東京フィルハーモニー交響楽団第996回サントリー定期シリーズ。

指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)

 

ベートーヴェン/交響曲第6番『田園』

ストラヴィンスキー/バレエ音楽『春の祭典』

(アンコール)春の祭典〜大地の踊り

 

3年振りに聴くチョンと東京フィル。上記の通りの超名曲プロということもあり、3公演あるにもかかわらず、今回のサントリー公演は完売である。

 

今回の演奏、かなり満足度の高い公演であった!チョンの卓越した棒の巧さを久々に実感。

 

前半はベートーヴェンの田園。チョンはかつて東京フィルとベートーヴェンの交響曲全曲演奏会を開催し、CDにもなっている(2002年〜2004年録音)。実はこれが結構な名演で、エッジが効いていてかつ颯爽としたアプローチで、胸が空くような名演なのである。

https://artist.cdjournal.com/d/beethoven-the-complete-symphonies/4106101972 

そのことを思い出しつつ今回の演奏。編成は12-12-10-8-6通常配置。かつてのエッジを効かせた演奏とは異なり、どこか神がかっていて神妙な印象を与える演奏だ。チョンはここ10年ぐらいでこういうもってまわった演奏が増えていて、2017年のザルツブルク復活祭で聴いたフォーレのレクイエムは、あまりの遅さについて行けなかった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12265855271.html 

今回の田園、かつて「お化けが出そう」などと言われたフルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルの録音にちょっと似たところがある。とはいえ、テンポはフルトヴェングラーとは全く異なり、颯爽としていて飽きることがないし、コントラバスはしっかりブンブンと鳴っていて、低音の重厚感はなかなか。伸びやかなフルートとオーボエはとてもいい。嵐の部分のティンパニ強打はかなりのインパクトである。

 

後半は14-14-12-10-8に拡大して春の祭典。ここ数年で聴いたハルサイのなかでは出色の出来で、引き締まったフォルムにして密度の濃いサウンドがとても心地よい演奏である。そして、リズム感がとてもいい。前半もそうだったが、チョンはハルサイも当然のように暗譜だ。ハルサイを暗譜で振る指揮者、古くはカラヤン、小澤、現存する指揮者だと小泉和裕、ウルバンスキ、メータ、ノット、ドゥダメル…たぶんまだいるとは思うが(結構いるものだ)、素人の私からするととんでもなくすごいことなのである。

冒頭のファゴット、非常に息が長いのはチョンの録音(フランス放送フィル)と同じ。東京フィルの金管セクションはなかなかいい音を出している。東京フィル、著名歌手の伴奏や新国立劇場のピットでの演奏だと残念なことが結構あるのだが、今回はチョンの指揮ということもありかなりの水準。第2部最後のほうでホルンに若干キズがあったものの全体としては非常にレベルが高い演奏である。

 

それにしても、チョンの指揮姿のたたずまいには驚く。プロの指揮者は身体の軸がしっかりしていて動かないものであり、顕著な例が、この日のチョン・ミョンフンやパーヴォ・ヤルヴィ。今回の演奏、チョンは身体の軸がしっかりしていたうえに、肩から上はほぼ微動だにしなかったのである(特に田園)。肩から上に動きが出てきたのは、ハルサイの第2部の最後くらいだった。

音楽映画で、俳優が指揮者役をやるとここがうまくいかない。「のだめカンタービレ」の玉木宏はどうだったか覚えていないが、最近Netflixで見た「マエストロ:その音楽と愛と」ではバーンスタインを演じたブラッドリー・クーパーが見た目も声も驚くほどバーンスタインそっくりだったにもかかわらず、マーラー「復活」を指揮する姿は違和感満載だったのだ。なぜかというと、肩から上がぐらぐらと動いているからである。

終演後の拍手を抑えて、チョンはオーケストラに何か指示し、第1部エンディング「大地の踊り」を演奏したのだった。チョンのハルサイの演奏ではこのアンコールは定番。

 

総合評価:★★★★☆