ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 V を東京文化会館小ホールにて。

 

ベートーヴェン:

 ピアノ・ソナタ 第2番 イ長調 op.2-2

 ピアノ・ソナタ 第9番 ホ長調 op.14-1

 ピアノ・ソナタ 第15番 ニ長調 op.28《田園》

 ピアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 op.90

 ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 op.57《熱情》

(アンコール)

 ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》より 第3楽章 Prestissimo

 

ウィーンの巨匠、ルドルフ・ブッフビンダーによるベートーヴェンのソナタ全曲演奏会の5日目。

いや、驚いた!!5日目のこの日の演奏、完璧な素晴らしい出来で、技術面でもほぼノーミスに近かったかもしれない。絶好調と言ってよいだろう。

1、2日目は比較的安定していたものの3日目で大きく乱れ、4日目で復調し5日目は完璧。いったい何があったのか。その日の天候とか、前の晩にいいものを食べていい酒を飲んだとか、十分睡眠が取れたかとか、あるいはピアノの調律師の仕事がよかったとか…音楽家のコンディションにはきっといろいろな要素が影響するのであろう。

 

ウィーンの音楽家らしい格調高くソフトなタッチは初日から変わらないのだが、それに加えてハーモニーのバランスがよく、低音が非常にいい音で鳴っている。3、4日目あたりはちょっと急き込むような表現も散見されたのだが、今回は非常に余裕があって旋律線も明確、音の濁りもなく安定の極み。

 

最後に演奏された熱情ソナタ、(残すところまだあと2回あるとはいえ)今回の全曲演奏会のなかでも白眉に相当する出来ではなかろうか。いや、今までに実演で聴いた熱情ソナタのなかでも最高の部類に属する演奏である。

低音の鳴りが雄弁で心地よい。そして、ブッフビンダーのベートーヴェン全般に見られる美質に加え、非常に情熱的で推進力に富んだ表現。特に第3楽章はぐいぐいと引き込まれてしまう、圧倒的に魅力的な演奏だった。多くの人がブラボーを叫ぶ(私もだが)。

 

アンコールに演奏された月光の第3楽章がまた雄弁で見事。初日の最後に演奏されたこの曲であるが、このアンコールの方が初日の演奏より印象が強い。

 

今回の全曲演奏会、残すところあと2回で、第6回は悲愴とワルトシュタインという名曲が並び、第7回は後期三大ソナタで締めくくられる。この第6回、第7回は名門ドイツ・グラモフォンの配信サービス「ステージプラス」によりネットで世界中にライブ配信されるという。なんか、すごい時代になったものだ。

 

総合評価:★★★★★