東京交響楽団第723回 定期演奏会を、サントリーホールにて。
指揮:原田慶太楼
ピアノ:角野隼斗
ソプラノ:熊木夕茉
合唱:東響コーラス
合唱指揮:根本卓也
上田素生:儚い記憶は夢となって
ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 へ長調
(ソリスト・アンコール)
マンシーニ (角野隼斗編): ムーンリバー
ペルト:主よ、平和を与えたまえ-混声合唱と管弦楽のための
プーランク:グローリア FP.177
期待していなかったが、予想以上に満足度の高い公演であった。
超人気ユーチューバーピアニスト、かてぃんこと角野隼斗が出演するということで、チケットは完売。Pブロックを合唱団が使用しているとはいえ、この渋めのプログラムで完売とは、角野隼斗の人気はやはりすごい。女性率高し。
まずはその角野が弾いたガーシュウィン。角野の実演を聴くのは初めてで、ユーチューバーのピアニストってどうよ?と変な先入観を持っていたのであるが…感服した。タッチは非常にクリア。強弱のニュアンスが絶妙であり、曲の構造がいい意味で徹底的に計算されつくしていて、盛り上がるところも非常にクールな印象がある。第1楽章のエンディングはクールながらエキサイティングで、予想通りここで拍手が起こってしまった。
第2楽章、首席ローリー・ディランのトランペット・ソロがあまりに見事。原田慶太楼、こうした曲をやると実に生き生きしていて、リズムのキレがよい。
角野は今回のガーシュウィンの協奏曲はここ数年結構演奏しているようだし、こうしたジャジーなテイストの音楽は得意だろうと思うが、独墺系の音楽を弾いたらどんな感じなのだろうか?ぜひ聴いてみたいものだ。ちなみに、この演奏会の前日、やはり東京交響楽団とカプースチンの協奏曲などを弾いているというからそのタフさには驚く。
後半は全く趣向が変わって宗教曲。
ペルトのヒーリング・ミュージックともいえるような作品。合唱団の人数が100名程度と非常に多いので、例えば録音で聴くエストニア・フィルハーモニー合唱団のような透明感はないが、こうした大編成の合唱団で聴くと別の説得力がある。
アタッカで開始されたプーランクのグローリア、個人的に大好きな曲である。プーランクという作曲家は、ブラームスと同じように、エロティックと言ってもよいほどの独特かつ個性的な色があるところが素晴らしいと思う。第1曲の冒頭は、ストラヴィンスキー「セレナードイ調」の冒頭から採られているとか。
大編成の合唱団、いつもながら完全暗譜、重量感がありながら伸びやかだ。
11月に日生劇場「連隊の娘」でマリーを演じる予定の熊木夕茉、非常にすっきりとよく透る声のコロラトゥーラである。若干の硬さがあるので、これでしなやかさが加わるとさらによいのだが。
ところで、第2曲「ラウダムス・テ」の冒頭で、合唱団が全員、突然踊るように身体を左右に揺すり始めたのでびっくりしてしまった。シンコペーションが多用されるこの第2曲は宗教曲とは思えないほど本当にインパクトが強い音楽であり、プーランクはベネディクト修道士たちのサッカーを描いたと説明している。
オーケストラは全ての曲で14型(Cb7)。いつものしっとりした質感はやや後退して若干音が薄めに感じられたのはなぜだろうか。
前半冒頭に演奏されたのは上田素生「儚い記憶は夢となって」。山形交響楽団による委嘱作品で、原田慶太楼指揮山形響で昨年初演された曲である。わかりやすい曲だが、正直申し上げて才気に乏しく、申し訳ないが再演に値する作品とは到底思えない。10分程度の曲ながら途中で退屈してしまった。
総合評価:★★★☆☆