サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

CMGプレミアム 小菅 優プロデュース『月に憑かれたピエロ』を、サントリーホールブルーローズにて。

 

ピアノ:小菅優

ヴァイオリン&ヴィオラ:金川真弓

チェロ:クラウディオ・ボルケス

フルート&ピッコロ:ジョスラン・オブラン

クラリネット&バス・クラリネット:吉田誠

メゾ・ソプラノ:ミヒャエラ・ゼリンガー

 

 

ストラヴィンスキー:クラリネット独奏のための3つの小品 より 第1番

ストラヴィンスキー:『シェイクスピアの3つの歌』

ラヴェル:『マダガスカル島民の歌』

ベルク:室内協奏曲 より 第2楽章「アダージョ」(ヴァイオリン、クラリネット、ピアノ用編曲)

シェーンベルク:『月に憑かれたピエロ』作品21

 

素晴らしい!こういう演奏会があるから、クラヲタはやめられないのだ。

小菅優がプロデュースした素晴らしいプログラム、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」に影響を受けたり、関連性がある作品を集めたものである。

小菅優人脈であろう、登場したプレイヤーが驚くほどハイレベルである。ヴァイオリンに金川真弓とは…なんという贅沢な顔ぶれだろうか。

 

主役は、メゾのミヒャエラ・ゼリンガー。この人、2009年ザルツブルク音楽祭で聴いたハイドンのスターバト・マーテルでメゾ・ソプラノを歌っていたのだが、当然何の記憶もなし。2017年ジョナサン・ノット指揮東響のドン・ジョヴァンニではドンナ・エルヴィーラ役だったがこれもあまり印象はない。一番よかったのは2020年に紀尾井ホール室内管でシェーンベルク版マーラー「大地の歌」をやったときで、このときの「告別」は素晴らしかった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12568059979.html

その彼女が、前半はストラヴィンスキーとラヴェルを歌ったのだが、しっとりとした歌唱でラヴェルはコケティッシュささえ感じる。ラヴェルの作品(その昔は「マダガスカル島の土人の歌」と訳されていたが、最近は土人と言ってはいけないらしい)、こんな風情があるいい曲だったとは。歌詞がまたエロティックだ。

後半の「月に憑かれたピエロ」では、前半のドレスとは打って変わって黒装束にピエロのメイクで登場。ゼリンガーのシュプレッヒシュティンメ(シュプレッヒゲザンク)がまた表情豊かでニュアンスに富み、ドイツ語の歌詞を見ながら聴いていると情景が目に浮かぶようだ。ちなみにシュプレッヒシュティンメは歌と語りの中間に位置する歌唱技法。10月に神奈川県民ホールにおいて橋本愛主演で上演されるシャリーノのオペラ「ローエングリン」は、シュプレッヒシュティンメというよりほぼ台詞だったはずだ。

今回、「月に憑かれたピエロ」の良さが初めてわかったような気がするのだが、素晴らしい奏者たちにより、実演で、しかもしっかり歌詞対訳を見ながら聴けたのは望外の幸せ。今回、雑音が出にくい歌詞対訳に比較的大きめの文字、そして歌詞が読み取れる十分な照明。こういう配慮は非常に素晴らしい。小菅優のピアノがきらきらと妖しい光を放っていて、シェーンベルクのこの曲が、ドビュッシーに通じる響きを持っていることに気付かされた。チェロの深い響きも格別。

そう、歌詞を見ていて面白いと思ったのは、第19曲セレナード。歌詞にヴィオラを弾くピエロが、「しょんぼりピッツィカートをはじいている」とあるが、聞こえてくる音に弦のピッツィカートはないのである。そういえば、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番のシェーンベルクによるオーケストラ編曲も、原曲で弦が歌うところはピアノに演奏させているのだ。こういうところに、シェーンベルクのすごさを感じる。

 

前半のベルクがまた、世紀末的で鮮やかな色彩を放つ名演だった。現代音楽の範疇の演奏会だがブルーローズは満席。

 

総合評価:★★★★★