第2009回 定期公演 Bプログラム1日目を、サントリーホールにて。

 

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

チェロ:キアン・ソルターニ

 

シューマン/歌劇「ゲノヴェーヴァ」 序曲

シューマン/チェロ協奏曲 イ短調 作品129

(アンコール)

キアン・ソルターニ:ペルシアの火の踊り

 

シューマン/交響曲 第2番 ハ長調 作品61

 

先日素晴らしいブルックナー7番を聴かせた84歳のマエストロ、クリストフ・エッシェンバッハ。今回は彼が得意とするシューマンである。

今回もまた、円熟の巨匠が素晴らしい演奏を聴かせてくれた。感動!

 

私はエッシェンバッハのことを、親しみを込めて変態指揮者と呼んでいるのであるが、彼の独特の解釈と暗い音色は、様々な作曲家の闇の部分を浮き彫りにしているのではないかと思っている。マエストロ自身の出自がまた、そうした彼の演奏スタイルに影響しているのだろう。というのも、実の母親は出産とともに死去、実の父親はナチスの懲罰部隊に入れられ戦闘で亡くなったのである(Wikipediaによる)。孤児となった彼は、養母エッシェンバッハにより音楽教育を受けピアニストとしてデビューしたのである。

 

この日最初に演奏されたゲノフェーファ。人妻(伯爵夫人)に横恋慕する執事の欲望や嫉妬を描いているオペラだそうなのだが、それを聞いただけで成就不能で、暗い。この曲の深く暗いドロドロしたものが、今日のマエストロの演奏からひしひしと伝わってくる。音色は極めて濃厚だ。

 

チェロ協奏曲もオケパートがとても深くて濃厚なのだが、ソロがどうも私の好みとは違っていて、音に太さがなく痩せた印象で、渋い音色。この曲にはもっと太く雄弁なチェロの音が合っていると思うのだ。

チェロを弾いたソルターニ、今色々と騒がしい界隈のイランのチェリストである。巨匠ダニエル・バレンボイム(体調がかなり心配だ)が創設したウェスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラの首席チェリストを務めた人である(ソルターニはペルシャ人であり、アラブ人ではないので念のため)。アンコールで演奏した自作は、ソルターニの音にもぴったり合っているし見事だった。

 

後半の交響曲第2番、これは泣きそうなくらいによかった!

冒頭、トランペットの音がかなり強めだったが、これは解説にあった「頭のなかで数日来トランペットが鳴っています」という着手6日目のシューマン自身の言葉をそのまま体現したかのようだ。エッシェンバッハの演奏は悠揚たるもので、(バレンボイムほどではないにせよ)大きなうねりが感じられる。驚いたのは第2楽章で、こんなに快活で躍動感あふれる第2楽章は聴いたことがない。特にコーダの白熱はすごい。コンサートマスターの川崎洋介氏のリードがとてもよくて、中腰で前のめりに演奏する姿はなかなかN響では見られない光景である。あまりの素晴らしい演奏に、第2楽章が終わったところでマエストロが第1ヴァイオリンに向かって拍手のゼスチャーをしていたのだが、私も拍手したいくらいであった。

第3楽章も聞こえないくらいの弱音あり、深いうねりあり、マエストロらしいタメもあって面白い。第3楽章が終わったところで地震がありホール天井がガタガタと揺れたのだが、マエストロは意に介さずアタッカで第4楽章を開始。やはり指揮者はこうでないと!第4楽章の高揚感はすごくて、思わずぐいぐいと惹きつけられてしまう。N響の演奏姿勢がよい。このオーケストラによくあるルーティンワークではなく、極めて情熱的な演奏だったのである。

マエストロはシューマンの交響曲全集を2回録音していて、今1回目(バンベルク交響楽団との録音、1990〜1991年)を聴いているのだが、第3楽章などはN響との演奏よりもさらにテンポが遅く暗い表現なのが面白い。

 

オーケストラ、ゲノフェーファと交響曲第2番は16型、チェロ協奏曲は14型、もちろん対向配置。コンサートマスターはツートップで、前半のコンマスが郷古廉氏、後半のコンマスが川崎洋介氏。

 

それにしても、N響定期会員、こんないい演奏でも、演奏中終始プログラムをパラパラしているばあさんとか、終わったらろくに拍手もせずさっさと帰るじいさんとか、まあこんなものなのだろうか。まあこういう人たちも含めて定期が成り立っているのも事実だ。

 

現在のエッシェンバッハの円熟を感じさせる先日のブルックナーと今回のシューマンを聴けて感激である。オーチャード定期は行く気がなかったのだが、先日のブルックナーを聴いてチケットを買ってしまった。オーチャード定期のブラームスも期待大。

 

総合評価:★★★★★