エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタルを、サントリーホールにて。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op. 90
ショパン:ノクターン第14番 嬰へ短調 Op. 48-2
ショパン:幻想曲 ヘ短調 Op. 49
ブラームス:4つのバラード Op. 10
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第2番 ニ短調 Op. 14
(アンコール)
ショパン:マズルカ イ短調 Op. 67-4
プロコフィエフ:歌劇『3つのオレンジへの恋』より 行進曲
ブラームス:ワルツ第15番 Op. 39-15
最晩年のカラヤン指揮ベルリン・フィルと共演したロシアの天才少年エフゲニー・キーシンもすでに53歳。今回も堂々たる風格で強烈な印象の、完全無欠とも言うべきすごい演奏を聴かせた。それにしても2000名入るサントリーホールにおいて、2回同一プログラムでリサイタルをやってほぼ満席になるというのはさすが超大物である。
キーシンのツアー、いつも単一プログラムであり公演スケジュールがゆったりしているのがいい。キーシンの来日公演、好みでない演奏というものはあったとしても「不出来だった」ということはほとんど記憶にないのだ。
今回の公演、キーシンが得意とするショパン、プロコフィエフを中心に、アンコールを除けば初めて聴くブラームスと、過去1回しか実演で聴いていないベートーヴェン(2021年に31番のソナタを聴いた)がプログラムにあるのが特徴的。
ベートーヴェンの27番のソナタ、通常レガートで演奏される冒頭のフレーズをスタッカート気味に弾いていてかなり独特な解釈である。キーシンのベートーヴェン、前述の31番のソナタも違和感があったのだが、今回の27番も、一般的に言えばあまりベートーヴェンらしくない、独特なアプローチである。といってもそれは好みの問題であり、演奏の完成度は抜群に高い。
ショパン2曲は、ショパンが男性の音楽であるということを再認識させられるような強靱なタッチ。これだけ完成度が高く力強い幻想曲は初めて聴いた。
ブラームス、いわゆるドイツ的な重厚な演奏ではなくかなり叙情的な表現である。第4曲など、ともすると退屈な音楽になってしまいそうなところを、実に味わい深くじっくり聞かせるのはすごい。
ただやっぱり個人的に一番感激したのはプロコフィエフ。強烈なリズムと打鍵、圧倒的推進力、完璧なテクニックで聴衆を圧倒した。どんなに熱い演奏をしてもフォルムが一切崩れないのがこの人のすごいところである。
アンコールは常識的に3曲。キーシンのアンコール曲数、かつては第3部と言われるぐらいの曲数だった。参考までに過去のアンコール曲数は(あくまでも私が行ったリサイタルでのアンコール数である)
2003年 9曲
2006年 7曲
2009年 9曲
2011年 4曲
2014年 3曲
2018年 3曲
2021年 4曲
となっている。今回のアンコール、やっぱりプロコフィエフがインパクト大である。
本公演に限らず、キーシンの今回のツアーは完売。
本公演、かなりステージに近いところで聴いたのであるが、演奏中は顔をひくひくさせて取り憑かれたように演奏し、演奏が終わって立ち上がると少しの間は真剣な表情であるものの、喝采を浴びると満面の笑みでニコッと笑い、最後どや顔になるのが面白かった。
総合評価:★★★★★