バイロイト音楽祭2024 ワーグナー「ジークフリート」を、バイロイト祝祭劇場にて。

 

指揮:シモーネ・ヤング

演出:ヴァレンティン・シュヴァルツ

 

ジークフリート:クラウス・フロリアン・フォークト

ミーメ:ヤーチュン・ファン

さすらい人:トマス・コニエチュニー

アリベルヒ:オラファー・ジグルダーソン

ファフナー:トビアス・ケーラー

エルダ:オッカ・フォン・デア・ダメラウ

ブリュンヒルデ:キャサリン・フォスター

森の小鳥:アレクサンドラ・シュタイナー

バイロイト祝祭管弦楽団

 

前々日のワルキューレから1日置いて、ニーベルンクの指環第2日、ジークフリート。

16時の開演時点、相当に暑くて、このあと6時間の長丁場だと思うとげんなりしたのだが、終わってみればあっという間の6時間、極めて満足度の高い素晴らしい公演であった。

 

何より、タイトルロールであるクラウス・フロリアン・フォークトの輝かしい美声、やはり素晴らしい!1970年生まれのフォークト、歌手としてのキャリアは結構長いのだが、全く衰えは感じられない。生来の英雄的な美声に加えて、以前に比べるといい感じで重みが出てきており、まさにジークフリートは適役である。

ブリュンヒルデ役キャサリン・フォスター、ワルキューレのときと同様に強靱な発声と艶がある声で会場を震わせる。高域がほんの少しフラット気味なところはあるものの、決めるところでは完璧に決めた。もうこの人、寝ていてもブリュンヒルデを歌えるのではなかろうか。バイロイトではなにせ2013年以来、リングがある年のブリュンヒルデは2021年、2022年を除いて全てこの人がブリュンヒルデなのである。2021年はリングのうちワルキューレのみが上演された年で、フォスターは1回だけイレーネ・テオリンの代役でブリュンヒルデを歌い、2022年はフォスターがイゾルデを歌ったため、ブリュンヒルデはテオリンだった。2023年フォスターはなんと、ブリュンヒルデとイゾルデを掛け持ち。

ミーメ役ヤーチュン・ファンは台湾出身の歌手で、ベルリン・ドイツ・オペラでキャリアを積んだ人。今回のラインの黄金とジークフリートがバイロイトデビューである。味がある性格俳優的な演技もよかったが、声がしっかりとクリアに聞こえ、ある程度の太さも感じられた。

さすらい人役コニエチュニー、この日もクオリティをキープしていたのはさすが。アルベリヒ役ジグルダーソン、今回も粗野な感じがなかなかいい。エルダ役ダメラウ、今回もラインの黄金と同じくちょい役だが、今回はあまり印象がなかったか。森の小鳥役アレクサンドラ・シュタイナー、見た目はかなり若いが、実は2016年以降バイロイトの常連で、パルジファルの小姓や花の乙女、リングではヴォークリンデや森の小鳥。こういう居場所でしっかり的確に役をこなすというのも素晴らしい。

 

今回も、シモーネ・ヤング指揮のオーケストラが実にいい。金管はしっかりと重量感を持って鳴っているのだが、全くうるさくなくて非常に柔らかい音で、弦とのバランスが抜群。毎度のことながら、歌手の感情表現に上手く寄り添った音楽は雄弁この上ない。そして角笛を吹いたホルンは最高!全てが完璧な吹奏。全く落ちる気がしないぐらいに安定していた。

さて、シュヴァルツ演出、第1幕はフンディングのかつての住まいが舞台だそうだ。ミーメはジークフリートにポルノ写真を見せて性教育。松葉杖からノートゥンクらしき武器が出てくる。第2幕はファフナーの豪華な邸宅で、ファフナーは寝たきりで瀕死の老人、その横で介護をするのはなぜかハーゲン。森の小鳥は介護士のようだ。アルベリヒ、ヴォータンがそれぞれ見舞いに訪れ、やがてジークフリートとコンビニ袋を持ったミーメも邸宅に来る。ミーメが持っていたのは何かヌードルのファストフードで、ジークフリートは箸を使ってそのヌードルを食べ、介護中ファフナーにぞんざいに扱われて泣く森の小鳥に分け与える。ファフナーはジークフリートに殺されるわけでもなく絶命。ジークフリートはハーゲンと友達になり、その後最後まで行動をともにする。森の小鳥、ジークフリート、ハーゲンが乾杯しているところにミーメが割り込み、なぜかまたポルノ写真を見せるが、そこでノートゥンクらしき武器でジークフリートがミーメを刺し、ハーゲンが絶命させる。第3幕はヴォータンの邸宅のようで、グラーネはワルキューレのとき付き人のように見えたが、どうやらブリュンヒルデの愛人らしい。ジークフリートがブリュンヒルデに寄っていくのを阻止しようとする…

というように、細かい趣向は凝らされているが、何が伝えたいのかは全く不明。

今回、第1幕のあと一人だけブーイングする人がいたが、ブーイングはそれだけだった(おそらく演出に対するものだろう)。前回演出のカストルフのジークフリートのときは、客席全員が拍手せずにブーイングをするぐらいひどい演出だったのだから、だいぶマシな方である。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11600305551.html 

16時開演、1時間休憩を2回はさみ22時過ぎに終了。

以前に比べると会場内の出店の数が増え、アイスクリームの屋台は常に行列がすごい。劇場西側にはビアガーデンも出来た。その一方、劇場西側の丘の上にあったヴァルハル・レストランはなくなっていた。

余談だが、バイロイトに来たら必ず訪問していた日本料理「誠」は休業。看板はかかっているが、全く気配がなく、閉店なのかもしれない。

 

総合評価:★★★★★