バイロイト音楽祭2025「ローエングリン」(バイロイト祝祭劇場 8月6日)
指揮:クリスティアン・ティーレマン
演出:ユヴァル・シャロン
ローエングリン(テノール):ピョートル・ベチャワ
エルザ(ソプラノ):エルザ・ファン・デン・ヘーヴァー
テルラムント(バス・バリトン):オラファー・シグルダーソン(発音不明)
オルトルート(メゾ・ソプラノ):ミイナ=リーサ・ヴァレラ
ハインリヒ王(バス):ミカ・カレス
王の伝令(バリトン):ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
ブラバントの貴族:マルティン・コッホ、ギデオン・ポッペ、フェリックス・パッヒャー、マルクス・スイコネン
バイロイト祝祭管弦楽団、合唱団(合唱指揮:トーマス・アイトラー=デ・リント)
2020年までバイロイト音楽祭の音楽監督であったティーレマンが、今年2025年から音楽祭にめでたく復帰した。今やティーレマンはワーグナー演奏にかけては第一人者であり、彼がいないバイロイト音楽祭はあり得ない。実際、今回ティーレマンがこのローエングリンを振らなかったら、私は今年バイロイトに来なかっただろうと思う。
そのティーレマン、音楽祭開催150周年記念となる来年2026年にリングのチクルスを振る予定が発表されて驚き。その企画は2026年のみである。しかもさらに驚いたことに、そのチクルスのパッケージチケットが7月25日に一般発売されたのである…というわけで私も早速購入、来年また飽きもせずバイロイト遠征することになってしまった。
さて今回のローエングリンであるが…いい公演だったけれど、期待したほどの感銘はなかったというのが正直なところである。
歌手陣、先週バイエルン州立歌劇場でもローエングリンを観たのだが、歌手はそのときの方が豪華であった。
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その時に同じローエングリンを歌ったばかりのベチャワ、彼はやはり素晴らしい!彼は昔から私のお気に入りなのだが、イタリア・オペラを得意とするリリックから、ドラマティックなワーグナー歌いに変貌を遂げた。先週同様、彼の英雄的な声は素晴らしく心に響く。ただ、前日のマイスタージンガー同様、このローエングリンもクラウス・フロリアン・フォークトのあの超美声が脳内に残っているのは事実(この公演の次の公演、ベチャワが夏風邪でキャンセルしてフォークトが代役になった)。
エルザ役は南ア出身、役と同じ名前のエルザ・ファン・デン・ヘーヴァー。今回初めて聞く名前である。リリックよりもドラマティックの傾向が強いやや細めの鋭い声質で、聴き応えはあるが私が持っているエルザのイメージとは若干違うかもしれない。
テルラムント役はアイスランド出身のシグルダーソン。昨年から指環のアルベリヒを歌っているが、テルラムントは可もなく不可もなくというところか。
オルトルート役も初めて聞く名前の、ミイナ=リーサ・ヴァレラというフィンランド人歌手。強靱な発声でオルトルートとしてはふさわしいが、声がやや揺れるところがある。
ハインリヒ王はミカ・カレス。明るめの朗々とした声質のバスであり、押し出しもまずまずだ。
合唱、ローエングリンではかなり重要になってくるが、オーケストラとバラバラになる部分あり。これは、前日のガッティ指揮のマイスタージンガーでも同じであった。トゥッティではやや音が混濁するところもあったか。
オーケストラ、やはりティーレマンが振ると低音のエッジが効いてくるのだが、以前ティーレマンがバイロイトに出演していたときに比べると、あのときほど強烈に、地の底から響いてくるような音とまではいかない。まあ、バイロイトで過去に聴いたティーレマンは指環、タンホイザー、オランダ人、そしてトリスタンとイゾルデであり、今回はローエングリンだから、オペラの性質にもよるのかもしれないが。ティーレマンのエッジが効いた表現は、第2幕前半、テルラムントとオルトルートの会話あたりではっきりと聴くことができた。
演出はユヴァル・シャロン。前日のマイスタージンガー同様、この演出も歴史とか政治の匂いがしないタイプのものだ。ぱっと見るとほとんど違和感がないステージだが、よく見ると細かいところで不思議なことが色々と発見される、というような演出である。
第1幕のセットが発電所のようなものであり、第2幕以降も「電気」がテーマになっているようだ。第1幕でテルラムント、オルトルート、エルザの背中には昆虫のような羽が見える。ローエングリンの服装は、電力会社の社員のようだ。第1幕決闘シーンはローエングリン、テルラムントともワイヤーで吊るされての空中戦だったが、これは替え玉だったかもしれない。第3幕、テルラムントがローエングリンの家に忍び寄るシーンでは、テルラムント配下の4名が匍匐前進。テルラムントは感電死なのだろうか、ここのシーンはよくわからなかった。最後に出てくるゴットフリート公は全身緑。意味がわからなかった。
16時開演、2回の1時間休憩をはさみ、21時半頃終演。
総合評価:★★★☆☆