦楽四重奏団、写真で若い団体だと思っていたのだが、実際はオジサン4名の団体。1991年の結成だからかなり活動歴は長いわけである。
最初に演奏された第1番の冒頭があまりに素晴らしくて、この全曲演奏会は当たりだと直感。その第1番、驚くほどのテンションで演奏されて、最初からこのテンションで最後まで持つのか?と心配になった。第1ヴァイオリンのダネルは乗ってくると片足を高く上げて演奏する独自のスタイルで、ソロではほとんど客席の方を向いて演奏するという、かなりファンキーなオジサンである。
歴の長い四重奏団だと、誰かの腕が衰えて足を引っ張ったり、たまに音程の悪さが目立ってしまったりするものだが、ダネル四重奏団の4名に関してはそのようなことは皆無。音程も非常にいいし、アンサンブルは秀逸。中音域を受け持つ第2ヴァイオリンのヴィオラの音が非常に雄弁だし、チェロの音は格調高く安定感は抜群で全体を支える。
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の多くを初演した、ロシアのベートーヴェン弦楽四重奏団に学び、1993年のショスタコーヴィチ国際弦楽四重奏コンクールで1位を取った団体である。ショスタコーヴィチの音楽がもう、身体に染みついているのであろう、どの曲も説得力抜群の演奏であった。
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲、背景を理解するには、交響曲が作曲された時期との関連を考えるとわかりやすい。第1番が書かれたのは交響曲第5番の翌年。第5番が書かれたのは、交響曲第10番と同じ年である。あの捉えどころのない交響曲第15番の後に書かれた第14番と第15番は非常に難解。一番有名な第8番を頂点として、その後の作品は徐々にとっつきにくくなっていくのである。
今回のように、弦楽四重奏曲を番号順に演奏することによって、ショスタコーヴィチの作風の変化がよくわかる。そして自分が苦手意識を持っていた後期の弦楽四重奏曲も、ダネル弦楽四重奏団の非常に素晴らしい演奏によって、本当の価値を見いだすことができたような気がする。
全曲の演奏が終わったのは、夜の10時。まさかその後にアンコールをやるとは思っていなかったのだが、この日最初に演奏された第1番の第1楽章がアンコールに演奏された。死を意識した陰鬱な第15番と、第1番の平明で古典的な作風の対比がなんとも言えない。
ダネル弦楽四重奏団、ヴァインベルクの弦楽四重奏曲全集を録音するなどかなり珍しい作品を取り上げているようだが、ベートーヴェンやバルトークの弦楽四重奏曲の録音がないのは意外である。
今回15曲の弦楽四重奏曲を8セクションに分けて演奏されたわけだが、各セクション間の休憩時間は中途半端な長さであった。まあこれは、1日で全曲演奏するためには仕方ないことではあるが。ランチタイムは13時過ぎの55分休憩、ディナータイムは19時20分からの40分休憩で取るのが普通だとは思うが、ホールのまわりに飲食店がそれほど多いわけではない。
私は昼の55分休憩、ホール内のカフェに行ったのだが、ひどい目にあった。自動券売機に10分並び、その後私の注文したものはどういうわけか全く出て来ず、30分経って返金を依頼しようとしたらなぜかすぐに出てきたのだった。結果10分で食事するはめに…予約席にダネルさんもいらしていたが、こちらも提供は遅かったようだ。
それはさておき、後期になっても演奏が乱れることは全くなく、最後まで極めて高いレベルの演奏が展開されたのは、本当にすごいことであった。
総合評価:★★★★★




