ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 VI を東京文化会館小ホールにて。

 

ベートーヴェン:

 ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 op.22

 ピアノ・ソナタ 第20番 ト長調 op.49-2

 ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13《悲愴》

 ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 op.79

 ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 op.53《ワルトシュタイン》

(アンコール)

 ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 op.31-2《テンペスト》より 第3楽章 Allegretto

 

ルドルフ・ブッフビンダーによるベートーヴェンのソナタ全曲演奏会6日目。

この日はドイツ・グラモフォンが始めた音楽配信サービス、ステージプラスによるライヴ配信があったため、ちゃんとしたカメラが客席後方左右(私の席のそばにも)、そしてステージそばとステージ上に置かれている。

https://www.stage-plus.com/ja/video/live_concert_9HKNCPA3DTN66PBIEHFJAD1O 

素人考えでは、録音や配信がない日に比べれば、録音されていたり、ライヴで配信されていたりする日の演奏の方が緊張するに決まっているし、準備も周到に行うだろうしカメラ写りも気にするだろうと思うわけだが、実は超一流の演奏家だと、そんなことは関係ないのかもしれない。

とはいえ、ブッフビンダー、「悲愴」の最後ではうなり声を出していたし、ワルトシュタインの第3楽章ではかなりアグレッシブに楽器にかじりつくような姿勢を見せていたから、案外あざとい人なのかも??

 

最初に演奏された11番、冒頭はやや音に曇りがあって旋律線が明確でなかったのだが、徐々に回復。

32曲の中で最も難易度が低く、ソナチネ・アルバムにも収録されている20番の美しさが際立っていて思わず嬉しくなる。音数が少ない平易な表情の中に、ウィーンの香りがほんのりと立ちこめる。第2楽章はベートーヴェンの七重奏曲第3楽章に転用されているが、ブッフビンダーの演奏は、ウィーン八重奏団が演奏するあの曲の優雅な表情を彷彿とさせる。

 

前半の最後に演奏された「悲愴」がこの日一番見事な演奏だったと思う。正攻法の表現で、ウィーン正統派のアプローチながら重厚感も兼ね備えている。第2楽章の心地よい低音と深い味わいがとてもよい。

 

後半1曲目、25番も平易な曲だが、こういう曲こそブッフビンダーは優雅に演奏できるのが素晴らしい。

最後に演奏された個人的に大好きな「ワルトシュタイン」。冒頭の和音の刻みの音が1つ多く聞こえたのだが気のせいか…ブッフビンダーの前へ前へと進んでいく姿勢の音楽がとてもクール。第3楽章コーダのプレスティッシモはかなりのスピードで、あのスピードでオクターヴ・グリッサンドをやるとは…そんなわけでちょっとだけ雑に聞こえてしまったわけであるが。

ブッフビンダーのFacebookに、このワルトシュタインのオクターヴ・グリッサンドの演奏法について解説があるが、まあこれを見ても、私にはこのグリッサンドは全く真似できない。

https://www.facebook.com/reel/6870062479769890

ベートーヴェンは性能の良い、新しいエラールのピアノを贈呈されて嬉しかったのだろうが、まあつくづくすごい曲を書いたものだと思う。

 

アンコールはテンペストの第3楽章、とても安定して気品のある演奏である。

いよいよ次回の後期3大ソナタで全曲演奏会は終了。

 

総合評価:★★★★☆