東京交響楽団第729回 定期演奏会 (サントリーホール)

 

指揮:ジョナサン・ノット

ブルックナー:交響曲 第8番 ハ短調 WAB108(第1稿/ノヴァーク版)

 

素晴らしすぎる!超名演であった9年前のブル8(ただし第2稿)に引けを取らない、驚異的な演奏である。完全にノックアウトされた。

 

東響音楽監督ジョナサン・ノットの音楽監督最終シーズンの初回である本公演。ブルックナーの交響曲第8番ということで、9年前のあの驚異的名演をもう一度聴けるのか!と期待していたところだ。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12181309581.html

ところが。東響の1月〜3月のプログラムにおけるノットのインタビューにはすでに記載されていたのだが、なんと今回の8番は第1稿採用。昨年9月のN響定期でルイージが採り上げ、私を含め多くのクラオタから長くて辛いという声が上がったあの版である。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12867619741.html 

しかし、今日の演奏を聴いて、私はすっかり8番第1稿のファンになってしまったのである。昨年のルイージN響の演奏を聴いて第1稿はイマイチだと思っていたのだが、ルイージN響の演奏が私の肌に合わなかったというだけのことだったようだ。

考えてみれば、ブルックナーが8番の第1稿を書いたのは1878年。すでに作曲家として功成り名を遂げていたはずであり、この時期に書いた曲が、絶対に改作しなければならないような出来であったはずはないのではあるまいか。ベートーヴェンの大フーガ然り、当時の人々がその音楽を理解できなかったというだけなのでは?

第1稿はブルックナーがやりたいことがちりばめられていて、第2稿は(後世を含めて)大衆が自分にどのような音楽を期待しているか、そういうことを意識して改作したのではないか、そういうことすら思うのである。いや、もちろん第2稿が圧倒的に素晴らしいのは言うまでもないのだが。

 

今日のノットの演奏、冒頭から深遠な雰囲気が漂っており、ブルックナーの気高い峻厳な表情を備えつつ、細部にわたって徹底的に美しい演奏であった。さすが東響、スダーンとの8番も超名演だったが、8番については毎度ながら他の追随を許さないレベルの演奏である。一瞬たりとも退屈するシーンはなかった。弦は16型対向配置。金管は左手にホルンがいるのはいつも通りだが、トランペットが右手、トロンボーン他低音金管群が左手に配置されている。ハープは右手に3名。このハープ3名が本当にぴったりと合っていて一人で演奏しているようだった。

ルイージN響の演奏で最も冗長に感じられた第3楽章。第2稿との差異が最も感じられる楽章であり、演奏時間も長い。ルイージの演奏では、クライマックスにおけるシンバル3回×2を聴いて「猿のおもちゃか!」と思って辟易したものだが、そのシンバル3回×2が今回全く違和感なく聞こえたのだから不思議だ。

解説にもあった通り、第4楽章は第2稿との差異が少ないのだが、今まで(録音で)聴いた第1稿の第4楽章では一番感動的な演奏だったと思う。

ノットは第1稿の演奏初めてということもあり、譜面を見ながらの指揮だった。9年前に第2稿の演奏も譜面を見ながらであった。

今回オクタヴィアのマイクが入っていて、全体にほぼノーミスの演奏だったが、第4楽章コーダで音が一旦小さくなる部分、ひょっとしたらノットがリハーサルと違うことをしたのか??ノットがテンポを落としていたのにトランペットが先に行ってしまい若干の乱れがあった。きっと、翌日の演奏は改善されるのであろう。

 

チケットは完売。会場はブルオタが多かったのであろう、非常にマナーがよく、第4楽章の最後の音が終わってから長い静寂があった。素晴らしい。9年前は余韻をぶち壊すブラボーがあったのだった。今思い出しても腹が立つ。

会場には小泉純一郎元首相の姿があった。ブルックナーがお好きらしい。

18時開演で音が鳴り終わったは19時40分。全曲で95分強かかっていたと思われる。

 

ルイージN響のときに第1稿があまり理解できなかったので、今回はNML、アップルミュージックでいくつかの演奏でしっかり予習して臨んだ。聴いたのは

・ゲオルク・ティントナー指揮アイルランド国立響(1996年 89分)

・エリアフ・インバル指揮シュトゥットガルト放送響(2015年 75分)

・ミヒャエル・ギーレン指揮南西ドイツ響(2007年 95分)

・ファビオ・ルイージ指揮フィルハーモニア・チューリッヒ(2015年 92分)

インバルは颯爽としていて非常に聴きやすく、ギーレンが予想外に遅くて重いのだが、時間だけで言えば今回のノットの演奏はギーレンに匹敵する遅さ。確かに、第3楽章は相当遅かったと思う。前述の通り、今回の演奏はオクタヴィアが録音していたのだが、ルイージ指揮N響の第1稿のライヴも5月にオクタヴィアから発売されるそうだ。

 

ノット監督の最終シーズン、快調な滑り出しだ。来週のラッヘンマン、マーラーに期待が高まる。

 

総合評価:★★★★★