東京交響楽団川崎定期演奏会 第96回を、ミューザ川崎シンフォニーホールにて。

 

指揮:ジョナサン・ノット

ソプラノ:髙橋絵理

メゾソプラノ:ドロティア・ラング

テノール:ベンヤミン・ブルンス

 

武満徹:鳥は星形の庭に降りる

ベルク:演奏会用アリア「ぶどう酒」

マーラー:大地の歌

 

東響と音楽監督ジョナサン・ノットによるマーラーの交響曲、最後に残された今回の「大地の歌」にて完結。就任記念の9番に始まり、大地の歌で終わるというのは、いかにもノット監督らしい。

その大地の歌の前に、これまた演奏が大変そうな武満とベルクをカップリングするというのも、実にノット監督らしい…

 

1曲目の武満の傑作「鳥は星形の庭に降りる」、弦は12-10-8-6-6対向配置という、作曲者指定の、小さめの編成である。日本のオーケストラが武満を演奏したときの音の繊細さはやはり格別で、海外のオーケストラでタケミツを聴いたときに「なんか違うな」と感じるところがない。東響の響きは非常に繊細でありこういう日本の現代曲をやったときは実に上手いが、音の濃さに関して少々薄く感じられたのは、自分の脳内に小澤征爾指揮ボストン響のあの有名な録音の音がインストールされているからかもしれない。

 

2曲目はベルクの「ぶどう酒」、すなわちワイン。今になって気付いたが、これは後半の「大地の歌」第1楽章「酒の歌」への伏線であろう。

12音技法で書かれたベルクのこの作品、こちらもとてもていねいな演奏である。とはいえよくわからないうちに終わってしまったのだが、作品そのものがあまりとっつきやすくないということもあるし、こういう曲は、ヨーロッパの名門オケにあるような世紀末的で官能的な音色でないとなかなか難しいということだろうか。アバド指揮ウィーン・フィル(アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの歌唱)で予習したのでなおさらそれを痛感してしまった。高橋絵理の歌も悪くはないのだが、オーケストラの音に埋もれてよくわからなかったというのが正直なところだ。弦は14-14-10-8-7対向。

 

後半に演奏された大地の歌、ノットが好きなのであろうということがよくわかる演奏であるし、この曲の素晴らしさを痛感させてくれる、美しく表情豊かな演奏であった。

第1楽章冒頭のホルンは極めて力強く、木管群がいつものことだが秀逸、オーボエは最上峰行氏で実にいい音である。出番は少ないがトランペットは新しい首席ローリー・ディラン、素晴らしい音だ。弦は14-14-12-10-8対向である。

テノールはベンヤミン・ブルンスで、エヴァンゲリストやオランダ人の舵手を歌う彼が大地の歌のテノールを歌うとは思わなかった。さすがに第1楽章は声がオケの埋もれがちだったが、第3楽章、第5楽章では伸びやかで美しい声を聴かせてくれた。メゾソプラノはドロティア・ラング、少々このメゾの声は深みがないように聞こえ、声量もそこまでなかったようなのだが、自分が聴いた場所(2CB)のせいだろうか?

歌手は2人ともやや軽めだったのだが、あえてノットがそういう歌手を選んだということなのかもしれない。ちなみにノットがかつて監督を務めたバンベルク響とのこの曲の録音(2016年)は男声2人バージョン。やはり2016年に、ガッティの代役でノットがウィーン・フィルを振ったライブ録音も、2つのパートをヨナス・カウフマンが1人で歌うというものであった。

 

というわけで翌日はサントリーホールでの定期となる。メゾがよく聞こえることに期待したい。

 

総合評価:★★★★☆