NHK交響楽団第2034回定期公演Aプログラム1日目 (NHKホール)

 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

ヴィオラ:アントワーヌ・タメスティ*

 

ベルリオーズ/交響曲「イタリアのハロルド」*

(ソリスト・アンコール)

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007〜前奏曲

 

プロコフィエフ/交響曲 第4番 ハ長調 作品112(改訂版/1947年)

 

N響前首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが2年ぶりに登場。とはいえ、昨年もドイツ・カンマーフィルハーモニー来日公演で指揮しているから、あまり久しぶりな感じはしないのだが。

 

前半はイタリアのハロルド。最近やっとこの曲の素晴らしさがわかってきた。実は大変な名曲ではないだろうか?実演ではソヒエフ指揮N響、ノット指揮東響を聴いたことがあるが、その2回ともヴィオラを弾いたのは各オーケストラの首席ヴィオラ奏者であった。今回はソリストとして著名な名手、アントワーヌ・タメスティである。

14型のオーケストラ、いつもと違って5群の弦がセクションごとにある程度の間隔を空けて配置されていたので不思議に思っていたのだが、これはタメスティが放浪するチャイルド・ハロルドに扮してステージ上を動き回るためであった。開始時にソリストが登場せず、あれ?と思っていたら曲が始まってからタメスティが登場し、最初はハープの横に立ってハープとともに演奏。その後もステージの前方のみならず、ティンパニの前やチェロの横などあちこちで演奏するというスタイルだった。これだけステージをあちこち移動しても、タメスティの深く、格調高く素晴らしい音色が巨大なNHKホールの3階までしっかりと聞こえてきたのはすごい。

オーケストラは実にフランス的な明るい輝きを持った音色で、曲によってこうしてフレキシブルに音色を変えられるN響はさすがである。ソヒエフが振ったときも非常に明るく繊細な音がしたが、そもそものオーケストラの美質があっての話かもしれない。久々にN響の指揮台に立つパーヴォの指揮は非常にかっちりとしていて、オーケストラを豊麗に鳴らす術に長けている。

タメスティのアンコールはバッハ、チェロ組曲をヴィオラで演奏したのだが、ヴィオラで聴くとまさに人間の声による語りを聞いているようだ。

 

後半は16型に拡大して、プロコフィエフの4番改訂版。この曲、何度聴いても耳に残らないという、まるで12音技法による作品のような曲なのである。直前にゲルギエフ指揮ロンドン響の演奏で予習したにもかかわらず、結局今回の演奏を聴いているときも「あ、この部分は覚えている」という瞬間が皆無であった。実演ではゲルギエフ指揮ロンドン響(ただし原典版、2008年)、ブランギエ指揮東響(2019年)で聴いたのみ。

構造的には非常にしっかりしていて、今回演奏された改訂版はソ連帰国後の1947年の改訂だけあり、プロコフィエフの円熟した筆致が確認できる。

パーヴォの指揮はN響の機能性を最大限に発揮するタイプで、現首席指揮者のファビオ・ルイージとはやはり全然アプローチが違う。パーヴォもルイージもともに非常に引き締まった表現をするが、(上手く言えないのだが)ルイージの方が若干音楽に粘り気があるような気がする。今回のプロコフィエフも非常に優れた演奏であることは間違いない。

 

総合評価:★★★☆☆