東京交響楽団名曲全集 第197回を、ミューザ川崎シンフォニーホールにて。

 

指揮:ジョナサン・ノット

ヴィオラ:青木篤子(東響首席)*

ヴィオラ:サオ・スレーズ・ラリヴィエール**

 

ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」op.16*

酒井健治:ヴィオラ協奏曲「ヒストリア」**

(ソリスト・アンコール)

ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタOp.25-1〜第4楽章

 

イベール:交響組曲「寄港地」

 

酒井健治がフランスで勉強したことを考えると、このプログラムはフランスものということになろうか。ジョナサン・ノットが東響を初めて振ったのはラヴェル「ダフニスとクロエ」全曲で、あれは今でも語り草になるほどの名演奏であった。

そう、英国人ジョナサン・ノットはドイツ・オーストリアものを得意とするのだが、実はフランスものの演奏が非常によい。個人的には、彼が演奏するマーラーよりフランスものの方がよいかも…

 

さて今回の前半はベルリオーズ「イタリアのハロルド」。ベルリオーズは幻想交響曲が超名曲であり、外来オーケストラ来日公演でもほぼ毎年演奏されているのでは?というくらいだが、「イタリアのハロルド」はぐっと演奏頻度が下がる。なんと、私が実演で聴いたのは2019年トゥガン・ソヒエフ指揮N響のみ。録音はそこそこたくさんあるのだが、私の世代だとレナード・バーンスタイン指揮フランス国立管(ヴィオラ:ドナルド・マッキネス)が一択ではないかというくらい有名だった。あとは、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン響。

幻想交響曲すら演奏しないノットによる「イタリアのハロルド」、彼らしい俊敏な指揮でエキサイティングな表現であり、東響の明るい響きによってこれ以上ないくらいに鮮やかな音楽に仕上がっている。第3楽章、第4楽章のジョナサン・ノットのテンポはかなり速め。弦は14型(Cb7)で、第4楽章では第1Vn,第2Vn、Vcの各1名ずつがステージから去りオルガンの下で一瞬だけ演奏したのだが、これって原曲にあるのか、ノットのアイデアなのか不明。

青木篤子のヴィオラ、この曲のヴィオラ・パートが意外に地味(当初委嘱したパガニーニががっかりしたと言われている)であり、もともとこのオケの首席なので、あまり目立った感じはない。いい意味で、オケの音にすっかり溶け込んでいるという感じである。

弦は14型(Cb7)対向配置。

 

後半1曲目は酒井健治のヴィオラ協奏曲。これが予想以上に素晴らしかった!

自分の子どもの頃の夢は現代作曲家になることであったが、こういう曲が書けて、聴衆を沸かせることができたら本当に幸せだろうとつくづく思う。わかりやすい作品である一方で、ヴィオラの技巧はこれ以上ないくらいに駆使されているのがすごい。サオ・スレーズ・ラリヴィエールのヴィオラは鮮烈で、この比較的地味な楽器でここまで説得力が感じられるとは。

曲の随所にドビュッシーの「海」のフレーズが出てくるのだが、それ以外にもどこかで聴いたようなフレーズが…マーラーの6番とかもあっただろうか?曲想は割と保守的なところが多いのだが、演奏技術はいかにも現代音楽の技術が要求されているようだ。弦は12型。

サオ・スレーズ・ラリヴィエールのアンコールは、本人が日本語で紹介したのだが、ロックンロールという言葉ぐらいしか聞こえなかった。ヒンデミットの無伴奏ヴィオラ・ソナタのなかの1曲。これがまたクール極まりない!

 

最後に演奏されたイベール「寄港地」。曲名は非常に有名だが、曲の細部について知っている人は、クラシックオタクでも少ないのではあるまいか。こちらがまた、東響の明るく軽めの響きにぴったりの音楽で、地中海のコバルトブルーが目に浮かぶような秀演だ。第2曲のオーボエは首席代行の最上氏、彼の音は非常に濃厚で太く、葉加瀬太郎に似た見た目で絵的にもかなり濃い。

 

前日に東京オペラシティ定期でも同一プロが演奏されたとはいえ、ミューザの客の入りはあまりよろしくない。同じ時間にルイージ指揮N響のメンデルスゾーンが被ったのもいけなかったか(私はN響をやめてこちらに来たのだが)。

 

総合評価:★★★★☆