読売日本交響楽団第635回定期演奏会を、サントリーホールにて。

 

指揮=山田和樹

尺八=藤原道山

琵琶=友吉鶴心

 

バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 BB 114

武満徹:ノヴェンバー・ステップス

ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 作品36

 

弦チェレ、ノヴェンバー・ステップスという20世紀を代表する名曲に、最後ベートーヴェン2番という不思議な構成である。

 

前半はバルトークの傑作、弦チェレ。16型ではあるが弦は2群で左右対称に配置され、中央にピアノ、奥にチェレスタ、後ろに打楽器群という配置である。冒頭のヴィオラのなまめかしい音が素晴らしい。

長尾洋史氏のピアノはいつもながらキレがよい。タクトを持たないヤマカズのしなやかな指揮姿は他の指揮者を思い出させることが多いのだが、4楽章あたりでちょっと小澤征爾を思い出させた…

 

休憩中に、その小澤征爾氏の訃報を知った。

後半の開始時にヤマカズがマイクを持って登場しスピーチ。小澤さんが亡くなったことと、小澤さんが日本人差別を乗り越えてノヴェンバー・ステップスの初演を行ったことなどを話した。黙祷することなども考えたが、音楽を楽しむことが先生の希望だろう、ということで、ノヴェンバー・ステップスの演奏を先生に捧げます、ということであった。

この曲は、ニューヨーク・フィル創立125周年記念作品の委嘱にあたり、当時同団の副指揮者であった小澤征爾が、正指揮者バーンスタインに対して武満徹への委嘱を進言したために生まれた作品だ。前の戦争が終わってまだ20年ちょっとだったこともあるのだろう、尺八と琵琶という日本の楽器にオーケストラの楽員は抵抗があったようだ。

さてこの曲も弦チェレ同様に2群のオーケストラで演奏される(14型)。指揮台の左に琵琶、左に尺八。

初演者小澤征爾指揮の録音(やはり初演者である鶴田錦史の琵琶、横山勝也の尺八、オケはトロント響)をもう何十回と聴いているわけだが、その演奏の鶴田錦史、横山勝也と比べても、今回の2名のソリストの演奏は実に見事で素晴らしかった。藤原道山の尺八は線が豪快で太く、非常に明快な印象だ。友吉鶴心(鶴の字があることからもわかるが、鶴田錦史の弟子)の琵琶も強弱の対比が見事で、実に味わいがある。

オーケストラの響きも幽玄で繊細、風がふうっと通り過ぎるような感覚が見事に表現されている。武満の音色の表現は、日本のオーケストラが一番上手いだろう。

余談だが、初演者の琵琶奏者鶴田錦史(ちなみに女性)はナイトクラブ経営などで財をなし長者番付に載るほどの実業家だったそうだ。琵琶奏者っててっきり渋い人生を送るものだと思っていたのだが…

 

最後の曲はベートーヴェン2番。ノヴェンバー・ステップス初演時、この曲がメインだったそうだ。

この演奏が実に面白かった!まあ、邪道だという人もいるかもしれないが。

16型の弦セクションは前2曲同様に左右対照に配置。ステーの一番前に第1ヴァイオリンが8人ずつ両翼に配置、その奥にヴィオラが6人ずつ両翼に配置され、指揮台正面に第2ヴァイオリン14人。チェロ、コントラバスはステージ奥に左右に均等に配置されている。そして、木管とホルンは倍管で各4名!

そのような編成だったため、音は極めて分厚く重い。最近ではなかなか聴くことができないスタイルだ。重厚ではあるが、ヤマカズの熱い指揮によって躍動感があるので、もったりすることがないのである。

第2楽章冒頭は弦のフォアシュピーラーだけで演奏したり、第3楽章ではリピート1回目を右の弦セクション、2回目を左の弦セクションで演奏するなど、細かいところで工夫がされていた。

 

というわけで、なかなか満足度の高い公演であった。後半舞台転換があったこともあり、終演は21時10分ごろになった。

 

総合評価:★★★★☆