読売日本交響楽団第639回定期演奏会を、サントリーホールにて。

 

指揮=セバスティアン・ヴァイグレ

ピアノ=ダン・タイ・ソン

 

ウェーベルン:夏風の中で

モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番 イ長調 K. 414

(ソリスト・アンコール)ショパン:ワルツ イ短調 遺作

 

シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」 作品5

 

ドイツの名匠ヴァイグレと読響は先頃、東京・春・音楽祭にてR・シュトラウス「エレクトラ」の圧倒的な名演を聴かせたばかり。その彼らが、独墺音楽の比較的ディープな曲を取り上げた。

 

ウェーベルン「夏風の中で」はまさにこれからの季節にふさわしい、夏のさわやかな風を感じさせる名曲(といっても、湿気の多い日本だと山岳地帯に行かないとこの曲の雰囲気は感じられないが)。冒頭の弱音がとても繊細で聞こえないくらいである。艶やかな読響の弦とスムースで美しい木管が、しっとりとした印象を与える。16型。

 

続いて演奏されたモーツァルトを弾いたのは、1980年ショパン・コンクール優勝者であるダン・タイ・ソン。アジア人初のショパン・コンクール優勝者ということで当時大変話題になった。ベトナムのハノイ出身である彼が、ベトナム戦争中、防空壕の中で紙の鍵盤を使って練習したというエピソードは有名だ。その彼もすでに65歳、人の良さそうなアジア人のおじさんという風貌である。ブルース・リウは彼の弟子だそうだ。

今回演奏されたのはモーツァルトの協奏曲の中ではあまり演奏会で聴く機会が少ない、12番の協奏曲。久々に聴くダン・タイ・ソンの音は格調高く、音色は温かいというよりは気品が感じられる。8-6-5-4-2という小編成のオケとのバランスがよく、室内楽を聴いているようだ。アンコールで演奏されたショパンの遺作ワルツは絶品で、まさに枯淡の境地。なんというさびしい音楽なのだろう。

 

後半はシェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」。大きなうねりが感じられる演奏で、日本のオーケストラでこういう音が聞けるようになったのはとても素晴らしいとつくづく思う。ヴァイグレ、さすがドイツの名指揮者だ。エレクトラのときもそうだったが、ヴァイグレがかなり大きなアクションを取ってオーケストラをコントロールしていたために、非常に振幅が大きいダイナミックでスケールの大きい演奏に仕上がっていた。どろどろと渦巻く情念が特に低音弦楽器群によって効果的に現出され、その一方でペレアスとメリザンドの愛を表すロマンティックな表現はとても世紀末的・退廃的であり、なまめかしく妖しい響きを持っている。

ヴィオラの鈴木康浩氏のソロが濃密な音で実に素晴らしい。重要な役割を持つイングリッシュホルンやクラリネットも素晴らしい音色。16型。

それにしても、トロンボーン奏者5名のうち2名が女性、ホルン奏者8名のうち3名が女性。弦や木管はもともと女性奏者が多いが、金管奏者も最近は本当に女性奏者が増えた。読響やN響、昔は弦楽器すら男性奏者ばかりだったのだが。

 

ヴァイグレと読響、来年3月にベルク「ヴォツェック」を演奏会形式で上演する予定。なんとタイトルロールは名バリトンであるマティアス・ゲルネ、私の大好きなかつての名バリトン、ファルク・シュトゥルックマンも端役で登場する。今から期待大だ。

 

総合評価:★★★★☆