東京交響楽団第734回 定期演奏会 (サントリーホール)

 

指揮:ジョナサン・ノット

ソプラノ:カタリナ・コンラディ

メゾソプラノ:アンナ・ルチア・リヒター

エヴァンゲリスト(テノール):ヴェルナー・ギューラ

イエス(バリトン):ミヒャエル・ナジ

テノール:櫻田亮

バリトン:萩原潤

バス:加藤宏隆

合唱:東響コーラス

合唱指揮:三澤洋史

児童合唱:東京少年少女合唱隊

児童合唱指揮:長谷川久恵

 

J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244(字幕付き)

 

今シーズンで東響音楽監督を退任するジョナサン・ノット、最終シーズンの目玉の一つであるマタイ受難曲を聴く。

 

マタイ受難曲はとても長い作品だが、非常に感動的な宗教曲である。第2部のアルトの有名なアリア「憐れみたまえ」を聴くと、人間がいかに弱い存在であるかを思い、涙を禁じ得ない。

自分が今まで聴いた演奏だと、2005年・2009年のコルボ指揮ローザンヌ器楽アンサンブルが頂点であり、あとは2015年他鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンが感動的な演奏であった。

今回のノット監督のマタイ、第1部を聴いた段階ではかなりテンポが遅めで眠くなってしまって、さらに長い後半もこんな感じだときついなあ、と思っていたのだが、聴き所が多い第2部は一転して音楽が雄弁になり、結果としてはそれなりに満足度が高い公演となった。

 

今回の合唱指揮者である三澤洋史氏のブログによれば、ノット監督はカール・リヒターの表現は時代遅れでテンポが遅く重い、一方で古楽系の演奏は速すぎて表現が素っ気ないと語っていたそうだ。実際、ノットのテンポ設定はその中間ぐらいだし、表現もHIP(歴史的見地による演奏)ではもちろんない。ただ、聴いた感覚だと、どちらかと言えばロマンティックな表現に寄っているように思われた。

二群のオーケストラはステージ上左右に配置され(第1コンサートマスター小林壱成、第2コンサートマスター景山昌太郎)、中央にヴィオラ・ダ・ガンバ。3人のオルガン奏者のうち、2名はステージ中央、1名はステージ左手(ホールのオルガンのコンソール)に配置されていた。ステージ後方左右に総勢100名を超える第1コーラス、第2コーラスが配置されている。児童合唱はPブロックの後方、オルガンの下に配置されていた。

これだけの大所帯でマタイの実演を聴くのは初めてで、合唱もこれだけの人数がいるとどうしても高域で雑味が出てくるようなところがある。まあ、これだけの大曲を全曲暗譜で歌うというのは大変なことで、相当この曲を習熟しないとできないことであろう。

 

歌手は、なんといっても私が推しているワーグナー歌手・ミヒャエル・ナジの英雄的なイエスが素晴らしい。今年の夏、バイロイトで彼が歌う個性的なベックメッサーを聴いたばかりだが、今回のイエス、彼の本来の持ち味の60%程度で歌っていたのではないかというぐらい、余裕の歌唱である。福音史家はヴェテラン、ヴェルナー・ギューラ。ゼバスティアン・コールヘップの代役である。ヤーコプス指揮ベルリン古楽アカデミーの録音(2012年)で同役を歌っている。表現は見事だが、高域は若干苦しそうなところもあった。メゾはアンナ・ルチア・リヒター、日本でも割と知られた歌手であり、安定感がある歌唱である。ソプラノはカタリナ・コンラディ、バイロイトでもちょい役で出演している歌手であるが、こうしてマタイの歌唱を聴くと、非常に華がある声であると感じた。日本人歌手だと、BCJの常連である櫻田亮の伸びやかな声が印象的。萩原潤氏は新国立劇場で何度聴いたことだろう。加藤宏隆氏の声、低域がやや聞き取りづらくなるところがあったか。

 

今回の演奏時間はおよそ正味180分。プログラム記載の演奏時間はなんと131分とあるが、これはどうやらメンデルスゾーン編曲版の所要時間である。

モダン楽器による演奏だと、カール・リヒターの有名な録音、旧盤は197分、新盤は203分。尋常でなく遅いのがクレンペラーで223分、カラヤンは203分、コルボ172分。一方、古楽系の演奏だと、アーノンクール161分、ヤーコプス158分、ヘレヴェッヘ162分、鈴木雅明160分、ガーディナー156分、といったぐあいである。この曲に関しては、自分がどちらかと言えば古楽系の演奏で慣れているということに今回気付いた。

 

18時開演、20分の休憩をはさみ終演は21時半。この日、昼はバイエルン国立管の演奏会が2時間45分かかったので、都合6時間以上コンサートホールにいた計算になる…

 

総合評価:★★★★☆