ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2024 アンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演を、サントリーホールにて。

 

J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068〜エア

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品19 (ヴァイオリン:五嶋みどり)

(ソリスト・アンコール)

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 BWV 1006より I.プレリュード

 

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

 

早いもので、今年もウィーン・フィル来日のシーズンがやってきた。今年の指揮者はラトビアの俊英、アンドリス・ネルソンス。もう45歳になるのか。ここ数年でっぷりと肥り、暗く変態的な解釈が多くなってきて、この指揮者はいったいどっちの方向に行くのだろうかと、期待と不安が混じり合った気持ちで、生温かい目で見守っていたところである。

ところが…1年ぶりに見るネルソンス、なんと細くなっているではないか!昔のシュッとしたスタイル、とまでは行かないにせよ、かなり痩せてステージ衣装がなんとなくダブダブに見えるほどだ…

 

まずは後半に演奏されたマーラーの5番。満足度が高い演奏だ。

ネルソンスの解釈、ここ数年のテンポが遅めで陰鬱な雰囲気のアプローチは影を潜め、割とノーマルな音楽作りで、時としてキレの良さが感じられるようになっていたのは非常に興味深いところだ。とはいえ、世紀末的・退廃的な香りが立ちこめるウィーン・フィルの音色のせいもあってか、やはり作られる音楽は暗め。それがとてもよい。ネルソンスが、自身のやりたい方向性を若干後退させつつ、オーケストラの魅力を十分に引き出した演奏だったと思う。

この曲はホルンとトランペットが非常に重要であり、この2人の首席がダメだと始まらないのであるが、トランペット首席は冒頭から完璧な音色とテクニック。まさに、ウィーン・フィルの音だ!ホルン首席、音色は素晴らしかったが調子が悪く結構外していたのは残念。とはいえ、トロンボーンも含め、ウィーン・フィルならではの、ふっくらとしたまろやかな金管の音色は格別である。おそらく山羊の皮であろうティンパニの弾けるような音色もまさにウィーン・フィル。

弦(15-14-12-10-8対向)の第4楽章における音色も格別。マーラーはウィーン・フィルの音色を想定して交響曲を書いたわけだが、この綿々とした、涙が出そうになる美しい旋律はまさにウィーン・フィルのビロードのような弦の音で演奏されてこそ引き立つというものだろう。第3楽章トリオの弦楽器のワルツのリズムはまさにウィーン風だ。終楽章、エンディングはしっかりと祝祭的なムードで盛り上がっていて見事であった。

 

前半の冒頭、ダニエル・フロシャウアー楽団長がマイクを持って立ち、小澤征爾との思い出や、追悼でG線上のアリアを演奏することを話した。演奏後は拍手なしで会場全員が黙祷。

 

前半のプロコフィエフ。こちらは、まあまあだったかな…

五嶋みどりの演奏を聴くのはもう9年ぶりだ。9年前もそうだったのだが、この人の演奏スタイル、霊媒師のような、どこか取り憑かれた雰囲気になっている。オーケストラとぴったり合っている感がなくて、少々もどかしさがあったのは事実。アンコールで演奏されたバッハも、上手いのだがせせこましい印象が拭えない。

前半の弦は13-12-10-8-6対向。

 

さすがウィーン・フィル来日公演、会場はほぼ満席。それにしても、ウィーン・フィルのメンバーはもう何年も前から顔と名前が一致せず(というより、知らない顔ばかりだ)。

 

総合評価:★★★★☆