東京都交響楽団第992回定期演奏会Bシリーズを、サントリーホールにて。
指揮/ジョン・アダムズ
弦楽四重奏/エスメ弦楽四重奏団*
ジョン・アダムズ:アイ・スティル・ダンス(2019)[日本初演]
ジョン・アダムズ:アブソリュート・ジェスト(2011)*
(エスメ弦楽四重奏団アンコール)
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番〜第2楽章
ジョン・アダムズ:ハルモニーレーレ(1984-85)
アメリカの作曲家、ジョン・アダムス(1947〜)の自作自演という贅沢なコンサートである。ジョン・アダムスは東海岸の生まれでハーヴァード大卒ながら、その後の拠点がサンフランシスコという、いかにも米国のインテリ作曲家である。その音楽は非常にわかりやすく、とてもクール。
この日演奏されたのは日本初演となるI Still Dance、2018年ピーター・ウンジャン指揮N響で日本初演され、2021年に原田慶太楼指揮東響でも演奏されたAbsolute Jest、そして2019年に初演者エド・デ・ワールト指揮N響で演奏されたことが記憶に新しいHarmonielehre。実に聴き応えある選曲である。
1曲目のアイ・スティル・ダンスはト短調のアルペジオが延々続く曲。サンフランシスコ交響楽団の音楽監督であったマイケル・ティルソン・トーマスとその夫(husband)であるジョシュア・ロビンソンに献呈されている。エレクトリック・ベースが重要な役割を果たす曲。16型。
2曲目はすでに実演で2回も聴いているアブソリュート・ジェスト。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲がコラージュのようにちりばめられているが、冒頭は交響曲第9番第2楽章を想起させるし、その他ベートーヴェン作品が色々と聞こえてくる。弦楽四重奏団の音は14型オーケストラでもやはり回りの音に埋もれがち。
エスメ四重奏団はアンコールでベートーヴェンの13番2楽章を演奏したが、どうも密度が薄く私には響かない演奏だった。
後半は3部から成る大作ハルモニーレーレ。3部につけられたタイトルもそうだが、聴いた感覚も映画音楽っぽいところがあって親しみやすい。全体の構成は後半に行くにしたがって音楽の緊迫感が増していき聴き応えある音楽だ。第2部の冒頭はシベリウスの交響曲第4番、第2部最後はマーラーの交響曲第10番、そして第3部冒頭はシェーンベルクのグレの歌の引用ということであろうか。16型。
ただ…彼の指揮、振っている姿は結構さまになっているものの、構成力とか音のバランスの調整、強弱の付け方とかは、やはりプロの指揮者にはかなわないと思う。彼の理解者であるマイケル・ティルソン・トーマスの実演や録音あってこそのジョン・アダムスなのだろうな、と痛感した。もちろん、ジョン・アダムスの音楽が素晴らしいのは言うまでもないことなのだが。
ちなみに指揮者としても一流である作曲家には、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズ、クシシュトフ・ペンデレツキ、エサ=ペッカ・サロネンなどがいる。あとあまり言われないが私がすごいと思っているのはタン・ドゥン。この人の耳の良さはブーレーズ並みにすごい。一方、自作自演がイマイチな作曲家はイゴール・ストラヴィンスキー、モーリス・ラヴェル…などが言われている。マーラーの自作自演がもしも録音で残っていたら、どんなに興味深かっただろうか!もう少し長生きしてもらいたかった。
いわゆる現代音楽のコンサートながらサントリーホールは満席に近かった。
総合評価:★★★☆☆