東京春祭 歌曲シリーズ vol.38 ルネ・パーペ(バス)&カミッロ・ラディケ(ピアノ)を東京文化会館小ホールにて。
バス:ルネ・パーペ
ピアノ:カミッロ・ラディケ
モーツァルト:無限なる宇宙の創造者を崇敬する汝らが K.619
ドヴォルザーク:《聖書の歌》op.99
クィルター:《3つのシェイクスピアの歌》op.6
ムソルグスキー:《死の歌と踊り》
(アンコール)
R・シュトラウス:献呈
シベリウス:安かれわが心よ
シューマン:若者のための歌のアルバム 作品79より 第21曲子供の見守り
ドイツの名バス歌手、ルネ・パーペは今回の東京・春・音楽祭「エレクトラ」でオレスト役を歌うのだが、それに先立ち行われたのが今回のリサイタルである。会場にはその「エレクトラ」を指揮するゼバスティアン・ヴァイグレの姿もあった。
今回のリサイタルはなんとドイツ語、チェコ語、英語、そしてロシア語という4カ国語で歌われる曲で構成されている。ドイツ語の役が多いというイメージのパーペがロシア語の歌を歌うというのは少し意外だったが、考えてみれば彼は旧東ドイツ出身だから、きっと学生の頃ロシア語は必修だったはず。ボリス・ゴドゥノフも歌っているらしい。
パーペの声は深みがあって非常に品がある美しいバスであり、弱音からホールを揺るがすフォルテッシモまでのダイナミックレンジが広く、そしてその調節が巧みなのが特徴である。ホール後方にいてもかなりの音圧が感じられた。
ピアノのラディケは非常に達者な腕前で、ムソルグスキーの曲では極めて表情豊かでユーモラスな表現を聴くことができた。
正直かなり渋いプログラムで(バス歌手のリサイタルはそういうケースが多いが)、モーツァルト作品ですらかなり渋く地味。全体的にモノトーンの印象だ。
ドヴォルザーク作品は友人たちの死が創作の動機らしいし、クィルター作品の1曲目は「やっておいでよ、死よ」だし、ムソルグスキー作品はまさに死についての歌詞だし、死がテーマになっているプログラムであるように思われる。
ムソルグスキーの最後の曲「司令官」は戦場における死がテーマ。そして、アンコールで歌われたシベリウスの作品(英語の歌詞)は賛美歌だが、メロディはフィンランドの愛国歌であるフィンランディアということで、反ロシアのメッセージか?と勘ぐってしまったのだが、考えすぎだろうか。
アンコールの1曲目はR・シュトラウスの献呈だったが、バス用に移調されているのでだいぶ曲の印象は変わっていた。
地味な曲目ながら会場はほぼ満席。
総合評価:★★★☆☆