日本フィルハーモニー交響楽団第760回東京定期演奏会1日目を、サントリーホールにて。

指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]

マーラー:交響曲第9番 ニ長調

 

昨年9月に日本フィル首席指揮者に就任したシンガポール出身のカーチュン・ウォンによるマーラー9番。カーチュンとのマーラーはこれまで日本フィルではマーラーの4番、3番を聴いたが、割とすっきりした印象が強かったと記憶する。

 

今回の9番は、指揮者のやりたいことがかなりはっきりとわかる、細かいところまでよく考えられたとてもいい演奏であった。フィナーレに重点を置いてはいたものの、全体の見通しはとてもよい。この曲、マーラー最後の完成された交響曲ということで、死のイメージをどうしても想起させるのだが、カーチュンの演奏はそこまで死の影を感じさせず、比較的楽天的である。実際、この曲が書かれた頃のマーラーは健康で前途洋々だったのだ。

カーチュンは全曲を暗譜で指揮。この人のバトンテクニックはなかなかで、全身で音楽を表現しており、オーケストラもだいぶ機敏に反応するようになってきているようだ。

 

第1楽章、弱音部分を非常に丁寧に扱いながら、トゥッティでは(オケの特性もあるが)音を厚く重ねることなく、明晰な印象を与える。第2楽章はショスタコーヴィチに通ずる諧謔性が強調されており、シニカルな印象。第3楽章は流れに加えて縦の線の重みを感じさせ、中間部にいけるクリストーフォリのトランペットが非常にいい音だ。第4楽章、カーチュンは指揮台の下に指揮棒を置いての指揮であった。冒頭の弦のフレーズはささやくようで、クライマックスに向けて壮大なクレッシェンドを形成していると言った感がある。

 

オーケストラはトランペットのほか、ホルンもなかなかいい仕事をしていたと思う。これに対して木管はちょっと「?」という箇所が散見されたのだが。弦は16型ながらどうしても薄い。もう少し密度や音のコクが欲しかったのだが、ないものねだりだろうか。正直に言うと、オーケストラの精度がもう少し高かったなら、カーチュンの意図をさらに明確に聴くことができたであろう。と、色々と注文はつけたくなるのだが、満足感はそれなりに高い演奏会だった。

 

ステージにはマイクが多く立っていた。カメラも数台入っていたが、記録用かもしれない。客席はかなりの入りで、さすがマーラー9番は人気プログラムである。この週末、金・土は日本フィルが9番を演奏し、土・日は東響が大地の歌を演奏する。なんという幸せな週末だろうか。

 

総合評価:★★★☆☆