NHK音楽祭2024を、NHKホールにて。
指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー
ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調作品18
(ソリスト・アンコール)
ラフマニノフ/リラの花 作品21-5
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
巨匠シャルル・デュトワがN響の指揮台に戻ってきた! 2018年のme too運動により世界中の一流オーケストラから干されてしまったデュトワ。2017年12月のN響定期を最後に、以後のN響への出演は全てキャンセルされてしまった。その後日本では、2019年以降大阪フィル、新日本フィル、サイトウキネン、札響(中止)、九州響など他のオーケストラには招聘されていたが、今回NHK音楽祭にて7年ぶりにN響復帰となった。
やはりデュトワが振るN響は素晴らしい!かつてデュトワとN響の演奏を日常的に聴くことができたのは、やはりすごいことだったのだ。デュトワが振るとオーケストラの音が変わるというのはよく言われるが、やはり機能性という点で断トツに優れているN響だとその音の素晴らしさがより一層わかるのである。
腕をたかだかと上げ、細やかな指示を与える指揮姿は健在。88歳になった今でも、その指揮姿は指揮棒の魔術師そのものだ。マエストロのエレガントな指揮を見ていると、マエストロがどういう音を作りたいか、素人の私でも自然に音のイメージが沸いてくる。もちろん、厳しいリハーサルによってあれだけ素晴らしい音が作られているのは言うまでもないのだが。
1曲目のラヴェルは12型。音が垢抜けてきらきらと輝いており、弱音はこの上なく上品で繊細。一つ一つの音の作り方がきわめて丁寧だ。2017年の定期でもオール・ラヴェルをやったが、あのときの感動がよみがえってきた。マエストロがN響の常任指揮者・音楽監督だった時代(1996年9月〜2003年8月)の楽員はだいぶ減ってしまってはいるだろうが、こういう演奏を聴くとまさに以心伝心、オーケストラが指揮者の作りたい音の方向性を完全にマスターしているという気さえする。
2曲目はラフマニノフの2番、ソロは久々に聴くロシアのピアニスト、ニコライ・ルガンスキーだ。ルガンスキーは著名なピアニストであるが、私はN響定期で過去3回聴いたことがあるのみで、そのうち2回はデュトワ指揮N響との共演である。
ルガンスキーのピアノは実に正確無比、剛毅でスケールが大きく、そのうえタッチが極めて安定していて一つ一つの音がクリアに聞こえるという、全てがそろった超名演であった。この人、こんなにいいピアニストだったっけ?
マエストロのサポートが素晴らしくて、ピアノにきっちりと寄り添いながら、オーケストラの聴かせどころでは間違いなくじっくり聴かせる。今更こんなことを言うのもなんだが、まさにプロ中のプロだ。
弦は14型。第2楽章のヴィオラパートは3声部のディヴィジで書かれているが、気がつくと10人いるヴィオラ奏者のうち、前の6人しか演奏していなかった。しかしそのヴィオラの音は非常に濃くて官能的。
ルガンスキーのアンコールはラフマニノフの小品。これがまた、NHKホールなのになんでこんなに骨太の音で響くのか不思議なくらいにいい音だった。ルガンスキーのリサイタルをぜひ聴いてみたい。
後半は16型で春の祭典。こちらも強烈な演奏であった!冒頭、水谷氏のファゴットの音はまさにデュトワのハルサイの音で、苦しそうな表情ではなく上品ですっきりした味わいだ。マエストロが振るハルサイを聴くと毎回思うのだが、いったい腕が何本あるのか?というぐらいに鮮やかな指揮ぶりである。テンポは昔に比べるとわずかに遅くなってきているが、2022年にサイトウキネンを振ったときに比べるとそこまで重さはなかった。
それにしても、16型5管編成という巨大編成ながら、N響の合奏能力は極めて高い。デュトワの洗練された音楽作りと、オーケストラが本来持っている機能性が見事に掛け合わされて高水準の演奏となった。
今回のNHKホールはほぼ満席。ブロムシュテットが振った10月のA、C定期もそうだったが、最近、巨大なNHKホールが満席になるという希有な体験をしている。そして、今回は定期ではないからなのか、会場のノイズはほとんど気にならなかったし、ハルサイが終わった後に割と長い静寂があったのは貴重な体験であった。
現在88歳のマエストロ、来年2025年11月のA、C定期に登場予定。まだまだお元気なので、来年も素晴らしい演奏を聴かせてくれるに違いない。
総合評価:★★★★★