東京・春・音楽祭 R・シュトラウス《エレクトラ》(演奏会形式/字幕付)を東京文化会館大ホールにて(18日)。

 

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

エレクトラ(ソプラノ):エレーナ・パンクラトヴァ

クリテムネストラ(メゾ・ソプラノ):藤村実穂子

クリソテミス(ソプラノ):アリソン・オークス

エギスト(テノール):シュテファン・リューガマー

オレスト(バス):ルネ・パーペ

第1の侍女(メゾ・ソプラノ):中島郁子

第2の侍女(メゾ・ソプラノ):小泉詠子

第3の侍女(メゾ・ソプラノ):清水華澄

第4の侍女/裾持ちの侍女(ソプラノ):竹多倫子

第5の侍女/側仕えの侍女(ソプラノ):木下美穂子

侍女の頭(ソプラノ):北原瑠美

オレストの養育者/年老いた従者(バス・バリトン):加藤宏隆

若い従者(テノール):糸賀修平

召使:新国立劇場合唱団

 前川依子、岩本麻里

 小酒部晶子、野田千恵子

 立川かずさ、村山 舞

管弦楽:読売日本交響楽団

合唱:新国立劇場合唱団

合唱指揮:冨平恭平

 

なかなか演奏される機会が少ないエレクトラ。東京・春・音楽祭では2005年に小澤征爾の指揮、デボラ・ポラスキのタイトルで上演されており、それ以来となる。

本公演、読響定期公演で2022年2月に上演予定だったがコロナ渦でキャンセル。その公演がそのまま東京・春・音楽祭2024で復活したということになる。主役級の出演者も当時の予定通りだ。

ほぼかぶりつきで聴いたというのもあるが、圧倒された。迫力ある素晴らしい公演だった!客席はかなり空席があったのだが本当にもったいない。エレクトラはそれほど人気がないということだろう。

今回、演奏会形式ながら基本的に振り付けがあって表情もオペラの上演そのまま、パーペ以外は全員暗譜であった。やはり、演奏会形式といっても直立不動で歌うよりは振り付けが会った方が表情も付けやすいだろう。

 

エレクトラを歌ったのはパンクラトヴァ。先日のワーグナー・ガラにおけるジークリンデ、ブリュンヒルデはまあまあだったが、エレクトラはさすが、脱帽である。この役、そもそも100分にわたりほぼノンストップで歌い続けるだけのパワーが必要とあって歌える歌手はかなり限られてこよう。強靱な発声、堂に入った演技、怒りみなぎる絶叫は恐怖さえ感じる。ネットで声量が弱いという指摘があったのだが、1階前方の私の席ではあまり感じられなかった。

しかし、存在感という点では妹クリソテミス役を歌ったイギリス出身のアリソン・オークスに軍配が上がるだろう。張りのある声で品があるが、実に力強い。サロメやイゾルデは歌っているようだから、いずれエレクトラ役も歌うのではなかろうか。この人もそばで見ていると過激なくらいの表情であった。

出番の少ないオレスト役にルネ・パーペ。豪華である。オレストという汚れ役にしてはいささか声に深みがありすぎて雄弁である。こういうことを言うのは贅沢か。

母親クリテムネストラ役は藤村実穂子。この役、すでに一線を退いた大歌手に与えられることが多く、2016年のバレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場ではヴァルトラウト・マイヤー、昨年のノット指揮東響ではハンナ・シュヴァルツが歌っていた。藤村さんはまだ現役だが、こういう役を演じるようになったのかと感慨深い。悪役クリテムネストラにしては藤村さんの声は凜としていて気高く、下品さが弱いという贅沢さよ…

ちょい役であるエギストにシュテファン・リューガマー、個性的なテノールでありこの人の声はさすが悪役っぽい。リューガマーは前述のバレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場公演で同役を歌っていた。

最初にたくさん登場する侍女たちを歌った日本人歌手たち、目の前で聴くと驚くほど上手い。ドイツ語の発音まで含めて上手い。欧米人の歌手と比べると、藤村さんを含め日本人歌手はかなり小柄であり、体格や骨格による歌唱の違いはどうしてもあるわけだが。そんななかで藤村さんのように頭一つ抜きん出て世界的歌手になる人はいったい何が違うのだろうか。そんなことを考えてしまった。

 

オーケストラ、弦は左から第1Vn、ヴィオラ、第2Vn、チェロが右手前でコントラバスが右奥という配置。私の席から見えなかったのだが、作曲者の指示通りであればヴァイオリンが8人×3群、ヴィオラが6人×3群、チェロが6人×2群、コントラバス8人だったはず(コントラバス8は見えた)。ヴィオラ奏者は曲中3回ヴァイオリン持ち替えするという常軌を逸した指示があるが、持ち替え現場を1回目撃できた。

ヴァイグレの指揮はドイツの名匠らしいオーソドックスなアプローチでツボを押さえたもの。オーケストラは思ったよりも柔らかく官能的な音色を聴くことができた。驚いたことにヴァイグレが常任指揮者に就任してから6年目に突入しており、こうしたドイツ音楽におけるその成果が現れているということか。

次の公演(東京・春・音楽祭2024最終公演)にも参加する予定。楽しみだ。

 

総合評価:★★★★★