N響オーチャード定期第128回を、Bunkamuraオーチャードホールにて。

 

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

ヴァイオリン:岡本誠司

 

シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調

(アンコール)

シューマン(岡本誠司編):若者のための歌曲集 作品79より第19曲「春の訪れ」

シューマン(岡本誠司編):“天使の主題”による変奏曲 WoO24よりテーマ

 

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73

(アンコール)

ブラームス:ハンガリー舞曲集より第5番(パーロー版)

 

N響定期でのブルックナー7番、シューマン2番があまりにもよかったので追加でチケットを購入したこのコンサート、N響定期には及ばなかったとはいえ、巨匠の円熟を感じさせる見事な演奏であった。

 

前半はシューマンのヴァイオリン協奏曲。シューマンがライン川に投身自殺(未遂)を図る前年に作曲されたこの曲、個人的には苦手なのであるが、今回は少しいい曲だと思うようになった。どろどろと渦巻く作曲家の想念を表しているかのように暗くうねるオーケストラパートはさすがエッシェンバッハ。作曲家の暗い闇の部分を浮き彫りにするのはこの人が得意とするところである。

ソリストは2021年ARDミュンヘン国際音楽コンクール1位という岡本誠司。岡本自身、この曲が協奏曲で一番好きというだけあって思い入れが強いようで、その演奏はとても共感に満ちている。特に第2楽章、こんなに美しい曲だとは思わなかった。第3楽章は♩=63という指定で、これは演奏不能な遅さだということだが、今回の演奏はそれより若干速めではあるものの割と遅めのテンポであった。

岡本がアンコールで演奏したのは知らない曲だったのだが、これらは編曲版。このうち天使の主題”による変奏曲は、シューマンが投身自殺を図る直前に書いた曲だそうで、ヴァイオリン協奏曲の第2楽章とテーマが似ている(そのために妻クララがヴァイオリン協奏曲の演奏を禁止したそうだ)。

 

後半はブラームスの2番。風光明媚な夏のペルチャッハにおいて一夏で書かれたこの曲は、ブラームスの作品のなかでは非常に明るくのどかな雰囲気にあふれているが、それでもエッシェンバッハの演奏だと、どこかどんよりとした北ドイツの空を想起させるところがあるのは不思議。年齢を重ねて自然な表現が増えてきたエッシェンバッハではあるが、それでもこだわっているところが随所に見られる。第1楽章展開部最後のほうの金管はかなりの音量で鳴らしてみたり、第3楽章だっただろうか、木管の音量を極端に抑えたり、逆にクラリネットの音を強調したりと、あっと思うところがあった。一方第2楽章の味わい深いチェロやうねるような表現はさすがドイツの巨匠、といったところか。

 

オーケストラ、弦は対向配置で協奏曲14型、交響曲16型。オーボエ首席はボストン響アシスタント・プリンシパルの若尾圭介氏、伸びやかで素晴らしい音色である。ホルン首席も客演、コンサートマスターは読響の長原幸太氏。

 

久々に来たオーチャードホールだったが、やはり音響はイマイチ。東急百貨店本店は建て替えで姿がなくなり、Bunkamuraも休館中。ドゥマゴパリが営業終了してしまったのは悲しい。

 

総合評価:★★★★☆